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解放の呪文

作者: 福江まーさ

ひゅー

ひゅー


強風が降ったばかりの雪をまき散らす。


肌に突き刺すような冷たい風。


街道を歩いているはずなのに人がまったくいない。


それもそのはず、歩くのにやっとの強風だ。



灯りが見える。


あそこまで・・・・あそこまで・・・たどり着ければ暖がとれるはず・・・






旅籠の重たい扉が開いた。

冷たい風と粉雪が勢いよく室内に入ってくる。

重たいはずの扉がバタバタと強風にあおられる。


急いで室内に入ってくる男は、片手でマントの襟を抑えもう一方の手で帽子が飛ばないように抑えている。

ぐいと扉を引き、やっと扉が閉まると安堵した。


肩や長いコートについた雪を払う。

吟遊詩人のトレードマークの三角帽も頭から外し雪を落とした。


イスとテーブルがあちこちに無造作に置かれているがあたりは暗くひんやりとする部屋。そこは通常なら旅人たちが休息をとる食堂ではないか。



「誰か!誰かいませんか?」


奥から人が動く音がする。


「すいません!」

吟遊詩人の帽子をかぶりなおしてもう一度ありったけの大声で言う。


奥から恰幅のよい青年が料理用の長いエプロンをして現れた。


「ああ??吟遊詩人さんだったか・・・。ずいぶん久しぶりの客だ」

「雪がすごくて・・こちらに一泊させてもらえませんか?」

「見ての通り、開店休業状態でね。大したことはできないが、まあ、一人ぐらい増えても大丈夫さ」

「路銀が少なくて・・・なんでも手伝います」

すまなそうに吟遊詩人は言った。


「この雪の中じゃあ、商売あがったりだろう?客用の食事も用意していないから、まかないになる。それでもよければ、路銀はかまわないよ」


そこいらに座って、適当に休んでくれと言ってまた奥に戻っていった。

若層に見えるが・・・俺の店と言っていたから店主なのだろう。



外の風は一層わななき、旅慣れている吟遊詩人でも、恐怖を感じた。




このまま旅籠につかなかったら・・・・凍死だ。

春の風がやってきて、雪が解けるまで見つけてもらえない。

カチコチにかたまったからだが、ゆっくりと自然に溶けて出てくるときにはぐちゃぐちゃになっている。

過去にもそんな凍死体を見たことがある。

最後があんな姿にはなりたくない。



吟遊詩人・カールは想像するだけで身震いが起きた。

「今年の雪は異常だな・・・」

誰に言うともなくつぶやく。


カールは長いマントを脱ぐと、マントの内側から小さいハープを取り出した。

椅子に座りハープを小脇に抱えて、慣れた手つきでポロンと弦を弾く。

そして自然に歌いだした。


「雪の中を~~一人の少女が行くと~~」


「雪の歌はやめてくれ・・・この雪がひどくて、みんな滅入っている」

湯気の立つ暖かな皿をもって先ほどの男が戻ってきた。皿から具が見えるぐらいにてんこ盛りだ。

「ここは、森が美しい国だと聞いて、春に旅するならもってこいと思って旅してきたけれど・・・今日ここまで来るのにも吹雪いていたよ」

カールはハープを弾く手を止めて言った。

「そりゃあ、そうだ。冬の王女がまだ降りてこない」

「降りてこない?」

「王城の知識の塔にこもって降りてこない・・・」

「それが何か問題でも?」

ああ、この国のことは何も知らないのか・・・と半ばあきれながら続けて言った

「いつもなら春の姫が知識の塔に住まわれる時期だ」

「冬の姫君がまだその知識の塔にいるから冬が終わらないと?」

店主は頷く。

「そんなことがあるなんて信じられない」

「それは、他の国の人だからだよ。この国は精霊と共にすべての物事が成り立っているから」

「だったら冬の姫君を春の姫に後退してもらえればいいことでしょ?」

「そのように王城の偉い人たちも考えているだろうよ」

でもなぜがまだ冬が続いているのだ。だから冬の姫が春の姫と交代していないのだろうよ。と店主は話していた。


先ほどやっとの思いでしまった扉がまた大きく開いた。

冷たい風がひゅるりと室内にはいってくる。


「ああ寒い」

外からやってきたのは体格の良い略式の武装をした武人だった。カールはその体格の良さと武装している様子を見て高位の軍人だと思った。


「俺にも暖かいスープをくれ」

どかりと音を立てて椅子に座って息を整える。


「まったく、いつになったら姫様は降りていらっしゃるのか」


武人はため息交じりに言った。


「私たちも商売あがったりですよ。将軍閣下」

店主は台所にむかいスープを大盛りではこんできた。


将軍閣下?こんな街道の宿に・・・将軍??


