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第26話「看病」

 扉の開く音がした。

「一真、千智ちゃんの様子が気になったから見に来てあげたわよ」

「なんで仕事があるのにわざわざ来たんだよ」

 美沙都さんと一真君の声が聞こえてくる。

「大丈夫よ。今は昼休みに入って暇なときなのよ。それに、一真だって大丈夫なのかしら?学校、休んで」

「問題ない。一日くらいの遅れなら簡単に取り戻せる。それに、こいつを放っておくわけにはいかないだろ?」

「まあ、何をしでかすかわからないものね、この子は」

「そうだろ?」

 目を開けてみると一真君と美沙都さんの姿が見えた。彼は私のベッドの隣でイスに座っていて、美沙都さんは彼の隣に立っている。

「あら、悪いわね。起こしちゃったかしら」

 私が目を覚ましたことに気がついたらしい美沙都さんがそう言う。それにつられるようにして彼も私の方へと顔を向ける。

「ああ、悪い。うるさかったか?」

「……別に、そんなこと、ないです」

 思ったよりも弱々しい声が口から出てきた。体もかなりだるくなっている。

「じゃあ、喉、渇いてないか?」

「……少しだけ、渇いてます」

「わかった。ちょっと、待ってろよ」

 そう言うと、彼は立ち上がって早足で部屋から出ていく。それから、とたたたた、といった感じの軽快な足音が聞こえてくる。どうやら、彼は階段を駆け下りていったようだ。

「ふふ、なんだか、妹を心配する兄みたいね」

 美沙都さんが微笑みながらさっきまで一真君が座っていたイスに座る。

「千智ちゃん、調子はどうかしら?」

 美沙都さんが私の額に手を置く。美沙都さんの手はひんやりとしていて気持ちよかった。

 そう思うと同時に、やっぱり自分は熱を出しているんだな、ということを再確認した。

「う〜ん、三十九度前後かしら?まあ、なんにしろ安静にしているべき体温ね」

「……あの、それだけで、体温、わかるんですか?」

「まあ、大体はわかるわよ。たくさんの患者の相手をしてたらある程度の体温なら触っただけでわかるようになるわよ。でも、正確にわかるわけじゃないから、普段は体温計で測ったほうが賢明ね」

 そう言って手を離す。少しだけ名残惜しさを感じたけど、表には出さないようにする。

「……じゃあ、なんで、わざわざ、私の、額に、手を、当てたんですか?」

「それは、あなたを安心させようと思ってよ。こうすると安心する人、って結構多いのよ。とは言っても、それはされる側が心を許してる場合に限るのだけれどね。……一真にそうされたほうがよかったかしら?」

「……別に、誰に、されても、安心なんて、しません」

「ふふ、どうかしら」

 何故かおもしろそうに笑われてしまった。どうして笑われるのか、その理由がわからない。

 とりあえず、何か言い返そう、そう思ったとき彼が、戻ってきた。手にはコップが握られている。

「ほら、水、持ってきてやったぞ。今、起こしてやる」

 彼はコップを机の上に置く。それから、私の背中あたりに手を回す。

「あ、あの、自分で、起きれますから、大丈夫、です」

「なに言ってるんだよ。お前は病人なんだ。おとなしく他人に甘えとけ」

 そう言って彼は私を抱き起こす。それから、コップを私に手渡す。

 私はなんだか落ち着かなさを感じて無言でコップに口をつけ、中のものを口の中へと含む。

 それは、薄められたスポーツ飲料だった。喉が渇いている私にとってはちょうどよかった。

 私はゆっくりとそれを飲み干し、「……ありがとう、ございました」と言いながらコップを彼に返した。

「あと、他に何かいるものとかあるか?」

「……別に、ないです。まだ、もう少し、寝ていたいです」

 体が睡眠を欲する。まぶたが重くなり、勝手に閉じようとしていく。

「そうか、わかった」

 彼は頷くと私をゆっくりと横にする。それと同時にまぶたが勝手に閉じる。

「ゆっくり、休めよ」

 意識が落ちる前に聞こえた彼の声に何故だか、優しさが込められていたような気がした。

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