第34話「彼が関わる理由」
「お前、よくあんな所であれだけ寝れるよな」
彼が呆れたような声でそんなことを言ってきた。
「陽射しが暖かったからだと思います」
私は夕方の傾いた陽が差し込む住宅街の路地を一真君と並んで歩く。三柴先生は仕事があるから、と言って学校に残っている。
「俺がお前の迎えに行ったときにはもう日が傾き始めてたけどな。いつから寝てたんだよ」
「一真君達が出て行って少ししてからですから……一時半くらいからでしょうか」
「寝すぎだ。四時間近くも寝てるじゃねえか。まあ、起こさなかった俺も悪かったんだろうけどな」
私が目を覚ましたの五時を半分くらい過ぎた時だった。かなり気持ちよく眠れたような気がする。
「つか、そんなに寝て夜、寝れるのか?」
「さあ、わかんないです」
今は全く眠くない。
「……とりあえず、夜は大人しくしててくれよ?お前がうろついたりしてると俺が安心できないからな」
「……はい、わかりました」
何故だか、その言葉に抵抗しようとは思わなかった。躊躇は私の頑固さの表れ。結局、何も言葉が思いつかなかったら素直に答えてしまったんだけれど。
「なんか、嫌に素直だな。まだ、熱、あるんじゃないのか?」
そう言うと、彼は手に持っているスーパーを地面に置く。それには私と彼の約束が入っている。
彼は私の方へと体を向けると額に手を当てた。
少しだけ温かい彼の手が触れる。時々、道を行く人たちが私たちの方を見てくるけど、その理由が私にはわからない。
少し首を傾げそうになったけど多分、今動いたら彼に怒られてしまう。
「熱はないみたいだな。じゃあ、もしかして、諦めてくれたのか?」
「そんなことはないです。なんで、諦めないといけないんですか」
そうは言ったけど、本当はよくわからなくなっている。特に、彼の前だとそれが顕著に表れているような気がする。
「自殺をするような奴が気に食わないからに決まってるだろ」
「自分の考えを押し通すために人の行動を制限するのはどうかと思いますよ」
「何とでも言え。何と言われようとも俺は諦めるつもりはない」
「なら、警察、呼びますよ?」
「そのつもりなら、最初っから呼んでるだろ。つか、呼ぶにしても呼んだ後この食材、どうするつもりだよ。そんなことしたら、俺、料理作れないぞ?」
そう言いながら彼は地面に置いていたスーパーの袋を持ち上げて聞いてくる。
「えっと……」
私はその言葉に固まってしまう。本当に警察を呼ぶつもりなんかないけど、性格上そう簡単に言葉を覆すことはできない。だけど、彼の料理は心底、楽しみにしている。だから、そうやって料理のことを言われるとこれ以上、変な意地も張っていられなくなる。
「……じゃあ、呼びません」
結局、折れてしまった。でも、おかしい。これは私の言動じゃないはずだ。
「お前、本当に大丈夫か?いつもよりも素直すぎないか?」
彼も私の言動に違和感を感じているようでなんだか私のことを本気で心配しているようだ。私のことを青い瞳で私の体調を観察するように見てくる。
「大丈夫です」
「……本当か?」
「はい」
彼の言葉に私は頷く。私がいつもと違うのは私自身気が付いてるけど、どうして彼はそんなに心配するんだろうか。
「なんで、そんなに私のことを気にかけるんですか?」
「お前のことが心配だからに決まってるだろ」
「なんで私のことが心配なんですか。その理由を教えてください」
私がそう聞くと、彼は少しの間黙ってしまう。
「……さあな、俺自身わからない。まあ、たぶん、お前が死のうとしてたのを今まで見たことがあるからだろうな」
彼はそう答えてくれたけど彼自身、その答えには納得できていないようだった。あまり、彼らしくないように思う。
そんなことを思っていると、彼が勝手に歩きだしてしまった。
「あ、待ってください」
私は先に行く彼を追いかけた。