第33話「理解できないこと」
暖かな日が差し込んでくる午後の頭。部屋の中にいるのは私だけだ。
一真君と麻莉さんは昼食を急いで食べ終えると急いで教室の方へと戻って行った。三柴先生も授業があるから、と言ってつい数分前に出て行った。
今なら、誰に咎められることなく部屋から出て行くことができる。ここから、出て行けばあの場所へと行くこともできる。
だけど、なんだかそうする気が起きない。だから、というわけではないけどソファの上に横になっている。私が横になっているソファは陽の光が当たって眩しいけど動く気が起こらない。
三柴先生は私がこうして部屋から出て行かない、ということがわかっていたんじゃないかと思う。そうじゃなかったら、今もこの部屋にいるだろうから。
なんだか、三柴先生には敵わないような気がする。あの人が考えていることがはっきりとわかったことなんて今まで一度もないから。
昼食を食べながらも考えてみたけど、結局、三柴先生の言ったことの意味は全く分からなかった。三柴先生に聞いてみたりもしたけど、はぐらかすばかりで答えてはくれなかった。
普段の私ならひとつのことをこうやってうじうじと考えたりはしない。わからなければ、すぐに考えるのをやめる。それが、私の考え方のはずだ。
それなのに、考えるのをやめないのはどうしてだろうか。そのことも考えて、思考が無限に循環する。
私は思考を断ち切るように勢いよく頭を振る。顔に髪がかかったりしたけど気にしない。
けど、それで考えるのをやめる、ということはなかった。この程度で考えるのをやめるなら生活自体に問題が出そうだし。
「はあ……」
なんとなしについたため息は誰もいない部屋の中に溶け込んでいく。ただ、虚しくなっただけだった。
「何なんだろ……」
小さく、そんなことを呟く。だけど、答えてくれる人は誰もいない。
本当に何なんだろうか、これは。考えるのをやめたいのにやめられない。でも、思考が空転するだけで何の進展もない。
額に手の甲を当てて天井をぼんやりと見つめる。
そうしていると、思い出すのは三柴先生の私が一真君に気があるんじゃないか、という言葉。
私はそんなことないと思っているけど、何故だか意識の端に引っ掛かる。
だったら、気にしてるのと変わらないじゃないか、と思うけどこのまま素直に認めてしまうのも癪だ。
私は気分を変えるように体の向きを変える。そうすると、横倒しの視界の中に調理台が入ってきた。
そういえば、今日の夕食は一真君に作ってもらうことになっている。
彼はスパゲティを作ってくれる、と言っていたけどどんなものを作ってくれるんだろうか。
ミートスパゲティなのか、カルボナーラなのか、ナポリタンなのか、それとも彼のオリジナルのものなんだろうか。何にしても彼が作ったものなら何であろうとも美味しいんだと思う。昨日の彼の料理からそれだけはわかる。
そんなふうにして、彼に料理を作ってもらえる、ということを考えていたら頬が緩んでいることに気がついた。
すごく、楽しみだ。さっきまでうじうじと悩んでいたのが嘘だったみたいに清々しい気持ちになる。
さっきまで眩しいと思っていた太陽の光もそれほど嫌なものじゃなくなっていた。むしろ、暖かくて気持ちがいい。
ぼんやり、と宙を見つめる。何かが見えるわけではないけど、これ以外にすることがない。
そうしていると、眠気が襲ってきた。それは、私にとって好都合だった。このまま起きていても暇なだけだ。
だから、私は、その眠気に身を委ねて、瞼を閉じた。