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不良少女、未知との遭遇。

ある日、異世界からの使者とやらがあたしの元にやって来た。


「貴女様に私共の世界の危機を救って頂きたいのです!」

「神子が務まるのは神に選ばれし貴女様しかいないのです!」

「……は?」


町中で突然野郎に取り囲まれる事自体は、あたしの場合あまり驚くような事ではなかった。


それはメチャクチャモテるから…とかではなく、あたしがそこそこ名の知れた不良をしているからだったりする。


しかし戦闘能力の有無をまさか実用的な鎧と腰から提げた剣で判断する日が来ようとは。


女子が好きそうな王子様風の甘いマスクをした男と、その後ろに控えている数人もこれまた美形揃い。


まるでアニメから飛び出してきたようだ!と言えば彼等は喜ぶのだろうか…。


とんちんかんな台詞と共に異国の王子やら騎士やらのコスプレをした野郎共に囲まれたのは、不良歴長しと言えども間違いなくこれが初めてだった。


そして最初で最後であることを切に願いたい。


てか顔だけじゃなくて服装までザ・王子だよ?

他人の趣味を否定する気はないが、あたしを巻き込むなと言いたい。


しかも残念ながらあたしはタイマン張れるガチムチがタイプなので優男には食指が動かない。


つまり世界だ神子だ壮大かつイタイ設定を拗らせた野郎共に付き合う義理も人情もない。


一般住宅街に不釣り合いなただの不審者には早々に退場願おうか。


「…」

「…」


避けて通りたいのに邪魔臭く道を塞がれるものだから殴り飛ばしたい衝動に駆られたが、相手が手を出してきたわけでも不良でもないのでこちらから手は挙げない。


この信条を曲げる気はないが、課せた自分を今だけは恨みたくもなる。


諦めて半信半疑…てか無信全疑で何故あたしなのかと問えば、神が選ぶのは自分達と同じ言語(この場合日本語)で同じ容姿(この場合金髪碧目)の異世界人の中からなのだとか。


あたしで良いのならもっと他に該当者もいれば、優良物件も居ただろうに。と突っ込みたくなったが、メインで話す王子の後ろからリストでどうたら聞こえる。


その手に持った履歴書みたいなのはなんだ?

そん中から決めたのか?

てかあたしの青写真、それ目も髪も黒くない?


「確かに貴女様がこの六人の中から最終的に選ばれたのです!」

「…」


脳内で愚痴っていると不意に王子から差し出された小さな立方体。


よく見れば面毎に名前の書かれたサイコロだった。


うん。確かにあたしの名前もあるね。

他の名前も皆覚えの有る不良仲間だ。


でもそれ全員染めのカラコンだぞ?

実際は日本人然とした目髪共に黒…頑張っても濃い茶色止まり。


あたしを含め皆気分と流行りで髪なんて染めるから先週までは別の色、なんてザラ。

もっと言うならカラコンなんて日替わりだ。


まだ日本語喋る外人をターゲットにした方が良い。

あたし等なんて一ヶ月もしないで金髪改めプリンになってしまう。


「神の選択に間違いはありません!」


不意に地面を転がるサイコロ。


「…」


最終決定は神頼みと言えば聞えは良いが、要は運だ。

しかも今上を向いているのはあたしの名前では無い。


「あ、」


それに気付いた王子が慌てて拾うと転がし直す。


マント付きの純白衣装を纏った王子様が踞ってサイコロを一心不乱に転がす図…シュールだ。


あまりにもあたしの名前が出ないから、もう潔くあたしの名前を上にして置けよ。とすら思ってしまう。


嫌だけど。


「!見てくださいっ!!貴女の名前です!!」


暫くして、遂に出たと嬉しそうに目を輝かせて指差す王子様。

それを見て涙ぐみながら拍手するお供達。


「…」


何この茶番。

感動のシーンに乗り損ねたあたしがおかしいの?


神の正当性よりあんた等が兎に角疑わしいんだけど。


温度差をそのままに完全に取り残されたあたしにはジト目と数歩の後退しかできない。


サイコロを振っている間に半分以上出続けた後輩ん所に行けばいいじゃん。

あたしの名前が出るまでに他の名前を五回以上は見た気がするんだけど?


神様は心底あたしを嫌がってるみたいだ。

じっと待たされた感想はそんなんだった。


「お願いしますー…片道の交通費は出しますからぁ」


冷ややかな目を何と思ったか王子が涙目で提案して来た。

てか交通費いるのかよ。


しかもさっきまでは払わせる気だったてこと?

今も帰りはあたしの自腹?


怪訝…と言う以前に脱力しかできない。


彼等の言う世界の危機って観光業が上手く行ってないとかそんなんじゃないの。

魔王が世界を滅ぼすなら多分もう終わっていると思う。


「お願いしますよぉ…………」


何度も言うがどんなに容姿が優れていようとも王子は趣味じゃない。

ヘタレも泣き虫も御免被る。


涙目で上目遣いなんて女の子がやってこそ良いんじゃないの?


完全に引いた瞬間だ。


フリーズしたあたしを最後は異世界に強制召喚したコスプレ軍団のお陰で、初めて彼等がただイタイだけの輩ではないと気付かされた超不幸なあたし。


折角一生で一度ないほうが当たり前の異世界トリップにも関わらず、放心していたあたしはその貴重な経験を無下にしてしまった。勿体無い。


そしてあたしを待っていたのは茶飲み友達である国王と魔王の、観光土産の饅頭の中身をこし餡にするかつぶ餡にするかという世界崩壊も辞さない大規模戦争だった。


このあたしの仮説がニアピン賞を得た問題に、つぶとこしを半々に詰合せる事を提案し三日で片付けた神子仕事。

(因みにその内の二日と半日は、国王の城で魔王宅に行くと言ったら王子達に止められ続けた日数だ。最後は隙をついて抜け出した…ら、迷子の時間を含めても二時間で目的地に着いた)


平和を取り戻したこの世界に長居は無用…と思ってもそうは問屋が卸さない。


帰ろうにもお金が無く(やはり往復を払う気は無いらしい)民に例の饅頭を献上されながらあたしはまだ城の一室に居たりする。


…王子さ、あたしの願いなら何でも聞くよ!とか言うんなら部屋を充実させる前に帰らせてくんないかな。




end

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