第6話 『鬼畜で優しさ溢れるエミリア様』
今まで投稿した細かなミスや設定を少しだけ弄りました。
今回も少し長いです。
ステータスの《クラン》だったのを《ギルド》に変えたのですが、また《クラン》にもどしました。
あと吸血族になっていたので吸血鬼に直しました。
今後のこのようなことがないよう気をつけます。
あと余談ですが再生回数ともにブックマークが増えてて嬉しかったです。
登録した方、見てくれた方ありがとうございます。
今後も無理なく投稿しようと思うので見てくれると嬉しいです。
「ここが私の家よ」
ゴブリン生息地帯の『ジャンカル山』のすぐ東にある『キョロックの樹海』と言われる場所のずっと奥を進んだところに小さな家が1つあった。
俺が奴隷として捕まった『何でも屋のジャンク』は『ジャンカル山』越えた先にあり、『キョロックの樹海』に着くのに徒歩数分とかからなかった。
「小さな家でしょ?」
「ち、小さくてかわいいですよ」
「ふふ、ありがとう。さあ上がって頂戴。あなた臭いんだから、ついでに風呂も入りなさいな。沸かしてあげるから」
「あ、ありがとう。エミリアさん」
俺がそうお礼を言うとピクリとエミリアが反応する。
そしてゆっくりと振り向き真面目な顔で……
「相似、こんなことあまり言いたくないけど……私はあなたを買ったの。つまり私はあなたの飼い主そのものなの。だからさん付けではなく様と呼びなさい。そしてできる限り敬語で話なさい」
そう、俺はエミリアに買われたのである。
自分が異世界に来て二日も経たない内に奴隷にされるという冒険者以前の問題である。
そのため俺の首にはまだ首輪が付いたままであった。
ちなみ格好も布一枚である。
俺は一体どうなってしまうのだろうか。いっそのこと逃げてしまおうか……いやでもエミリアは俺を奴隷から助けてくれたんだ……そんなこと。
「え、エミリア様……これでいいですか?」
「よろしい」とエミリアはにっこり笑う。
「あ、相似こっちに来なさい」
「どうした……んですか?」
エミリアは手刀を作り俺の首元にすぅーっと縦に下ろす。
ん……今何したんだ?
ゴトッ
そんな重たい何かが落ちたような音がした。
足元を見ると今さっきまで首についていた首輪が半分に割れていた。
自分の顔色が青くなっていっているのを感じた。
「い、いま何したんですか?」
「え?何って首輪を斬ったんだけど……」
「それって何かのスキルですか?」
エミリアは少し考える素振りをし少し時間が経った後「ああ……そういうこと」と呟いた。
「違うわよ。人間と違って吸血鬼は何倍以上もスペックが違うのよ」
「すごいですね……でもそれってもし力加減を間違えたら俺の首がこの首輪みたいになってたってことですか?」
「私は自分の力を制御できないほどのやわな女じゃないよ」
「な、なるほど」
俺はエミリアの家にお邪魔した。
中はとても洋風チックで、花柄の家具が置かれている。
これは洋風。そうに違いない。
「お風呂沸いたわよ。奴隷生活は疲れたでしょ、ゆっくり入って疲れを取りなさいな」
「あ、ありがとうございます。では先に失礼します」
俺は今まで着けていた布を浴槽の前に置き、風呂のドアを開ける。
浴槽は風呂の湯から舞う湯煙により霧のようになっていた。
俺は浴槽のお湯をバケツですくい自分の身体にかける。それから足先からゆっくりと湯につけていく。
しみるぅ……風呂なんていつ以来だ?
風呂は1人ギリギリ入れるスペースで俺は体操座りをしながら入っていた。
少し窮屈だがこういう風呂も悪くない。
風呂に入ってると今まで溜まった疲れや嫌なことが噓のように消えていくようだ。
いや、まあ嫌なことを忘れるなんてことできないけどな……
ははは、まあ俺はそんなことを気にするような男ではないけどな。
………………
そんなのは噓だ、気にしないだと?そんなこと……できるわけないだろうが。
ローズ達は本当に俺を裏切ったのだろうか?
そんなことないと思う……いや違う。裏切ったんだよな。自分に噓を付こうとするのは俺の悪い癖だ。
でも、もしもだがローズ達も山賊みたいなのに襲われたとかだったら……ありえなくもない。
クソ……クソ……クソ……クソ……クソ……違うだろ。
ありえない。もし本当に山賊なら俺の事を知らないはず、なら”ステータスカード”を捨てないはずだ。
犯人が捨てた理由は俺が知っている人物だからだ。多分犯人は俺の”能力値”だけではなく”フレンドリスト”も見たんじゃないだろうか?
