003.おにい、五十鈴は許嫁?それとも妹?
『借りて借りて借りて踏み倒す異世界逃走記!?』連載中
街に入って真っ先にやってきたのは、こじんまりした建物で、そうそう、10畳くらいの店舗の中に宝くじ売場が中に入っているような感じだ。
「おっちゃん、いるかー」
スキルカードギルドに来て、いつもの挨拶をする。
そう、ここはスキルカードギルドで、このギルドがなければ、俺と五十鈴は、金策に困っていただろう。
「おう、来たか。いつも、仲良し姉妹だなー」
お得意さんなんで、顔見知りだ。
俺が男だと知っていても姉妹扱いする。
「はいっ、夫婦ですから」
負けず劣らず元気よくデタラメな返事をする五十鈴。
これもいつものやり取りだ。
「ハハハ、ほんと仲いいなー。で、今日は何持ってきたんだ?」
手慣れた感じで五十鈴を軽くあしらうおっちゃん。
「まずは、これだ」
アイテム袋から【弓レベル+1】スキルカードを出して、カウンターに置く。
「【弓レベル+1】か、これなら、金貨5枚だな。その笑顔、まだあるんだろ?」
それなりの付き合いなんで、モロバレだ。
ニヤニヤが止まらないのも自覚してたしな。
「これだよ。これ」
【物理攻撃無効】スキルカードをカウンターに置いた。
おっちゃんはスキルカードを見て、固まった。
「……マジか? 拓海、これ、オークションに出して良いんだよな?」
御鏡拓海。
これが、俺の名だ。
古武術道道場を経営している御鏡家の三男坊。
三男坊なんで、分家へ婿に出る予定だった。
その予定で決められた許嫁がいたが、オヤジのせいで、おしゃかになった。
オヤジが、未亡人になっていた、俺の許嫁の母親を孕ませた。
予想通り、五十鈴の母親の旧姓、姫巫女いずなさんだ。
俺の本当の母親は亡くなってたんで、昼ドラのようなことはなかったが、オヤジといずなさんの間に息子が産まれたら、姫巫女家に養子に行くことになった。
実際は、息子が産まれるまで『がんがんヤろうぜ!』らしい。
オヤジは後悔していないと言っていたが、家族計画くらいちゃんとやれよ。
死んだ俺が言うことじゃないがな。
オヤジといずなさんの結婚で、いろいろ戸惑ったのは、俺と許嫁だった五十鈴くらいだ。
許嫁からいきなり妹になったんで、いまだに距離感が掴めていない。
そして、五十鈴が妹になってすぐに、居眠り運転していたトラックが俺と五十鈴が乗っていたタクシーに突っ込んで来て、2人とも即死して、転生受付カウンターで転生手続きをして、この世界に転生してもそれが続いている。
「出品してくれ。そのために、頑張っていたんだからな」
半年で4枚だぜ、ドロップしたのがよ。
毎日毎日、媚薬スライム相手に頑張ってたんだ。
このスキルカードを売ることで金策は終わりだ。
これで、五十鈴と一緒にがんがんヤレるぜ。
「おう、任せてくれ。悪いようにはしない。でも、マジかー」
ブツブツ呟きながら、オークション出品の手続きの準備をしてくれるおっちゃん。
「拓海、いつものように、これに手を置いてくれ。ありがとよ。これでオークション出品の手続きは完了だ」
この世界の生き物は、オペレーティングシステムのようなモノが組み込まれている。
インターフェースは、ウェアラブルディスプレイになっている。
【探索】スキルで、表示されたマップも、このウェアラブルディスプレイに表示されていた。
オークションの手続きもこのシステムを使用して、本人認証を行っているので、不正が行えようになっている。
「結果は2週間後、手数料は落札価格の1割だ」
「了解。じゃあ、おっちゃん、頼むぜ」
「おうよ。歴史に残るオークション出品になるようにするぜ」
「それは、いいけど。頼むぜ」
「おじさま。よろしくお願いいたします」
「おう。その五十鈴ちゃんの笑顔、いいねー。手数料9割引にしちゃうよ」
これも、いつもやり取りだ。
こんなおっちゃんには、結構世話になっている。
「そうそう、後、これはどれくらいで売れそうだ?」
【HP×2】スキルカードを取り出して見せる。
「まだ、隠し玉があったのか? って、何だよこれは!? 【HP×2】のスキルカードなんて見たことねーぞ。よくもまぁ、こんなモンまで、持ち込みやがって…………。効果的には【物理攻撃無効】よりは安くなるだろうが、レア度と効果で…………。こりゃあ、売れねぇぞ。いや、売れるが、買える人間が多い分荒れるぞ、オークションの場外でな……って、冗談だぞ。初回は効果以上の価格が付くんじゃねーか? でも、拓海は金に困ってねーんだろ? 取っておいて、金に困ったら売るか、自分で使ったらどうだ? 【物理攻撃無効】も完璧じゃないんだろう?」
まぁ、取っておくしかないだろうな。
【物理攻撃無効】って言っても、浸透勁の技は効くしな。
ただ、場外乱闘には、思いっきり心惹かれる。
「おっちゃんの言う通り、そのスキルカードは、売らずに取っておくわ。アドバイスありがとな」
「いいってことよ」
おっちゃん、その照れてる姿キモいぜ。