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異世界復讐物語  作者: 希他勇
第一章 能力発現編
8/12

第7話 『凪乃相似vsエミリア』

少し遅くなりました。

1~3話のリーナの口調が変だったので、統一させました。

あと関係ない話ですが1000PVを突破しました。みなさんありがとうございます。

これからもがんばっていこうと思います。

「……うじ……」


 俺は朝が嫌いだ。

 嫌いな理由はたくさんあるが、まず第一、いやこれだけで俺は朝その物を嫌悪するようになってしまった。

 それは単純で明瞭としている一つの答え、それは『起きること』。

 そう、俺は『朝に起きる』という一つの行動が嫌いなのだ。

 まあ……言ってしまえば寝起きが悪い。

 だが相似はこう考える、「俺が朝を嫌いなのは可愛げな美少女がいないからであって、いれば俺は朝という全てを世界で5本の指に入るほど好きになる。まあ、叶えられるなら叶えてみろよ。神様さ~ん」と誰かに皮肉げに話したことがある。


「……そうじ……お……」


 おや?俺を呼ぶ声がする。

 まあ、どうせ「家族」だろう。

 ふ、起きないぞ。俺は起きないぞ。このまま俺は夜まで寝るという1つの夢を達成し社畜をやめるのだ。


「相似、起きなさい」


 ん……?この声は「家族」ではない。

 じゃあ……誰だ?

 俺は瞼をゆっくり開くとそこには俺にのしかかる金髪赤眼の美少女が顔を覗きこんでいた。


「やっと起きたわね……相似、あなた寝起きが悪いわよ」

「……これは夢か?」


 あ、ありえない。ありえんぞ。俺の目はついに腐るところまで腐ったというのか。

 なぜ俺はこんな美少女に甘美溢れる声で起こされているのだ。

 せめて腐るなら童貞を卒業してからがよかった。く……仕方ない。一時ここは休戦としよう。なので俺は目を回復させるため、安らかな眠りを……すやぁ。

 

「あ!なにまた寝ようとしてるのよ!相似、起きなさい。もう夜よ!」

「何言ってるんですか?夜ならまだ寝れるじゃないですか……もう少し、あと5時間は……」

「昨日私の生活リズムに合わせるって言ったでしょ!それに5時間って長すぎるでしょ!いいから早く起きなさい!」


 エミリアは相似を起こすのに1時間かかった。


「あはは……すみませんでした。俺本当に起きるの苦手なんですよ」

「はぁ……はぁ……あれを”苦手”なんて言葉で表すのには足りないわよ」


 そうか、すっかり忘れてた。俺はエミリアのベットで寝てたんだった。

 しかしまあ……エミリアの格好がなんとも。

 黒のネグリジェに身体を包みこんだ彼女はなんというか……その、エロイ。

 もうすこし身長が高ければドストライクだったんだけどな……残念。


「ねえ、相似。今私に対して失礼なこと考えなかった?」

「考えてませんよ」


 こえぇよ。どうやらエミリアの身長センサーの感度は良好のようだ。

 子ども扱いした店主のてんまつを俺は知っている。

 俺も危うくエミリアの必殺右ストレートを食らうところだった。

 

「さて……相似、外に出なさい」

「わかりました」


 ふと俺はもう1つのベットを見る。

 これは……エミリアの家族の物だろうか?そういえば一度もあったことがないんだよな。

 どんな顔をしているんだろう。エミリアと同じく金髪なのだろうか?背の高さはエミリアと同じくらいなのだろうか?

 ……まあいいや。俺も早くエミリアのところに……え?

 

 そのもう1つのベットのサイドテーブルに置いてある物。

 それは白く、両目の真下に赤色のクマがあり歪んだ笑みを浮かべた1つの仮面。狐の仮面だ。

 俺はこれを知っている。

 それは決して不明瞭な記憶ではなく明確なもの。

 だけど……わからない。俺はこれをどこで見たか思い出せない……


「相似ー!早く来なさい」

「や、やべ……」


 まあ、別にいつでも考えられる。

 また帰ってきたときにでも考えればいいか。

 相似は自分が寝ていたサイドテーブルに横にしておいたスティック状のロッドを手に取り、足早にエミリアの元に向かった。

 