そして”フレンドリスト欄”のリーナと言う名前を見た。
多分だがリーナは有名だろう。俺がリーナに接しているだけで周りの冒険者に嫌われたのも一つの理由だし、彼女がSランクというのもある。
Sランクに何人いるかは知らないがそんなにいるとは思えない。
そして犯人は俺が”リーナ”に告げ口するのを恐れ”ステータスカード”を捨てた。
なら犯人はローズ達しかいない。
俺が彼らに気に触ることをしたから?
彼らに仲間になりたいって言ったから?
俺があまりにも役立たずだったから?
「ははは…………またないてら」
俺はこの異世界に来てから泣いてばっかだな……
俺はいつの間にこんな弱くなっていたのだろうか?いや……最初からか。心も体もよわっちかったんだ。
「……強く、なりたいな」
お風呂のドアにうつっている影が相似の言葉を聞いたあと消えたことを俺は知る由もなかった。
風呂を出たあと俺はエミリアの方へ向かった。
「相似、市場に行くわよ」
「い、市場ですか?何でまた……」
「相似、今の自分の格好を見てもう一度その言葉を言える?」
「あ……そ、そうですね。でも俺金持ってないですよ?」
「それくらい私が払うわよ。ペットの世話は飼い主の仕事でしょ?」
ペット……俺はペットと思われているのか。
なんか悲しい。
「じゃあ行きましょう」
「ちょっと待って頂戴。マークス・プラム・ティア」
詠唱を終えると目の色は青く、髪の毛の色は黒く、コウモリの翼は消えてなくなった。
これはリーナの本でチラッと見たぞ。確かあれは擬態魔法だったか。
「それって魔法ですよね、エミリア様も使えるのですか?」
「私を誰だと思ってるの?あの誇り高き吸血鬼よ」
「でもいちいち姿を変える必要があるのですか?」
「…………あなたは何も知らないのね」
「それは前にも言われた記憶があります」
エミリアは腰に手をあてて何かを説明をしようと口を空けたが、何かを思い出したのか口を閉じた。
「また別の時に言うわ。ほら行くわよ、あ、傘を持って頂戴。いくら擬態しても太陽は苦手なの」
吸血鬼の弱点は太陽が駄目なのか……現実の世界の吸血鬼の弱点はそのままなのか?
ということはニンニクや十字架も苦手なのだろうか?まず、この世界にニンニクがあるかどうかだが……うん、かなりどうでもいいな。
「わかりました」
俺は左手に布を保ち右手で傘を持ち、エミリアは俺の右に歩くという形になる。
「そういえばエミリア様、ここらへんってモンスターでるんですか?」
「出るに決まってるじゃない。まあ私の近くにはあまり寄ってこないけど」
それは多分エミリアが強いと回りのモンスターも察知しているのだろう。
見た目はただの女の子なのだがそれは見た目の話だ。実際にこうやって触れてみてわかる。彼女は強い。
俺がわかるのだ。それをモンスターがわからないわけがない。
「ちなみにどんなモンスターが出るんですか?」
「そうね……例えばー」
エミリアの話いわく『キョロックの樹海』は擬態系モンスター、動物系のモンスター、夜にはアンデットモンスターが出るらしい。ちなみに擬態系モンスターとはその名の通り何かに擬態するモンスター、例えば頭にリンゴをつけて、転がっているように見せかけ本体は道に擬態する、それを囮にして獲物を食う”ロードバーク”木に擬態する”トレント”などがいる。
アンデットモンスターと動物系のモンスターは言わなくてもわかるだろう。
そして驚くことにランクDのモンスターがいないという。
どれもC以上で中にはBのモンスターも出るという。
俺がそこに1人で転がり込んだら間違いなく魔物のえさ確定である。
だが今はエミリアがいるため大変心強い。
「ま、まあでもエミリア様が近くにいるから大丈夫ですよね?」
「相似、それはフラグと言うらしいわよ」
「え?」
ボゴォ!
