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第25章「びしょ濡れの帰宅」

 彼が私の家の扉を開ける。

 家の中には誰もいないようで電気がついていなかった。そう言えば彼は三柴先生も私のことを探している、と言っていた。あの人はちゃんと傘をさしているんだろうか。

「おい、早く入れよ」

 先に玄関に入った彼がそう言う。結局、今回も逃げる隙はなかった。

 仕方なく私は中に入る。そうすると扉が閉められた。それと同時に雨の音が遠くのものとなった。

 それから、彼が玄関の電気をつける。

 それに伴って私たちの今の状態を確認することができるようになった。

 私たちは全身が雨で濡れてしまっていて髪や服から滴る水滴が玄関を濡らしてしまっている。私の家に靴にこだわるような人はいないから靴に被害はない。

「……くしゅんっ」

 寒気を感じてくしゃみが出た。自分の体が小刻み震え始めているのがわかった。

「早く温かくした方がいいな。……まずは、シャワー浴びてこい」

 そう言って彼は私の背中を押す。ここで抵抗をしても意味がない。それに、この寒さは嫌だから早くどうにかしてしまいたかった。だから、私は素直に彼の言葉に従い靴を脱いで家に上がった。

 廊下が水滴で濡れていくけど気にしない。濡らさないようするのは無理だろうから。

 まずは、着替えを取ってこないといけない。ずぶ濡れの服をもう一度着るのには流石に抵抗を感じる。

「って、おい。どこに行くつもりだよ」

「え?着替えを取りに行くだけですけど」

 私は振り返ってそう答える。

「そんなのは俺が取ってきて置いてやるからさっさとシャワー浴びてこい。お前、寒いんだろ?」

「そんなこと、ないです……」

「嘘つけ。体が震えてるのわかるぞ。……まあ、抵抗があるのはわからないでもないけどな」

 いつのまにか家に上がっていた彼が私を脱衣所兼洗面所へと押し込み彼は部屋から出て扉を閉めた。

「あんまり、長くは浴びるなよ。冷えた体を温める程度いいからな。あと、体はちゃんと拭けよ。体が冷えるぞ」

 そんな注意を扉の外からしてくる。

 と、がちゃり、と扉の開く音が聞こえてきた。

「金崎さんは見つからなかったわー」

 それは三柴先生の声だった。

「先生、いい所に戻ってきたな」

「あら、上原君びしょ濡れじゃないー。……その様子だと金崎さんは見つけられたようねー」

「俺を見て見つかったかどうかがわかるのか?」

「ええ、わかるわよー。これでも観察力は人よりも優れていると自負しているのよー?」

「そうかよ」

「なんだか素気ない反応ねー。まあ、あなたの反応なんて気にしてはいなかったのだけれどねー。で、その金崎さんはどこにいるのかしらー?」

「体が濡れて冷えてるだろうからシャワーを浴びてもらってるんだ。先生、千智の着替えを取ってきてくれるか?」

「ええ、わかったわー」

「……あ、持ってくるのは寝巻に適したものにしてくれ」

「ん?どうしてかしらー?」

「あいつが熱出してるからだよ。そんなやつを学校に行かせるわけにはいかないだろ?」

「それは確かに行かせるわけにはいかないわねー。じゃあ、今日は金崎さんには家の中で大人しくしてもらっていないといけないわねー。……って、あら?どこに行くのかしらー?」

「家に着替えに行く。どうせ、俺の家はここから近いからな」

 そこで、扉が開く音が聞こえた。

「そうだ。千智がシャワーを浴び終えたら寝かしててくれるか?あいつ、放っておいても寝そうな感じじゃないからな」

「なんだか保護者みたいな言い方ねー」

「確かに、そうかもしれないな。まあ、それよりも頼んだからな」

「ふふ、私に任せておきなさいー」

 そして、聞こえたのは扉の閉まる音。彼はこの家から出ていったようだ。

 そこまで認識したとき、

「くしゅんっ」

「金崎さん、早くシャワー、浴びた方がいいわよー。風邪をひいているなら風邪が悪化するだろうからー」

 扉越しに私へと向けられた声。彼と三柴先生の会話に耳を傾けていたせいでこれからシャワーを浴びようとしていたことを忘れてしまっていた。

 とりあえず、私はシャワーを浴びるため、服を脱ぎ始めた。



 先生が寝巻として用意していたのは淡い水色の袖やスカートの裾にフリルのついたワンピースだった。これは、親が勝手に用意していた寝巻の一つで今まで着たことはなかったものだ。

 私の親はたくさんの種類の服を用意してくれている。けど、その全てを着たことはない。クローゼットの一番取りやすい所にかけてあったものを着ている。だから、奥の方にある服は今まで一度も着たことのない服だ。

 三柴先生の用意した服を着てみると袖が長く手の三分の二が隠れてしまっていた。それに、スカートの裾も長く変に足にまとわりついた。確かにこれは寝巻用だ。この服で外を歩くのは難しそうだ。

「なんだか、大きいわねー。まあ、寝るのには問題ないとは思うけれどねー」

 シャワーから出てきた私を見た三柴先生の第一声はそれだった。

「じゃあ、上原君にも頼まれてるし、私も金崎さんには早く風邪を治してもらいたいから今すぐに寝てもらうわよー」

 そう言うと三柴先生は私の返事も聞かずに私の手を掴むと私を引っ張って進み始めた。どうやら、先生も私が逃げようとするだろう、と思っているようだ。

 なんだか、そう思うと先生がこの服を選んだのは単なる気まぐれとかそう言うんじゃなくて私が逃げづらくするために選んだように思えてしまう。

「……」

 私は無言で三柴先生についていく。体を温めたせいか少しだけ意識がぼうっと、してき始めている。

 私も三柴先生も喋らない。そのまま、三柴先生を先頭にして階段を上っていく。

 いつもなら何の苦もなく上がれる階段も今日は少しだけ辛かった。

 そんな階段を上がりきると私の手を掴んで前に行っていた先生が扉を開ける。そして、先生が部屋に入り、私はそれに続いた。

「自分で横になってくれるかしらー。私一人であなたを横にすることはできないと思うからー」

 言うと同時に私の手を離す。私は自然とその言葉に従いベッドへと近づいていく。その間にだるさと眠気とが現れてくる。

 私はベッドのすぐそばまで来ると布団の中にもぐりこんだ。その途端に、だるさが引き、その代りに眠気が強くなる。

 三柴先生が近付いてきていた。私の方へと向けて手を伸ばしてきたと思ったら布団を整え始めた。

「安静にしてるのよー。もし、逃げだしたりしようとしたら川里さんを呼んでくるわよー」

 なんで美沙都さんと同じような発想なんだろうか。無差別に襲いかかるつもりはない、とは言っていたけどどこまで本当なんだろうか。

 でも、もともと逃げるつもりなんてないからそういうことを言っても無駄だ、と思う。口にはしない。それをするのが億劫になるくらいの眠気が私の意識を塗りつぶそうとしている。

「金崎さん、おやすみなさいー」

 私はその声に反射的に頷いて、すぐさま私の意識は眠気に塗りつぶされた。

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