 外に出ると真っ暗だった。空を見上げると無数に浮く星々の中に傲慢に居座るように玉座にいる”満月”があった。

 なんか……とても変な感じだ。起きてすぐに星を見れるなんて……元いた世界じゃ絶対ありえなかったし。

 するとそんな暗闇の中から二つの赤い目が現れ、こちらにゆっくり近付いてくる。


「相似、おはよう」

「い、言うの遅くないですか?え、えーと、おはようございます。エミリア様」

 エミリアは「忘れてたのよ」と少し照れたのか頬を搔いている。

 するとエミリアは軽く深呼吸して俺と顔を向きなおす。

 その時の表情はいつものエミリアより畏まっているような気がした。


「相似、あなたにやってほしいことがあるの」

「俺にですか?」


 エミリアはそう言うと俺を呼ぶための手招きをする。

 相似はエミリアの元まで歩いていく。

 何の迷いもなく行ってしまうと本当にエミリアのペットになっちゃったんだなと思うことがある。

 まあ……実質ペットみたいなもんだが。


「相似にはまだ言ってなかったんだけど……いま私は指名手配されてるの」

「え?指名手配!?」

「え、えーと、ごめん訂正するわ。えーと、人間で言うと私の”討伐クエスト”が出ているのよ」

「クエスト……」


 問題事や事件などの依頼を”クエスト”と言う形で冒険者に解決してもらうもの。

 エミリアが何か問題事になるようなことを起こしたって事なのか?


「「何か問題でも起こしたのか」……という顔をしているわね」

「エミリア様は覚りか何かですか?」

「それくらい心を読まなくたってわかるわよ。特に相似なんて顔に出やすいんだから」

「まじですか?俺世界一無表情を貫きとおせる男だと思ってたんですが」

「それは駄洒落かしら、泣き虫相似」とくすりと口を緩ませ、からかっているかのような笑みを俺に向ける。

「それは言わないでほしいです」

「ふふ、話を続けるわね。相似は一度でも「魔王軍の残り物」という言葉を聞いたことがあるかしら?」

「あ……」


 ある。微かにそれは記憶の片端に残っている。

 確か『オラリア』を守っていた騎士が言っていたな……あれは一体どういう意味なんだ?


「ついこの前まで、私は魔王の幹部の1人だったの」

「へぇ幹部…………幹部!?」

 

 なんか今ものすごいことを聞いたんだが。

 エミリアが魔王の幹部……ということはエミリアって冒険者の敵と言うことになるのか?


「昔の話よ。だけど4年前のある戦いで『魔王』がS級冒険者達に滅ばされちゃったのよ」

「え、魔王ってもう滅んでたんですか!?」


 ん……待てよ?魔王魔王……ミルキス?

 いや、まさか……あいつが?いやでも初代魔王って言ってたし……

 まあ、今はエミリアの話に集中しよう。


「そうよ、それで魔王軍はバラバラになり、ついにこの世界から平和が取り戻されました。めでたしめでたし……ってなればよかったのだけどね」

「な、ならなかったのですか?」


 エミリアはその場に蹲るように座り、森の奥を眺めるように見つめている。

 その姿はいつも偉そうにするエミリアからは、考えられないほど弱弱しく感じる。


「あるS級冒険者がね、魔王に関係する者は根絶やしにするべきという風潮をこの世界に植えつけたのよ。それで今、この世界では残った魔王の関係者に”クエスト”という名の”賞金首”をつけたのよ」

「それが”魔王軍の残り物”……ですか」


 不可解な点の謎がやっと解けた。エミリアが町に行く前に擬態魔法を使う理由がやっとわかった。

 あれはエミリアの正体を隠さなければばれてしまうからだ。

 エミリアは幹部と言った。つまりなかなか上の位に位置していたんだろう。それに”賞金首”なら強い者ほど多額なお金がもらえるんだろう。

 