前を見るとただの木がうねうねと動き出し、次第に木に赤黒い目が開き始める。
”トレント”擬態系モンスターの1匹でランクはCだ。
「と”トレント”……ど、どうしましょう!エミリア様」
「ふむ、傘を持ってあげる。だから相似、行け」
「はい!…………え?お、俺がですか!?」
「他に誰がいるのよ。ほら敵さんが待っているわよ」
”トレント”のほうを見るとただじぃーと俺ら二人を見ていた。
襲ってこないのは多分エミリアがいるからだろう。
「む、無理ですよ。まえ俺Dランクの”チャージボア”に負けたばっかなんですよ?か、勝てるわけが」
「これは命令よ?ペットが飼い主に逆らうの?」
「ほ、本当に無理なんです!俺”固有スキル”が”不明”なんですよ?しかも”能力値”も……せめてDランクのモンスターにしてください!」
「はあ……そうやって相似は逃げるの?逃げて逃げて逃げて、最後も逃げる、そんな人間になりたいの?」
「な、なりたくはない……です……でも」
俺は弱い。そんなこと自分が一番わかっている。
だからこそ逃げてはいけない……そんなことはわかっている。
でも……”チャージボア”の時も”ゴブリン”の時もそうだった。
結局俺は誰かがいないと何もできないのだ。悔しいけど、俺では……勝てない。
「相似、強くなりたいんでしょ?」
エミリアの表情は真剣で彼女の目を見続けたら貫かれてしまいそうだ。
「わ、わかりました」
俺はエミリアに傘を渡し”トレント”の前に出る。
そんな”トレント”は待ちくたびれているのかくねくねと踊っている。
こ、この……舐めやがって。
そうだ、ランクが1つ上がっただけのことじゃないか。たかがそんなこと……
「はぁーすぅーはぁー……よし」
思いだせ、リーナが教えてくれたこと。
俺が今使える魔法は『アイスロック』『エレクトリック』『アースウェイク』『ファイヤーボール』の4つだ。相手のモンスターは木だ。ただの予想だが”チャージボア”より遅いんじゃないか?
見た目からして動きにくいはず。だが『アイスロック』は敵を囲む氷の檻を造る魔法。
”トレント”のような大きいモンスターには使えない。
なら……
「アース・ヴァン・クライ・ダースト!」
地を砂に変える魔法『アースウェイク』
”トレント”の立っていた地面が砂に変わり、”トレント”は沈みだす。
”トレント”は何とか沈まないよう木の腕を地面に刺す。
よし!今だ!
「シャール・リブ・ファース・クリエイト!」
”トレント”の周りに氷の柱が何本も地面に刺さり簡易檻の完成だ。
高くて使えないなら低くすればいい。
そんな浅知恵を振り絞った結果だ
しかも『アースウェイク』で地を砂に変えているため”トレント”は地面を支えるのに精一杯なはず。
ふ、詠唱中に攻撃しないのが仇になったな!”トレント”
もちろん檻を壊す時間は与えない。
「フウ・ウィンド・バール・イヤー・ホステージ!」
俺の持ちうる魔法の中で一番の攻撃力を誇る魔法『エレクトリック』
即席の魔法で作られた暗雲の雲が電流を帯びる。
そしてそれは”トレント”に放たれる。
『エレクトリック』により『アイスロック』の氷の檻ごと壊され、”トレント”に直撃する。
”トレント”に火がつき、次第にそれは拡散しやがて全身を燃やす。
おお……手ごたえはあったぞ!
グギャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!
”トレント”は断末魔の悲鳴をあげている。
これはさすがにやっただろ!
俺は「勝ちました!」と言うためエミリアの方を向こうとした時だった。
グギャァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
叫び声がだんだん大きくなっていることに気づいた。
違う、これは”トレント”の声が大きくなっているんじゃない。
後ろを向くと燃えながら”トレント”は俺の方へ走ってきているのだ。おそらく心中をしようとしているのだ。
ま、まじかよ!
クソ、これじゃあ”チャージボア”の二の舞だ。詠唱が間に合わないのは”チャージボア”の時に経験済みだ。
距離をとるか!?……いや距離をとってもものの数秒で追いつかれるのは明白だ。
そ、そうだ!エミリアに助けを!?
………………
「俺は馬鹿か!!フウ・ウィンドォ!!-ッ」
俺は”トレント”に抱き付かれるようにしがみつかれる。
グアッ!あっつ!死ぬって!
でも、どうせ追いつかれるなら目の前でガン打ちしてやる!
「バール!!・イヤーァ・ホステージィィィ!!」
手に雲が出来上がり、ゴロゴロと鳴りだす。
そしてそれは距離0cmの的に放たれる。
ドゴォオオオン!!