カールは不思議に思った。高位の軍人ならこの国の冬を終わらせるのに躍起になっていなければならないではいか。

冬が終わらないなんて!国家の一大事のはずなのに・・・こんなところにいていいのか?



将軍閣下と呼ばれた男は

将軍はよほどお腹が空いていたのかアツアツのスープをかき込んだ。

あっという間に具沢山のスープを食べつくした将軍閣下は一息ついたのか、カールのほうを見た。

「吟遊詩人か?」

「はい、将軍閣下。」

カールは目の前の男の位を半分は疑っていたが、店主と同じように答えた。

「ここにはいつまでいるつもりだ」

「どこかに請われれば長くもいますし、どこにも請われなければすぐに立ち去ることでしょう。気ままな放浪の旅ですので」

丁寧にお辞儀をした。

なるほど・・・顎に手をやり何かを考えている風だった。

「まだ、雇い主が現れないというのであれば、私がしばらく雇おう。ついてこい」

そう言って立ち上がった。

カールはまだ半分しかスープを食べていなかったが、雇い主が出発するとなればついていかねばなるまい。

すぐに後を追った。



外に出ると人影どころか動くものもない。

冬といえども街道沿いとなれば、行きかう人やものがあるはずだ。昼間なのにあたりは暗く、風はさすように冷たい。そして立っているのがやっとという強風。

将軍閣下は厩に向かった。そこには将軍の愛馬なのだろう、黒毛の大きな馬がいた。手綱をとり、さらりとまたがる。

「お前も乗れ」

後ろに少しの隙間を作る。そして馬上から手を伸ばす。

その手を握るとカールはぐいと引き上げられ馬上の人になった。



雪は思いのほか降り続け、城につくまで降り続いた。


将軍は慣れた様子で馬を厩に置くとどんどんと会談を上っていく。

細い階段がいつの間にか広い階段になっていき、大理石の立派な階段を上る。その先には赤いじゅうたんが引いてある広間が目に入る。

広間の扉は開かれているが、人もいないし、寒々しい。


その横を足早に通り抜ける。


将軍の歩みは早く、カールは追いつくのがやっとだ。いつまでこんな速さで歩くんだ。

人気のない城の寒々しい中でうっすらと汗をかいた。


政務を行う部屋をどんどんと奥に向かって進んでいく。

王城はどこも賊が入らないように・・・賊が入っても逃げ出せないように一度は行っただけではとうていわからないように迷路のようになっている。というよりも迷路のように歩いているだけか・・・。

まだつかないのか・・・吟遊詩人としていろいろな街道を歩くのは慣れたものだが、石畳の冷たい王城の中は変化に乏しく退屈極まりない。

あとどれくらいですか・・といい加減声をかけようかと思ったときに、急に穏やかな庭園の目の前に出た。

そこは明らかに人が住んでいる香りがした。

けれども一面の雪景色。来るときに見た雪の降り方では致し方ないだろう。



「こちらの部屋だ」



扉を開けると、進められるように中に入ると暖かい空気がながれた。



将軍の歩みもゆっくりゆったりとしている。


段々と暖かい空気が流れる。

暖炉が目に入り、赤い炎が見える。

暖炉の前に引いてあるカーペットの上にたくさんのクッションが置いてある。そこに若葉を思い出すような緑色のドレスを着た年若き女性と、太陽の日差しが似合う黄色のドレスを着たこれまた美しく年若き女性、そして、しっとりとした紅葉を思い出すような落ち着いた赤見がかった代々のドレスを着たしっとりとした落ち着きを持つ美しさを持つ年若き女性が眠たそうに座っていた。


「姫様方。客人を連れてまいりました。」

将軍の声にゆっくりと反応して振り返る。

眠たそうに見える顔は特に反応はなかった。

「王と王妃はどちらに?」

「さあ?居室にいらっしゃるのではないかしら?」

「執務室ではなくって?」

「いいえ、寝室でお休みになられているわよ」


親鳥の帰りを待ちわびていた小鳥たちが一斉に鳴くように一斉に話し出した。

「姫様方はいかがされて・・・?」


「眠くて、眠くて」

「寒いせいだわ」

「雪のせいだわ」

「お姉さまが知識の塔にまだいらっしゃるからだわ」

「このままではずっと雪のまま」

「閉じ込められてしまう」

「時を忘れてしまう」

「このままでよいような気がする」

「冬に閉じ込められてこのままで・・・・」


左右、真ん中からも異口同音が発せられる。


「いけません。このままでは街道を行く人もなく、いつしか忘れられた国になってしまう。この国は冬は長いが四季があり、街道を行く商人たちも盛んに行き来し実り豊かな国であります。終わらない冬はない」