「…………そう」


 ん?でも待てよ。


「待ってください、エミリア様。今の話と俺にやってほしいことってどう繋がるんですか?」

「…………」


 その質問の答えにはやや間が合った。エミリアの顔を見ると、弱弱しい面持ちだった。


「相似には私と一緒に戦ってもらうわ」

「え……?」


 一緒に戦う。

 それはつまり冒険者、人間と戦うということ。

 モンスターではなく人間と。


「これは命令よ」


 エミリアの言葉はどことなく重く、鋭さが混じっているような気がした。

 奴隷である俺を買ったのはエミリアだ。本来奴隷が飼い主を裏切るなど、してはいけないことだ。

 俺はエミリアの命令に従わなければいけない。それはわかっていた……わかっていたが。


「……嫌です」


 俺の口は無意識に動いていた。

 だが自然に動いたと言っても噓ではない。本当に嫌なのだ。

 エミリアはその言葉を予想していたのか、続けて言葉を口にする。


「相似、忘れたの?私は飼い主であなたはペット。ペットは命令に従わなければいけないの、わかる?」

「嫌です、俺は……人間、仲間である『冒険者』と戦いたくありません」

 

 これは無意識ではなく、意識的に答えた物ものだ。

 そうだ。もし俺がエミリアと一緒に戦ってしまえば、間違いなく冒険者ではいられないだろう。

 人間と戦う……?考えたこともなかった。

 人間を殺すなんて俺は……できない。


「相似……あまり言いたくはなかったけど、あなたが奴隷になった原因ってその『仲間』とやらの『冒険者』に裏切られたからでしょ?」

「な、なんでそれを……」

「大抵奴隷になったやつはその『仲間』とやらに裏切られた奴らばかりなのよ。それとも何?相似を裏切った冒険者をまだ『仲間』何て言えるのかしら?」

「そ、それは……」


 俺は『冒険者』を仲間だと思っているか?

 どうしてもそのことを考えてしまうとローズ達の顔が浮かんできてしまう。

 クソ、消えろ、消えろ……


「それに相似『仲間』である冒険者と戦いたくない?ふふ、それ噓でしょ」

「え?」

「相似、あなたは怖いだけでしょ。「私と一緒に戦うと自分まで”賞金首”の1人なるのでは?」って」

「ち、ちが……」俺は思わず後ずさりする。

「違わないわ。私は人間を知っている、相似を知っている。それも人間以上に相似以上に」


 違う、俺はそんなこと……考えてない。

 でも、何でだ。考えてないはずなのに手が震えている。


「仕方ないわね……」とエミリアがそう言ったのを俺は聞き逃さなかった。

「え?」

 

「どうやら躾が必要のようね。あまり実力行使には出たくなかったけど」

 

 そう言うとエミリアは俺の方へ歩いていく。

 俺もそれに合わせて後ろへ後ずさりする。

 や、やばい……これは絶対やばい、エミリアの緋色の目を見た瞬間、「殺される」そう思ってしまった。


 戦う?馬鹿か……相手は”チャージボア”や”トレント”のようなモンスターじゃないんだぞ。

 もしエミリアに怪我をさせたら……って俺は本当に馬鹿か。

 エミリアは殺る気満々だろ、だけど……俺はエミリアを……クソッ!!


「シャール・リブ・ファース・クリエイト!」


 エミリアの四方八方に氷の柱が突き刺さっていく。

 それはいつもの『アイスロック』より3倍ほど大きさになっていた。このロッドとローブのおかげか?

 これでエミリアを一時的だが氷の檻に閉じ込められる。数秒でももってくれればいい。

 

 俺はエミリアに背を向け『キョロックの樹海』へ入ろうとする。

 今は夜だ。いくら吸血鬼といえど夜の森ほど姿を隠しやすい場所はないはずだ。


「これで足止めのつもりかしら……」


 エミリアは右手で手刀を作り、横にすぅーと動かすと、『アイスロック』の檻は真っ二つに割れる。

 ま、まじかよ……いや、すぐ突破されるとは思ったが5秒も掛からないなんて……

 でもこれでいい。今はとにかく距離だ。次は『アースウェイク』を……


「相似、無傷の”敵”に背を向けることがどれだけ危険か教えてあげるわ」


 エミリアは左手の爪で自分の右の人差し指に突き刺す。

 一寸のほど小さな傷口からポタポタと血が流れだす。その人差し指を相似に向ける。そして一言。


「『血流弾ブラットバレット』」


 エミリアが発した言葉により、流れ出ている血は宙を舞い血が形どられる。

 血は水のような液状の形から氷になるように凝固し、弾丸のように丸く作られる。

 できたのは一つの血の弾丸、大きさはBB玉と同じくらいの大きさだ。

 作られた弾丸は逃げている獲物、相似に放たれる。

 

「グァッ!いたぁ……」


血流弾ブラットバレット』は相似の右の太股に着弾する。だがこの時相似は何が起きたかを理解することはできない。『血流弾ブラットバレット』の速さは拳銃の速さをを超えているため、まず人間が視認することは不可能だ。

 

 何だ……エミリアが何かしてきたのか?