その結果”トレント”は爆散四散した。
「はあ……はあ……やったのか?」
俺はその場に倒れこんだ。
目の前には炭のように真っ黒になった”トレント”の残骸が転がっている。
ハハハ……体中いてぇ。
「よくやった。まさか自分から突っ込んでいくなんて……、”トレント”が近づいた時は私が一太刀入れようと思ったけどいらなかったみたいね」
「ハハハ……でも結果的には引き分け、いや負けもいいところですよ。こんなボロボロじゃあ……」
「何馬鹿なことを言っているの。相似は今生き残ってるじゃない。生きたら勝ち、負けたら死ぬ。それともなに、今の相似は幽霊なのか?それなら私が徐霊してやる」
「そ、そうですか。勝ちですか」
こうして他人に勝ちと言われるとなんだかたまらなく嬉しかった。
初めて一人で勝ったモンスター、今まで誰かに頼ることしかできなかった俺が1人で。
「あら、泣いているの。相似は泣き虫ね。風呂の中でも泣いていたわよね?」
「え……あ、本当だ。というか聞いていたんですね……恥ずかしいです」
でもこれは裏ぎられたときとは違う、うれし涙だ。
「別に恥ずかしがることじゃないわよ。そのままじーっとしてて、ティル・フィン・シス・パルム」
俺の身体が青白い光に包まれる。
身体をみるとやけどのあとがみるみる消えていく。
「エミリア様は『ヒール』も使えるんですね。本当にすごい」
「私がすごいとかどうとかの前に自分の格好を何とかした方がいいと思うわよ」
エミリアはニヤニヤと俺を見て笑っている。
自分を見ると……布は完全に灰となっていた。
「意外に相似は小さいわね……」
「そんなこと言わないでください!」
俺は森の草をちぎって即席の服を作った。
● ● ●
「へい!らっしゃい、て……君すごい格好してるね」
「それはあまり言わないでくれると嬉しいかな」
エミリアに案内され俺はどこかの街の武器屋さんぽいところについた。
周りを見てみると杖や剣などが置いてあった。
奥のほうには魔法使いのローブなどが置いてあるのが見えた。
「この子に一式の装備を用意して」
エミリアがそう言うと店主さんは目をぱちくりさせ……言ってはならないことを言った。
「この少女は……君の子かい?とてもしっかりしてるね~。お嬢ちゃん、飴ちゃんあげようか?」
「え、いや、その……いぃ!?」
エミリアの方を見ると下を俯きプルプルと震えていた。
ゆっくりと顔を上げると真っ赤に染まっていた。それは怒りよりも羞恥心が打ち勝っているような感じだ。
「へ、へえ、わ、わた、このわたしがこ、こ、子供。は、ふははは。そんなに早く死にたいならそう言えばいいのに……私が望みどおりにころし!ッムグゥ!?」
俺はエミリアの口を咄嗟に塞いでいた。
(は、離しなさい!相似!私はこの男を殺さないと気がすまないわ!いえ、殺すだけじゃ物足りないわ!徹底的に拷問して死んでも後悔させてやるわ!!)
(ま、待ってください!エミリア様!エミリア様は正体を隠してここまできたんですよね!?ここでばれたら元も子もないですよ!大丈夫です!エミリア様はどこからどう見ても大人です!)
(う……そ、そうだったわね)
「すぅ~はあ。すぅ~はあ。え、ええ、ありがたく頂戴するわ」
エミリアは店主から飴を貰い、すごい嬉しそうな……つくり笑顔でお礼を言った。
店主はさらに飴を貰ったエミリアの頭の上に手を乗せ……優しく撫でていた。
あ、あかん。
「俺もこんなかわいいこどもぉがああ!あ……ッ」
エミリアの右ストレートが決まり店主は倒れた。
口から泡を吹き白目を向いていた……これ生きてるよな?
「まったく、失礼な男だったわ。さあ、相似、装備を見ましょう。相似は魔法がメインだから魔法使いの装備でいいのよね?」
「は、はい!」
くれぐれもエミリアを子供扱いしないように気をつけなければ……
俺はローブを見ていく。
しかしどのローブがいいとかあるのだろうか?なんか性能とか生地とか違うのだろうか?