「暦の上では春のはずが、お姉さまがもどってらっしゃらないのはなぜ?」

「もう春のお姉さまが知識の塔にいらっしゃる時なのに・・・」

「それは・・・」

「守護精霊たちにわからないことが・・・私たちにわかるはずもない」

「ただ、ねむいのです・・・何もかもがこのままでよいぐらいに・・・ねむい・・・」

「いけません姫君たち。せめても眠くならないように、知識の塔にいらっしゃる冬の姫が春の姫にかわられるまで、吟遊詩人の話で時間をつぶしてください。姫たちも寝てしまってはここはすべてがしまうでしょう。ますます春は訪れなってしまいます」

眠そうな目をこする姫たち。

ちらりとカールのほうを見た。三角帽にマント、そして小脇に抱えたハープで生業が吟遊詩人だとわかる。

「若い方なのね」

「遠い国のお話がいいわ」

「暖かい国の話がいいわ」

「熱い恋のお話のほうが暖かくなるわよ」

「眠たくならない長いお話をききたいわ」

眠たそうにしていた姫たちは訪問客に興味津々だ。

「遠くにいけないのなら、話だけでも聞きたいわ」

「この雪では知識の塔に新しい本も入らないから」

「吟遊詩人も久しぶりだわ」

「吟遊詩人よ、さっそく一曲」

カールがうなづくとハープから歌が流れる。

それは心地よい音で、声もゆったりとした高い声で美しい。


遠い遠い海の果てのずっと先の大陸に

大きな大きな砂漠がありました、

暑い暑い砂漠の旅には

砂漠の旅はコブのついた不思議なラクダ

ゆらり、ゆらるとゆっくりゆっくり進みます

王子のラクダも姫のラクダもゆっくりゆっくり進みます


お日様はぎらぎら 砂はさらさら

次のお城を目指して旅は続いて・・・・



すーーーー

すーーーーー


規則正しい息の音がする。

姫たちはそれぞれの座っている姿のままに目を閉じている。


すーーーーすーーーー


横にいたはずの体の大きい将軍閣下もソファーに座って目を閉じている


眠った?

こんな短期間で?