 だが走れないほどの痛みじゃない……それに距離もできた。このまま行けば逃げきれる。

 でも俺は本当に逃げても良いのだろうか?エミリアにあんなに良くしてもらったのに……


「『部位支配コントロール』」


 エミリアがその言葉を発した瞬間、相似は転んだ。

 え……転んだ?つまずいた?何もないところで?いや……違う、右足の感覚がない?な、何で……?

 俺は恐る恐るローブをめくり、打たれた右の太股を確認する。右の太股、いや、右足全体に赤黒い紐のような形をした血管みたいな物がぐねぐねと動くように回っている。まるで”蛇”だ。

 な、なんだよ……なんだよこれ。


「相似の”右足”はもう私の物よ」

「え?」


 後ろを向くとエミリアが相似を見下ろすように立っていた。

距離はとったはずなのに……


「相似、命令に従いなさい。今命令に従えばこれ以上のことはしないわ」

「お、俺は……」


 恐い……エミリアを恐いと思ってしまった。

 俺はエミリアをどことなく”母親”のように感じていたのだ。

 優しくて、面倒見がよくて……

 真っ直ぐにエミリアを凝視することができない。凝視すると……狩られてしまいそうだ。


「はあ……仕方ないわね」

 

 何も答えない俺にイラついたのかエミリアは右手を相似に向ける。

 それから人差し指をくいっと上に上げた。


「え……グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!」


 その瞬間右足全体に急激な痛みが発生した。

 右足の赤蛇が暴れまわるように動き出す。

 燃える”トレント”に抱きつかれた時、いやそれ以上の痛み。右足の肉が裂け、熱されているような痛みだ。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 イ、イダイ……まじで死ぬ……死ぬって……死んじゃう。死ぬ?嫌だ嫌だ嫌だ。


「い、いだぃ……」

「相似、早く従うと答えなさい」


 相似はエミリアに右手を向け『ファイヤーボール』の詠唱を始める。

「はぁ……はぁ……はぁ。ふぉ…ール・でィ……ス……」

「無駄よ『血流弾ブラットバレット』」


 再び血の弾丸が相似の右手に着弾する。

 すると再び右足と同じような”赤蛇”ができる。


「グア……ッ!」


 だが痛みはさっきほどじゃない。

これなら詠唱を続けられる。


「ド……ロォ」


 俺は『ファイヤーボール』の詠唱を終え右手から火の玉が……

 あ、あれ……で、でない。魔力切れ?いや……でも今日魔法は1回しか……


「『血流弾ブラットバレット』は相手の身体の一部を支配、つまり私の思うようにできる。私は今、相似の右手に『魔法停止』の命令を送ったわ。相似の右手ではもう魔法を使えない。」

「……」

「相似、私はね……人間が大嫌いなの。相似、あなたも例外じゃないわ。だけど、私はあなたにチャンスをあげているのよ。この私と人間を滅ぼすチャンスを、ね」


 や、やばい……意識が朦朧としてきた。

 俺は左手をエミリアに向ける。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「『血流弾ブラットバレット』」


 左手にも『血流弾ブラットバレット』が着弾する。


「これが最後よ、言いなさい。じゃないと本当に死ぬことになるわよ」

「………………ぉ……は、た……たか、わな……ぃ」

「そう、じゃあ死になさい」


人差し指を上に向けた。

 その瞬間、右足、左腕、右腕全ての”蛇”が相似を襲う。


「あがあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」


 朦朧としていた意識は痛みにより瞬間的に意識が覚醒したがずっと続く痛みに耐え切れず相似は気絶した。

 朦朧とした中、最後に見たエミリアの顔は瞳が潤み、わずかに口元が笑っていたような気がした。


● ● ●


 ここは……どこだ?