適当にローブを取り値段を見てみる。
”マグマスネークのローブ 値段35銀貨
●効果 火耐性(小)”
た、たけえ……35銀貨。
俺がクエストで稼いだとしてどれくらいでこれを買うことができるのだろう。
さすがにこれは無理だ。もっと安いのは……っと。
”グールのローブ 値段10銅貨
●効果 着けると毒になります”
いや……確かに安いのだが毒って……
俺はそっとそのローブを元の場所にしまった。
「相似ー!」
するとエミリアがこっちに近付き一つのフードの付いた黒いローブと青くて小さなクリスタルの嵌まったスティック状のロッドを持っていた。
「相似、これにしなさい」
「え、えーと。ちょっといいですか」
”黒猫のローブ 1金貨
●効果 INT(知力)を少し上昇”
”A級鍛冶師のロッド” 1金貨
●効果 INT(知力)を少し上昇”
「た、高いですよ!!さすがにこんなのは貰えません!」
2金貨なんて……ぜ、絶対無理。
「まーたそんなこと言って。さっきも言ったけどペットの世話は飼い主の仕事なの、わかる?」
「で、でも……な、なら別のローブと杖にしましょう?」
俺は注意を逸らすため別のローブを取ろうとする。
ええい!なんでもいい!なんならさっきの”グールのローブ”でもいい!
だが、俺が取ろうとする手をエミリアがその上に手を置き、取るのを阻止される。
「駄目よ、私はこれがいいの、これ以外は許されないわ。これ以外の着けたら私が消し炭にしてあげるから」
「ぐ……だ、だけど」
「はあ~ならこうしましょう。私はこれを相似に貸してあげることにするわ。だからあなたはこれと同等分……いえ、それ以上に私のために尽くしなさい」
「し、しかし」
「それ以上言い訳をしたら相似の息子をちょん切るわよ」
「こ、これがいいです!」
俺は気絶している店主の方へ向かおうとする。
すると行こうとする俺の手をエミリアに掴まれる。
「相似、まさかノーパンでそれを履く気じゃないでしょうね?これも買いなさい」
エミリアに黒のパンツのような物を渡される。
エミリアってなかなか大胆だよな……
俺はエミリアに2金貨と15銀貨も奢ってもらってしまった。
なんか俺みんなに奢られてばっかだな……なんか男として悲しいな。
いつか俺もリーナやエミリアに何かを奢ってやりたいな。
俺は試着室に行きエミリアに買ってもらったローブと杖を着てみた。
おお……なんか……本当に魔法使いみたいだ。
ローブも生地がいいのか肌触りがとてもいい。
それに見た目は結構分厚そうだったけどなんか風通しもいい。
試着室のカーテンを開けると目の前にエミリアが立っていた。エミリアは俺をじろじろと見てくる。
「なかなか似合ってるじゃない。さすが私が選んだだけのことはあるわ。着心地はどう?」
「とてもいいです!とっても動きやすいし、最高ですよ!」
「そ、そう。そこまで喜んでくれるとは……ま、まあありがたく思いなさい。さあ、さっさとお会計を終わらせるわよ」
エミリアはそう言うと気絶している店主を……腹を蹴った。
ひ、ひでぇ……
「ゴハァッ!は!?あれ?俺のハーレム王国は!?」
こいつはどんな夢を見てたんだよ……
「何寝ぼけたこと言ってんのよ。ほらお会計、2金貨と15銀貨」
「あ、毎度ありがとうございます!お嬢ちゃんもぉッ!」
再度エミリアに右ストレート食らわされて気絶する店主。
店主……お大事に。
俺とエミリアはやることを済んだので家に帰るということに決まったのだが……
ぐぅ~
「……すみません」
「そういえば何も食べさせてなかったわね……。じゃあついでに何か買っていきましょう」
「なんかいろいろとすみません」
「何謝ってるのよ。それに私もお腹すいたし丁度いいのよ」
俺とエミリアは屋台の焼き鳥のような物を買って再びエミリアの家を目指すことにした。
ちなみに商品名は『ラクダバード焼き』という……何それすごい見てみたい。
よし肉の上の部分を一噛みする。中で肉汁があふれ出し……なんというかその……溢れ出すんだよ。
食レポ下手クソだな……
というか久し振りに虫以外の物を食った気がする……
なんかすごく美味しい。
そういえば昨日まで俺……奴隷だったんだよな。ハハ、信じれないな。
エミリアがいなかったら俺はまだ奴隷だったろう。何の理由で俺を買ったのか知らないが本当に感謝している。俺を救い出してくれたことに感謝している。
逃げる?そんなこと……するわけないだろ。
「エミリア様、ありがとうございます」とポツリと無意識に言っていた。
エミリアは「どういたしまして」と焼き鳥もどきをもぐもぐとほおばりながら言った。
● ● ●
あれから帰ったのは昼時だった。
お腹も膨れたしこのローブとロッドの性能を確かめてみたいという自分がいた。
「相似、今から夜まで寝なさい」
「はい……え?ね、寝るって今昼ですよ?」
「吸血鬼は太陽が嫌いで嫌いで見たくもないくらい嫌いなの。本来私は夜を中心に活動しているのよ。だからペットであるあなたが私の生活リズムに合わせなくてどうするの?」
なるほど……つまり俺は朝型人間をやめて夜型人間になれということか?
