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第30話「真夜中にて」

 目を開けて最初に目に入ったのは壁だった。真っ暗だけどそれくらいはわかる。どうやら、寝ている間に寝返りを打ったようだ。

 私は転がって反対側を向こうと思ったけど何かにぶつかり転がることが出来なかった。

 なんだろう、と思って体を少し浮かせたりしながら体の向きを変える。

 私はそこにあったものを見て驚いてしまった。

 私の目の前に三柴先生の顔があった。なんでこんなところにいるんだろう、と思うが思うだけで答えてくれるはずがない。というか、寝ているので声に出しても答えてはくれないと思う。

 間近にある三柴先生の寝顔は起きている時よりも幼く見える。かなり無防備だ。

 この顔を見てこの人が先生だと思う人はいるんだろうか。

 いや、それよりもどうしてこの人は私のベッドで寝てるんだろうか。でも、そういえば一昨日はこの人は私と同じベッドで寝ていた、と言っていた。

 だったら、三柴先生がここで寝ているのは当然のことなんだろうか。いや、でも昨日は別の所で寝てたし……。

 ……まあ、なんでもいっか。特に何かがあるわけでもないし。これが愛理さんとか麻莉さんとかだったら大変なんだろうな。

 そんなことを考えてたら悪寒が走った。あんまり変なことは考えないようにしよう。精神的にあんまりよくない。

 そういえば、この人は自分の家に帰らなくてもいいんだろうか。三柴先生は私に関わり始めてからずっと私の家で寝泊まりしているような気がする。

 と、三柴先生の後ろに一真君の姿が見えた。彼は椅子に座って眠っている。肩からは毛布をかけているけど少し寒そうだった。

 あんなので風邪を引いたりしないだろうか、もう一枚くらい毛布があったほうがいいんじゃないだろうか、と思ってしまう。

 でも、今動いてしまうと三柴先生を起こしてしまうかもしれない。

「……金崎さん、どうしたのかしらー?」

「……っ!」

 突然、目の前から小さな声が聞こえてきて驚いてしまった。もう少しで声をあげそうだった。

「……金崎さん、寝られないのかしらー?」

 三柴先生が至近距離で私の顔を見ている。私は少しだけ三柴先生から距離を取る。

「……ただ、目が覚めただけです。寝られない、ということはないです。……あの、三柴先生、起こしてしまいましたか?」

私も小声で答える。彼までも起こすわけにはいかない。

「……まあ、そうねー。また、あなたに逃げられるわけにはいかないから、些細なことがあっても起きるようにしてたのよー。だから、私が起きたことをあなたが気にする必要はないわー」