 それは真っ暗で何もない所。まるで宇宙空間にでもいるような気分だ。

 まあ、行った事はないけど。


「…………じ………………」


 周りを見渡すが真っ暗で何も見えない。

 俺は……死んだのか?でもそんな気がする。異様に身体が軽い。ここは天国か、はたまた地獄か……

 

「…………うじ…………」


 俺は暗闇から抜け出したくて歩き出す。

 だがどれだけ歩いても暗闇なのは変わらない。

 怖い……

 俺は暗闇の中を走り出した。

 だけど、どれだけ走っても見えてくるのは暗闇だけ。


「…………そうじ…………」


 その時、初めて誰かが俺を呼んでいることに気づいた。

 おい!誰か……誰かいるのか!いるなら返事してくれ!

 

 その時だった。

 暗闇の奥、ずっと奥のほうに一寸ほどの光が見えた。

 次第にそれは大きくなり、ついには俺のいる暗闇まで光で包まれた。


 眩しい……


 時間が経つにつれ光に慣れ始める。そこは……

 え……現実の世界……?俺は戻ったのか?嬉しい……が嬉しくない。

 まあでも「家族」にも会えてなかったし……それにいいじゃないか。

 冒険者だったのが社畜に戻るだけのことじゃないか。

 サラリーマン生活はそんなにつらいものじゃなかったはずだ。

 もうリーナに会えないのは残念だけど……

 最後にエミリアとちゃんと話をしたかった。


「お前は負けた?」


 隣を見ると白い狐の仮面をつけた小さな子供。


 ああ……ついさっきエミリアに殺されちゃったよ


「……お前は何もわかっていない」


 何がだよ。俺のことか?リーナのことか?エミリアのことか?

 逆に何を知らないって言うんだよ。


「そう言ってお前はまた逃げ出す」


 逃げていない。俺は戦った。

 この世界で俺は充分に戦った。がんばっただろう?

 魔法の詠唱を覚えたりモンスターだって逃げずに戦った。

 なあ、それより俺を早く返してくれよ。


「お前は変わった。昔はもっと強かった」


 何言ってんだ。俺は俺だろう。今も昔も俺は俺のままだ。

 俺は変わらない。


「私は、僕は、あたしは、俺は、あたいは……」


 おい、主語がたくさんあるけど大丈夫か?

 するとその人は狐の仮面を外す。


「相似先生の味方だ」


 ……え?


● ● ●


 目を覚ますと知った天井があった。

 ここは……エミリアの……家か?

 身体を起こすと俺はエミリアのベットに寝かされていた。

 自分の身体を見てみると打たれたところや”蛇”の血管は全て消えていた。

 生きてたのか……はは、どこまでもしぶとい奴。でも……なんでエミリアは俺にトドメをささなかったんだろう。トドメをし忘れるような人には見えないけどな……

 そういえば……今の夢はなんだ?相似……先生?

 俺は一度も先生にはなったことが無い、はずだ。それにあの仮面って……


「……そういえばエミリアは?」


 近くにいなくてよかったと思うと同時にエミリアの所在が気になった。

 こうして俺の手当てをしてある。拘束は……なし。

 何のつもりでエミリアは俺を治したのだろう?

 こんな命令違反した奴隷なんて捨てられそうなもんだけど。でも……いまなら逃げられる?


 俺はふとエミリアのベットのサイドテーブルに目をやる。

 そこには真っ白な便箋に入れられた手紙とボロボロになった茶色の袋が入っていた。

 その手紙にはひらがなで「なぎの そうじ」と書かれていた。

 この手紙には何が書かれているんだろう。

「お前はいらなくなったから解雇」「お前死ね」とか書かれてそうだ。

 

 俺は恐る恐る手紙を開けた。


”なぎの そうじ


 これを読んでいるということは目を覚ましたということね。よかった、安心したわ。本当に殺しちゃったかと思ったから。そうじは弱いからね。

 じゃあ、結論から言うわね。やっぱりあの命令はなしでいいわ。そうじは弱くて弱くて、私と一緒に戦っても戦力にはならなそうだし、仮に私と行っても邪魔にしかならなさそうだしね。

