序話「死の間際の出会い」
およそ半年以上ぶりの新作となります。
一日一話の更新を原則としています。
更新がなかった場合は作者が忙しかったんだと思ってください。
では、本編をお楽しみください
太陽の光を反射して海がキラキラと輝いている。その上には青い空が広がっている。
ただ、青と白だけ作られた単純な景色。それなのに、私はその光景に目を奪われてしまっている。
私の住んでいる町は西側が海に面しているから海を見ること自体は比較的に多い。それこそ、毎日飽きるくらいに見ることができる。
だけど、こんなにも奇麗な海を見たのは初めてかもしれない。こうして、海を見て目を奪われたのは初めてだ。
それは、今の時間が普段なら学校で授業を受けているはずの真昼だからかもしれないし、今日初めて来る場所で海を見たからかもしれない。……それか、ある決意を抱いてここまで来たからかもしれない。
びゅうびゅう、と風が私の後ろから吹いてくる。私が立っている場所は崖の端っこの部分だから、強い風が吹いてくればここから落ちて行ってしまうんだろう。そして、その結果は想像するのが馬鹿馬鹿しくなるくらいに単純だ。それは「死」という名を持っている未来だ。
もしかしたら、死なない、という結果もあるのかもしれない。けど、それは起こることを期待することが無理なほど絶望的な確率なんだと思う。
まず、高さ。ここから下まではかなりの距離がある。落ちていく間に数秒は経ってしまいそうな高さだ。それだけの高さから落ちてしまえば大抵の人間は大怪我をするか、死んでしまうだろう。それに、下には先の尖った大きな岩の姿も見える。
次に、下の様子。尖った大きな岩以外に、下では渦が巻いている。あれに捕らわれてしまえば、溺れてしまうのは確実だろう。
そして、最後に場所。ここは獣道とも呼べないような道を進んでやっと来れるような場所だ。だから、周りに人がいるはずがない。それに、この崖は海の方からしか見えない。この町で漁が行われていれば違うんだろうけど、この辺りで漁は行われていない。だから、この場所を見られることはなきに等しい。
だから、ここから落ちてしまって何らかの幸運が重なって下で生きていてしかも渦に捕らわれることがなくても、誰も助けはいないわけだから結局、体力が尽きて溺れてしまう。
たぶん、その死に方が最悪だと思う。痛みに苦しんで、だけど、自ら溺れてしまうような勇気も持てなくて苦しみが長く続く。
もし、私がここから飛び降りて死ぬなら、下に着いた途端に苦しむ間もなく死ぬのがいい。痛いのや苦しいのは嫌だから。
……さてと、こんな無駄なことを考えるのはやめようか。私はここの崖から落ちたらどうなるのか、というのを考えるためだけにここに来たわけじゃない。
その、考えたことを実行するためにここにやってきたのだ。
私は両手を広げる。背中に翼は広がらない。翼がないからこの死に方を選んだんだ。もしかしたら、飛べるかもしれない、という淡い期待を抱きながら。
そんなことを思っていたら一際強い風が私の体を押した。踏ん張りがきかず私の意志とは無関係に最後の一歩を踏み出してしまう。
私はそのことに驚いてしまう。自分の意志で死への一歩を踏み出そうと思っていたのにそれを自然に奪われてしまった。
でも、それでもいいか、とゆっくりと倒れながら思う。他人じゃなくて自然に殺されるんなら、それでもいいか、と。
下の様子が視界に入る。私を殺すために、岩が、渦が待ち構えている。どうせなら、苦しむ間もなく殺してください、と心の中で頼んでみた。
死ぬ事が怖いとは思っていない。今までの記憶が私の頭をよぎることもない。ただただ静かに時間は進んでいく。
だけど、突然、視界の向きが変わった。
私は横を向くような形になってしまう。空と海が交わっている場所が見える。
何が起こったんだろうか。右腕に自らの体の重さを感じる。どこかに引っかかってしまったんだろうか。でも、私の周りに手が引っ掛かるような場所はなかったはずだ。別の部分も然り。
そんな風に、少し混乱していると、
「おい、お前、こんなところでなにしてるんだよ」
怒ったような男の人の声が聞こえてきた。私は声のしてきた方――右の方を見てみる。
そこには、一人の男の子がいた。男の子、と言っても年は私と同じくらいだ。その男の子が怒ったような表情を浮かべて右手で私の腕を掴んでいる。彼の左手にはスーパーの袋のようなものがある。中に何かが入っているのはわかるけど、それが何なのかはわからなかった。
とりあえず、私も何か言った方がいいのかもしれない、と少し混乱した頭で考えて口から出た言葉は、
「えっと、どちらさまでしょうか」
そんな場違いな言葉だった。男の子の表情が訝しげなものに変わったのは一瞬のことだった。