これは何かがある。

守護霊に守られているといっていたが・・・。


カールは姫君たちの部屋を出た。


姫様方や将軍閣下の意識があれば、勝手に部屋を下がることなど失礼極まりないが、皆夢の中で、意識もなければ失礼にはあたらない。


精霊のしわざか・・・ほかの要因があるのか・・・。

このままにしておくわけにはいかない。

これは新しい物語のネタになるかもしれないからな。命に別状ある木件ならば避けて通りたいところだが、多少の冒険は吟遊詩人の博がつくってものだ。


なんどか召し上げられて、王様の前で歌ったこともある。王城の作りが同じならば、塔のあるところは北端のほうか。

姫が一つの季節を居住するスペースならば、外敵が来れない場所に作るだろう。ならば一番奥の断崖絶壁の上に建てるのでは

今来た道と反対側のほうに歩き始める。


もし、城内の人と出会ったら、不審者に見えないか・・・そんなの気にならなかった。あまりにも静かで・・・人がいる気配はない。


階段を上がり、細い廊下に出る。

重い扉がある。

開けると広い部屋。たぶん客を迎えるための部屋なのだろう。

どんどんと進む。そこには居室だった。

誰か人がいないかきょろきょろする。



ガタン。


大きな扉の向こうで音がした。


飛び上がるほどびっくりしたカールだが、誰かいるのなら、この原因を、いつからこんな状態なのかをきけるものなら聞きたかった。


扉をそっと開くと、金糸、銀糸で縫われた豪華なローブを身にまとっている老齢の男が机に倒れ込んでいた。

そのローブの豪華さから、かなりの高位の人物なのだろう。

頭を打ってはたいへんだと思い、急いで脇を支え、机の反対側にある椅子に座らせる。

「いかがなされましたか?」

「お前は誰だ?」

名乗りたくてもここまで連れてきた将軍の名前さえ知らない。完全に不審者だ。

仕方ない。

「召し上げられた、只の吟遊詩人でございます」

「吟遊詩人か・・・・ここまで来るのに誰かに会ったか?」

「丸々とした若い旅籠の主人と、私を召し上げたこれまた体格の良く食べっぷりのよい将軍閣下と、暖炉のそばで眠ってしまった三人の美しき姫君たちと・・・」

「ああ・・オットーがまだ、動けるのか・・・オットーはどこだ」

話の流れから将軍閣下はオットーという名なのだろう。

「あいにく、将軍閣下も姫君たちと同様眠っております」

それを聞いた老齢の男はああとうなると、さらにうなだれた。

「そなたはここへ来てなぜ眠らない?なぜ眠たくならない」

カールは首を傾けるだけだった。

「眠くなる前に、一仕事をしてはくれないか」

見た目も豪華なローブに身を包む男は続けて言った。

「このローブを身にまとい知識の塔で暮らしている姫を起こしてここまでつれてきてほしい」

「季節を・・・春にするのですか?」

「話はきいているのだな・・知識の塔の冬の姫と春の姫が入れ替わらない限り冬は終わらない。長い冬は・・・皆眠りについてしまう・・・皆永遠に眠ってしまう前に・・・春にしなければ・・・春が来なければ・・・・」

瞼を閉じてしまった。

老人のローブをそっと取り、身にまとう。

知識の塔はどこになるのだろう。部屋を見渡した。

豪華な部屋にはいくつかのドアがあった。

部屋を見渡すとある場所でローブがぎゅっと体にはりつくように感じる。



あそこだろうか・・・


ビロードのカーテンを開くと石の扉が見える。

渾身の力で医師の扉を押す。

すると扉と同じ石の小さな階段が現れてきた。


小さな階段を上がる。

くるくると上がる。

窓もない階段は暗くどこまでつつくかわからない。

後ろを振り返っても暗闇で、どこまで上がってきたのかわからない。


この先に何があるのか。

ここが知識の塔なのかもわからない。


戻ったほうがいいのか。

わからない。


でも足は確実に前に、上に向かって進んでいる。



どれくらい上がっただろう。

足ががくがくして震える。


もう少し、もう少しとどこかで励まされているようで、足は自然と前に向かった。


少し広い階段かと思ったら踊り場だった。そこには期の扉があった。

そこを開くと本のぎっしりつまった壁。真ん中は空洞になっている。空洞の下をのぞくと下全く見えない

ごーっという音と冷たい風がしたから上がってくる。


怖くなり、また階段を上り始める。


階段をどんどん上る。


のどが渇いた。

もう足が上がらない。


そう思ったときに一筋の光が見えた。


助かった。



最後の力を振り絞り、光のもとに向かう。



やはり木の扉があった。


扉を空けると、赤々と燃える暖炉とさっきいた部屋のような豪華な調度品の部屋。


汗だくだくのカールは熱いと感じるはずだった。暖炉の火は煌々と燃えているのに熱くはない。汗が引くとひんやりとしている。


「誰だ?」


毅然とした女の声がした。この部屋の主人か?

カールはきょろきょろとあたりを見渡す。


「そのローブを着ているところをみると王の使いか?」

暖炉の脇に置いてあったソファーから立ち上がる人がいた。


床につくほどの銀色の長い髪を後ろにたらし、薄水色のドレスを身にまとう背の高い美しい女性。


冬の姫だろうか?



「私は冬をつかさどる姫ではない」

ほしかった答えを質問する前に答えた。



ではだれだ?


心の中でいぶかしげに思う。


「私は姫に宿る冬の精霊」

この人は心が読めるのだろうか。

心に浮かんだ質問の答えをさらさらと言っていく。



冬の精霊。



一瞬身構えた。

精霊やゴブリン、妖精たちなどはたいていいたずら好きで根性が悪いと決まっている。


「そんな輩ばかりではない」

やはり心を読めるのだろう声に出してもいない質問に目の前の精霊は話していく。


冬が終わらないのは子の精霊が原因か?


どうすれば春が来るのか。


目は目の前の冬の精霊と自称するものを上から下まで追い、確かめる。

心の中では、この人を倒すべきかどうなのかを計算している。



「冬を終わらせるには姫に起きてもらわなければならぬ」


精霊が起こせばいいのではないか?

何か策をねっているのか?


「策などない、私が起こしても起きないだけだ」


何があったのだろう。原因はなにか?


