第21話「仲はよくない」
辺りが暗くなり始めている。今日もそろそろ終わってしまう、と言う事を告げている。結局、今日もまた死ぬ事が出来なかった。
ちなみに今、私は外を一真君と三柴先生と一緒に歩いている。三柴先生と一真君は食材の入ったスーパーの袋を持っている。私の家に食材がほとんどなかったから買った、というのは三柴先生の弁だ。
どうやら、少なくとも三柴先生は今日もまた私の家に泊まるようだ。一真君はどうだかわからないけど、たぶん、彼も泊まるつもりなんだと思う。
なんで、こんなことになるんだろうか。なんだかいろいろとずれてしまっているような気がする。
「金崎さん、今日は夕食を作るの、手伝ってくれるかしらー」
「……別にいいですけど。なんでわざわざ私の家で料理をする必要があるんですか。自分の家に帰ってください」
「それが私のやり方だから、というのだと理由にはならないかしらー?金崎さんみたいな一人暮らしの子や家に一人でいることが多い子にはこうして接してきたわよー」
「……今まで追い出されたりしたことって、ないんですか?」
「ないわよー。私が担当する子は寂しがり屋な子が多いのよー。……まあ、金崎さんは違うみたいだけれどねー」
私が三柴先生が今まで関わってきた人たちと違う、と言うのは彼女も何度か言ったことがある。それに、自覚があるから何を言われても対して感情が動くことはなかった。
だから、三柴先生に対してはこれ以上何も言うことはなかった。
「……一真君も今日も泊まるつもりですか?」
とりあえず、もう一人にも聞いておく。今さら一人も二人もそんなに変わらないような気がするけど。
「そうだな。先生がいるなら今日はやめておく。昨日は姉さんに顔を合わせてないからな。まあ、お前が泊まってほしい、っていうなら泊まってもいいけど、どうせ、そんなこと言うつもりはないだろ?」
「そうですね。早く帰って美沙都さんに顔を見せてあげてください」
どうやら、彼は泊まらないようだ。
「それなら、夕ご飯はどうするつもりなのかしらー」
「家で食べる」
「そう、それは残念ねー。まあ、お姉さんはちゃんと大切にしたほうがいいわよねー」
一応、弟のいる三柴先生が言うとなんだか要望のように聞こえる。この場にはいない洋介さんに対しての。
でも、あの人は結構三柴先生のことを大切にしているような気がする。電話で呼び出されたらちゃんと来るんだから。三柴先生は今よりも更に大切にされたいんだろうか。
うーん、と悩みかけたけど、気にすることでもないような気がしたから、考えるのはやめた。実りのないことに無駄な労力を費やそうとは思わない。
「じゃあ、先生、千智のことを頼むな」
「ええ、わかったわー。上原君の金崎さんは私が預かっておくわー」
「私は一真君のものじゃないです」「いつから千智が俺のものになったんだよ」
私と彼の声が重なった。
「……まあ、でもこいつは誰かの所有物になってた方が安心だけどな。誰かが四六時中こいつの行動を見張ってないと不安だ」
「私は誰のものになる気もないですし、誰かに見張られる続けるのなんていうのももっと嫌です」
「お前の言葉を聞く気はないな」
「別に私の言葉なんて聞いてくれなくていいですよ」
「ふうん、じゃあ、誰かに見張られてたりしててもいいのか?」
馬鹿にしたように鼻で笑われる。
「それは嫌です。それに私は聞いてもらおうとは思ってないだけです。だから、もし、私のことをずっと見張り続けるというんでしたら私はその見張りから逃げてみせます」
「そうか、まあ頑張るんだな。今もお前には見張りがついてるようなものだから、逃げれるもんなら逃げてみろ」
確かにそう言われればそうだ。見張られている、という感じがしなかったし昼は曇っていて逃げるつもりがなかったからそんなふうには思っていなかった。
そんなふうに自分が今日どんな状況でいたのか、ということを再確認しながら、
「そうですね。それなら、明日は必ず逃げ出して私のやりたいことをやって見せます」
そう宣言した。
やりたいこと、というのは言うまでもない。自らを殺す、それだけだ。
私の宣言に対して彼は何も言い返してこない。私を逃がさない自信があるからあえて何も言い返さないんだろうか。
「……なんだか二人とも私のことをおいて楽しそうねー」
不意にそんな声が聞こえてきた。その場の雰囲気に乗り遅れた人のような声だった。というか、そのまんまなんだろうけど。
「別に楽しくなんてないですよ」「楽しくなんてないな」
再び私たちの声が重なる。
「じゃあ、仲がいいのかしらー?」
「どうやったら仲がよさそうに見えるんですか」「なんでそんなふうに見えるんだよ」
またまた声が重なってしまう。私は彼の方を見る。彼も私の方を見てきて向き合うような形になる。
けれど、すぐにお互いに顔をそらしてしまう。お互いに特に言うこともない、ということだろう。
「あなたたちって見ていて面白いわねー」
三柴先生がそんなことを言ったけどそれに答える人は誰もいなかった。