 それに実は相似には言ってなかったんだけど私、妹がいるの。

 銀髪でわたしと同じくらいの背丈でね、とってもかわいいの……ってこれは関係ないわね。私の妹はね……とっても強いの。私ほどじゃないけど相似より何十、何百いえ、何千倍も強いわ。

 もともと妹と一緒に戦うつもりだったんだけど、もう少し戦力が欲しかったからそうじを買ったの。まあでもそうじと戦って改めてわかったわ。

 わたしは強い。ふふふ、これは自慢よ。私と妹で冒険者なんか返り討ちにしてやるわ。その冒険者を倒したら次はそうじよ。しっかりお仕置きしてあげるから。

 さて……次は相似のことについて話すわ。

 命令違反の悪いペットは大人しくわたしの家でお留守番していなさい、いい?これは命令よ。

 泥棒とかモンスターが近付いたら退治しといてね。わたしが帰るまでその家の物は自由に使っていいからね。

 あと手紙の近くにお金を置いとくわね。それで食料とか買って食べてなさい。

 あとは……そうね、何も言うことが無くなっちゃったわね。まあ、じゃあ……最後に一言。

 

 からだをこわさないように。


 高貴で最強なエミリアより”


 最後の方は何かが濡れたせいか、しおれてて読みにくくなっていた。

 茶色の袋を中身をみると74銀貨が入っていた。


「…………………………俺は馬鹿か」


● ● ●


 小さな小さなコウモリの翼でバッサバッサと空を飛ぶ。

 月にも負けないくらいの高さで飛ぶ。そんな月を背景に1人の少女がこちらを見ていた。


「おねえ~ちゃん、やっと来た~、って……また泣いてる?」

「……泣いてないわよ。リルル、準備はいい?」

「リルルは~い・つ・で・も、大丈夫!」

「そう、それはよかった」


”クエスト”私の妹の調査によると私達を退治してくると予想する人間は3人。2人はAランクでもう1人はSランクと聞いた。

 そのAランク2人は問題ないのだが……問題はそのSランク。

 名は”宝具使いのリーナ”。

 突然現れた謎の冒険者であり最初からSランクを勝ち取った者。

 その強さはSランクの中でも群を抜いており、1人で魔王の幹部のトップの実力を持った『凶王バルサルク』『閉口のガンディア』を倒した化け物と訊く。

 その強さの裏には彼女の”固有スキル”が元となるらしい。『魔王様』が使っていた”宝具”を操ると聞くが……もしそれが本当なら私達では……

 ある宝具は山を消しとばし、ある宝具はどんな傷も治し、ある宝具はどんな攻撃を無効化すると聞く。

 

「ふふふ、参っちゃうわね」

「どったの?お姉ちゃん」

「何でもないわよ。リルル」


 これが妹との最後の会話。めいいっぱい味わなくちゃ。

 

「そういえばお姉ちゃん~男の子の奴隷飼ってたって言ってたよね?その子はどうしたの~?」


 凪乃相似。私が直感で買った奴隷だ。

 なぜ私はあの子を買ったのか、未だに不思議でたまらない。

 弱くて、泣き虫で、臆病で……何一つ戦闘では役にたたない奴隷だ。

 

 結局賭けには負けちゃったけど結果的にはよしとするわ。

 私はあの子に愛情を注げた。私もそれで少しは気が楽になったし……

 あの子は私を恨んでいるかも知れないわね。まあ、仕方ないわね。最後、相似に酷いことしちゃったし……それに、リルルにあんなこと言われちゃ連れて来ようにも連れていけないわよ。


「ふふふ、首輪をつけて置いてきたわ」

「あ、少し笑った?」

「笑ってないわよ」


 もし、リルルが死にそうになったら私が命をかけて助けよう。

 そしてリルルに相似の事を任せよう。

 きっとリルルなら何とかやってくれるだろう。


「おねえ~ちゃん、必ず勝とうね」

「……!……そうね、勝ちましょう」


 私はリルルと共にリーナのいる場所に向かう。

 もうビクビクするのは止めだ。わたし達から向かって終わらせるのだ。


「リルル、血祭りにしてあげましょう」

「うん♪」

 


次は3日後の12(火)に出そうと思います。

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