「さあ、知識の塔にある本をいつものように読んでいたら、眠ったまま起きなくなったまでのこと」

いくら冬の守護霊といえども、長すぎる冬は皆が眠ってしまって困る。

春の風、夏の陽、秋の紅葉みんな大事な季節だというのに。




「姫はどこに?」

冬の精霊は視線をずらした。

その視線の先にはゆったりとしたソファーに本を広げたまま横たわる姫君がいた。

白と濃い水色のドレスはみずみずしい若さを。


近づくと本がばさりと落ちた。

姫の細い手首をとり脈をみる。


ゆっくりとした脈。


「まるで冬眠の様だろう?」

心で思っていたことをまたもや精霊に言われてしまう。


「起こす方法と、原因は何か・・・わからないのですか?」


心に思うより早く言葉にして精霊に言う。


「さあ、私はあの姫に宿るもの・・・形代がなくなれば、また次の形代にうつるのみ・・・」


え?そんな・・・無責任な・・・・


心に強く思う。

「なんといわれようとも・・・この国ができる前、森だったころからの習わしだ。どうもこいもできようもない」



仕方なく、カールは姫の体をゆする。

「姫、起きてください。春の季節ですよ」

強くその体をゆすっても起きる気配はない。

窮屈そうなままで眠っている姫。


姫の体を横抱きにし、寝室に向かうそしてベットに横たえる

「姫朝ですよ。起きてください。姫・・・起きる時間です」

耳元で言葉をかける

動く様子もない。

声を大きくしてもだめだ。

仕方なく少し揺らしてみる。


ピクリとも動かない


これは王子様のキスでもなければ目覚めないか・・・


どこかの昔話を思い出すけれど、あいにく王子はここにはいない。

どうしたものか。


冷たい暖炉の部屋にもどると、落ちた本に目がいった。本を拾う。ぱらりと中に目を通す。



恋愛の本をよんでいらっしゃったか。


はやりこの場合はキスで目覚めるかも?


本を手に取り姫のところに戻る。



唇をゆっくりと姫のそばに。


うっすらと呼吸の音がする。


そのまま耳元でささやく。


ぴくりと動く眉。

指先。


少し離れてもう一度言う。

目覚めてください。

あなただけの王子のために。あなたの恋のために。あなたの本当の恋のために。

本当の世界であなたは恋をする。

戻っておいで冬の姫。春に恋をし、夏に恋をはぐくみ、秋に恋人と寄り添いあい、まためぐりくる冬に恋人と語り合う。めぐる季節の中で恋をすることでしょう。

夢の中では本当の恋は実らない。

目を覚まして。

あなたの恋人が待っている。


冷たい暖炉だったはずが暖かい炎に包まれている。


姫の呼吸が早くなる。

そして寝返りをする。


精霊は姫の眠るベットのそば、吟遊詩人の隣にいつの間にか移動して感心するように言った。

「どうりで、眠らないはずだ。吟遊詩人よ。おまえはまじない師ででもあったか?」



「いいえ。私はただの吟遊詩人です。姫がの損でいる恋物語を歌ったまでですよ。もうすぐ姫が目覚めるでしょう。」

「なにが姫をねむらせたのかわかっていたのか?」

「精霊の世界に変化の兆しが表れてるのはご存知でしょう?」

冬の精霊は顔を険しくさせこくりとうなずく。

「その影響ですよ。これからも異変は続くでしょう。私の姫もまだ眼覚められません」

吟遊詩人はなんどか気持ちよさそうに寝返りをうつ、ベットの中の姫を見下ろしながら言った。

「なるほど・・・その姫の解放の呪文をさがしているのか。」

カールは頷く。

「何かみつかったか?」

カールは横に首を振った。


カールは故郷を思い出した。

小さな教会のなかで横たわる一人の少女の体。眠っているような姿。

在りし日の少女の姿。協会の裏手に広がる花畑。そこにうれしそうに花を摘む少女の思い出を。



「ただの吟遊詩人だけには見えないが・・・」

目を細めいぶかしげに冬の精霊はカールを見る。


「いえ・・物語をかたるただの吟遊詩人ですよ。ああ、姫が目覚める。姫が目覚めれば元通りになるのでしょう」


部屋も人が快適に過ごせるぐらいの暖かさが戻ってきた。



カールは塔の長い階段を降り始める。


長い階段を下りたころには暖かな空気が周りにまとわりつく。


もう間もなく冬の姫は塔をおり、春の姫と交代するだろう。

長い長い冬が終わる。


作品の量産がなかなかできないので、思い切って『冬の童話祭り2017』に参加してみました。童話初挑戦!プロットがないままの見切り発車だったのでなかなかまとまらない・・・お話に一応終わりをつけ・・・・なんとなく次の目標が見えてきた作品です。

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