第14話「気がつくと朝」
気がつくと朝になっていた。しかも、何故だか私は自分のベッドの上に寝かされていた。布団もしっかりと掛けられている。
彼が運んでくれたんだろうか。ここは二階だから運ぶのは面倒くさかっただろう。
と、そこでいい匂いがしてきていることに気がついた。
甘い匂いと香ばしい匂い。どこからしてきているんだろうか。近くからしてきている、ということはわかるけどそれがどこからなのか、というのはわからない。
ただ、美味しそうだな、とそう思った。そして、そう思うと同時に私のお腹が音を立てた。その途端に空腹感も感じ始める。そういえば、昨日の朝から何も食べていない。
死にたい、とは思っているけど、餓死をしたいとは思わない。というか、自殺の方法として何も食べない、という事をするような人がいるんだろうか。自分の考えを通すために断食をした、って言う人は聞くけど。
とりあえず何か作ろう、と思い体を起こす。でも、よく考えてみれば食材はもうなくなっていたかもしれない。
うーん、と冷蔵庫の中身を思い出そうとして見るけど記憶がぼんやりとしていて思い出せない。何にせよ冷蔵庫の中身を確かめてこなければならないようだ。
私はゆっくりと床に足をつける。床の少し冷たいのが何となく気持ちいい。
不意に、誰かが階段を上がる音が聞こえてきた。
一瞬、別の音を聞き間違ってるんじゃないだろうか、と思ったけど疑いようもなくそれは人間が階段を上がっている音だ。
少しずつその音が大きくなりながら近づいてくる。誰だろう、とは思わなかった。彼が、一真君が上がってきているんだろう、と思った。昨日、鍵を無理やり開けるとか何とか言っていたから。
私は彼がこの部屋に来るまでベッドに腰かけていることにした。彼に言いたいことが少しだけあるから。
こんこん、と扉がノックされる。私はそれに答えず扉の方を見ている。
数秒の沈黙の後、扉が開けられた。そして、そこにいたのは私の予想通り、一真君だった。
「なんだ、起きてたのかよ。だったら、返事くらいしろよ」
ため息をつきながら彼は部屋に入ってきた。
「なんであなたがここにいるんですか?」
「朝ご飯が出来たからお前を呼びに来たんだ」
え?と、一瞬動きを止めてしまう。どういうことなんだろうか。
いや、それは後でいいか。彼が答えたことは私が聞きたいのとは違うものだった。どうやら彼は私にどうして私の部屋にいるのかと聞かれた、と勘違いをしているようだ。
「私が聞きたいのはそういうことじゃないです。私が聞きたいのは、どうしてあなたが私の家にいるんですか?、ということです」
「昨日、あのまま勝手に泊まらせてもらった。勝手に鍵を持って帰るわけにもいかなかったからな」
そう言いながら彼は私に向けて何かを放り投げた。反射的にそれを両手で受け取る。見てみるとそれは私の家の鍵だった。目印になるようなものはないけどそのはずだ、たぶん。
「それ、玄関のドアに挿さったまんまだったぞ。まあ、抜く暇なんてなかったんだろうけど、気をつけろよ」
注意までされてしまう。私はそれを適当に聞き流して鍵をポケットの中におさめた。当然ながら服は昨日のままだ。
「ほんとに、泊まったんですか?」
なんとなく彼の言葉が信じられなくて確認を取るようにそう聞いてしまう。
「ああ。後、あの先生もな。つか、あの先生、お前の隣で寝てたんだけど、知らないのか?」
「隣、って。三柴先生、このベッドで寝たんですか?」
「そういうことだな」
「……一真君も、ですか?」
「そんなわけないだろ。俺は下で椅子に座って寝てたよ。つうか、そのベッドだとどうみても二人が限界だろ」
「それもそうですね」
自分がいつも使っているベッドを見て答える。確かに二人で寝るのが限界のように見える。
「それよりも、朝ご飯だから早く降りるぞ」
そう言って彼は私の返事を待たずに踵を返して部屋から出て行ってしまう。私はどうしようか、と一瞬考えて素直に彼を追いかけることにした。