第4話「死ぬ理由」
私が死にたいと思い始めるようになったのは今から丁度一週間くらい前のことだった。
生きていることがどうでもいい、と思い始めたのだ。今でも生きていることはつまらないものだと思っている。
そのきっかけは自分でもよくわからない。でも、よくわからないなりにも、たぶんあれがきっかけなんだろうな、と思うようなことはある。
私はあまり他人の輪に交わろうとしていなかったから一人でいることが多かった。そして、だからなのかいじめを受けるようになっていた。
家に帰ったら誰もおらず、少し寂しい思いをしていた。
そして、楽しいと思えるようなことがなかった。
そんなことが、知らず知らずのうちに積み重なっていった。たぶん、どれか一つだけが私の身に起こっていることだったのなら私がこう思うことはなかったんだろう。
いじめられていた、と言っても無視ができる程度のものだった。親がいなくて寂しいのなら何か楽しめることを見つけていればよかった。楽しいと思えることがないというなら、その日その日をただ適当に生きていればよかった。
けど、いろんなことが積み重なってしまったから私は思ってしまったのだ。生きていることが、つまらない、と。私が生きていることに意味があるのかな、と。
そして、その結果が今日の行動だった。彼が私のことを助けなければここに私はもういなかったことだろう。海の中に沈んでこのつまらない世界に生きる意味のない命は消えていたことだろう。
けど、彼は私のことを止めたのだ。風に後ろから押されて崖から落ちそうになった私の腕を掴んで。
あのときは純粋に驚いた。こんなところにも人が来るものなんだ、と。
それ以上のことは考えてなかった。助けてもらえてよかった、と思うはずがないし、私を助けたことに対して怒りを覚えた、というわけでもない。
だから、彼に対してお礼は言わなかったし、怒ったりもしなかった。私は抵抗もせずそのまま助けられた。それに、そのときは私を助けたらすぐにどこかに行ってしまうだろうと思ってた。彼がどこかに行ってから今度こそ飛び降りてしまえばいい、と思った。
けど、彼は私の予想を裏切ってずっと私の傍にいた。彼にも彼の時間があるだろうに。
彼とはほとんど言葉を交わすことはなかった。私はあんまり人と話すのが得意ではない。そういう人は総じて自分から話しかけようとすることなんてないから彼も私と同じで人と話すのが得意ではないのかもしれない。
それなのに、彼はどうしてわたしなんかと一緒にいたんだろうか。彼が私を助けたとき怒っているような感じだった。もしかしたら、私が死のうとしていたのが許せないのかもしれない。私と彼は全く関係がないはずなのに。
それか、自殺、という行為そのものが彼は許せないのかもしれない。それは、彼自身の身に何かがあったのか、それとも単に彼が優しすぎるだけなのか……。
まあ、私にとってはどっちでもいいことだ。明日の昼。太陽が昇ってあの崖から見える海が照らされるとき私は今度こそ死ぬ。
今日見た赤い夕日は、明日が私の死ぬべき晴れた日を迎えると告げていた。だから、私は明日が楽しみだ。
明日は風に押されることなく自分から飛ぼう。私が自分から飛ばなかったから邪魔が入ったのかもしれない、と思ったから。