 それは、何か特別な訓練を受けていない一般人でも出来ることなんだろうか。……できないような気がする。

 まあ、そんなことはどうでもいい。もし、私のせいで三柴先生が起きてしまったのだとしても私にはどうすることもできない。

 それよりも、三柴先生が起きてるなら、今のうちに一真君にせめて何か一枚体を温めるものをかけてあげないと。

 そう思って私はゆっくりと起き上がろうとする。

「……どこかへ行くのかしらー?」

「……一真君にもう一枚、何かをかけてあげるだけです。風邪を引かれたら嫌ですから」

 私のせいで彼が風邪をひいてしまった、となればあんまりいい気はしない。人に迷惑をかけない、それが私の信条なのだから。

 でも、今までの私の行動を考えてみればそんなものを気にするのは今さらなような気がする。特に彼に対してはたくさん、迷惑をかけてきたと思う。

 だからと言って、彼に風邪を引かせてもいい、と言うわけではない。むしろ、迷惑をかけてきたからこそ、これ以上は迷惑をかけたりしたくない。

 だから、私は布団の中から出る。出る時は、三柴先生に上を通ることを謝っておいた。

 何かないだろうか、と部屋の中を見回して私が一度起きてから着たカーディガンが適当にかけられているのを見つける。

 あれでいいか。そう思ってカーディガンを手に取って、椅子に座って眠っている彼に近づく。

 彼を起こしてしまわないように、とゆっくりと彼の肩にカーディガンをかけてあげる。

「……なに、やってるんだよ。こんな真夜中に」

 手を離そうとした瞬間に彼の口が動いた。なんとなく予想はしていたので驚くようなことはなかった。

「一真君に風邪を引かれたら嫌なので、布団の代わりに何か、かけてあげようと思ったんです」

 三柴先生も彼も起きているなら声を潜める必要性をあんまりないから少しだけ声の大きさを大きくした。

「そうか……。でも、早く寝ろよ。お前はまだ風邪が治りきってないんだからな」

 ぶっきらぼうな口調だったけど彼の声は少しだけ気遣うような色を帯びていた。

「はい。でも、寒くなったら言ってくださいね。毛布でもなんでも持ってきてあげますから」

「ああ、わかったから、早く寝ろ」

 今度は突き放すような口調で言われた。でも、いつものことだから気にはならない。

 ベッドで横になっている三柴先生に寄ってもらって私が寝る場所を作ってもらう。

 私はそこに横になり、布団の中に入る。

「……何かが、変わってるわねー」

「……え?どういうこと、ですか?」

 私だけに聞こえるような小さな声で言われた言葉の意味がわからず、私はそう聞き返す。

「……そのままの意味よー。あなたの何か、が変わってるのよー」

「……何か、って何ですか」

「……それは自分で考えてほしいわねー。時間がある時にじっくりとねー。まあ、今から考えてみるのもいいんじゃないかしらー?」

 私は寝るから、おやすみなさいー、とそう言って三柴先生は目を閉じてしまう。

 私も寝よう、と思った。だけど、昨日か今日かはわからないけど一日中寝ていたせいか眠気はほとんど感じなかった。

 目をつむって眠ろうとしてみるけど眠気は一向にやってこない。

 諦めて目を開く。それから、私は寝返りを打って彼の方に顔を向けてみる。最初に私が寝ていた場所とは違って彼の姿がしっかりと見える。

 今、彼は眠っているのか、それとも起きているのかどちらなのかはわからなかった。だけど、眠っていないにしろ寝ようとしているのは確かだ。話しかけるつもりはないけど、話しかけるのはやめておこう、と思った。

 彼の顔を見ていても面白いことなんてこれ一つしてない。だから、少し考え事をしてみようと思った。三柴先生に言われた、私の変わった何か、について。

 私の何が、変わったんだろうか。とりあえず、外面的なものではないような気がする。なんとなくだけど、内面的なものだとは思う。見かけが数日の間に目に見えて変わるとも思えないし。

 なら、私の内面的なものが変わったとして、具体的にどこが変わったんだろうか。

 心の中の変化なんて言うのは本人が一番気がつきにくいことなんじゃないだろうか。今まであまり他人に興味を持たず自分自身にもあまり興味を持ってこなかったから、その予想が本当に正しいのかどうか、というのはよくわからない。

 でも、とにかく私は自分自身では何かが変わった、とは感じない。もしかしたら三柴先生の勘違いで本当は何も変わっていないのかもしれない。

 私は答えを求めるようにもう一度寝返りを打つ。

 だけど、三柴先生は静かに寝息を立てていてすっかり眠ってしまっていた。じいっ、とその顔を見つめてみる。だけど、私に人の思考を読み取る力なんてないので何かがわかることなんてなかった。

 それから、また寝返りを打つ。今度は彼の方でも三柴先生の方でもなく天井へと顔を向ける。

 天井がぼんやりと見える。天井の境界が曖昧で本当にただ「ある」ということしかわからない。

 そういえば、私の部屋の天井はどんな感じのものだっただろうか。あまり見ることがなかったからわからない。

 覚えていたら明るくなった時に見てみよう。そんなふうにぼんやりと思ったのだった。

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