いやなんか違う気がするが……
「わかりました。え、えーと俺はどこで寝ればいいんですか?」
「私のベットを使っていいわよ」
「え?」
「え?」
え……と、エミリアはいったいナニを言っているのでしょうか?
「え、いや、それだとエミリア様が寝るところがないじゃないですか」
「私も一緒に入るからいいわよ」
「え?」
「え?」
ちょっと待て……エミリアはまじで言っているのか?
いや……絶対まじだ。顔が真顔だし、照れている要素が全く見当たらないぞ。
俺が女と寝る……絶対無理。俺童貞だし(21歳)チキンだし。
ラノベあるあるのラッキースケベ以前の問題だ。
これは絶対回避しなければならない。
「い、いや、俺は床で寝るんでエミリア様はベットで寝てください」
「駄目よ。ペットの健康管理は飼い主の仕事よ、風邪でもひいたらどうするのよ」
「い、いえ俺は身体丈夫なんで気にしないでください。俺みたいな奴隷が高貴である吸血鬼のベットにおこがましい。ええ、そうに違いありません」
「私がいいって言ってるのよ?いい、これは命令よ?ベットで寝なさい」
やばい……この人俺の意図が全く通じていない。
エミリアは頭が硬いんだよ……
「いや、でも、そう俺身体でかいんで俺がベットで寝たらエミリア様の寝るスペースが無くなりますよ」
相似はこの時この言葉にどんな意味が含まれているか気づいていなかった。
この言葉でこのバトルの決着はつくことになる。
「それはあれかしら?私が小さいとでも言っているの?ふふ……相似も冗談が上手くなったものね」
し、しまったー!
馬鹿か俺は!?ああ俺は馬鹿だ。認めるよ。というか俺の前の言葉の意図に気がつかなくて何でこんな気づきにくい言葉に気づくんだ?
「ち、違います!ただ……え、えーと」
やばい、何も出てこねえ……
頭が真っ白だ。
するとエミリアは小さな翼で飛び、俺と同じ目線に合わせる。
そして俺の頭に手を乗せにっこり笑い……
「相似、寝ろ」
エミリアから滲み出る殺気はどことなくあのリーナ似ていた。
そんな殺気に対し俺は……
「はい……」
涙ながら承諾するのだった。
しぶしぶ俺は寝室に行く。
寝室には二つのベットが置いてあった。一つは花柄で、もう一つは”チャージボア”の絵柄が描かれていた。
エミリアの家族の物か……?
というかエミリアに家族がいるのか。
「え、えーとこれはどっちがエミリア様の……ですか?」
「私のは花柄のよ」
俺はエミリアのベットにいそいそと入っていく。
エミリアのベットはとてもいい匂いが……いかんいかん!何言ってるんだ俺は!
「相似は先に寝てなさい。私はまだやることがあるから終わったら寝るわ。そして明日相似に何をやってほしいか話すわ」
「は、はい。えーと……おやすみ、なさい?」
「ふふ、何で疑問系なのよ。ええ、おやすみなさい」
エミリアはそう言うと寝室から出て扉を閉めていった。
ドアを閉めたためあたりが真っ暗になる。
俺はゆっくりと目を閉じる。
今日は本当に色んなことがあったな……
きっと忘れられない1日になることだろう。
エミリアに買われた日。
初めて1人でモンスターを倒した日。
エミリアに服を買ってもらった日。
エミリアと一緒に焼き鳥を食べた日。
こんなこと現実世界では絶対にありえないことだ。
久し振りだ。こんな気持ち、現実世界では絶対に味わえなかっただろう。
だって俺はただの社畜だぞ?それなのに今は”冒険者”だ。
信じれない……だが現実だ。あの痛み、あの涙、あの感触、あの達成感。すべて本物。
すべて触れる。触れられる。現実なんだ。
おれは……おれは。
俺は幸せだ。
● ● ●
『イフェリオンの洞窟』でLv上げを終え、私達は一度『オラリア』に戻っていた。
あれから1週間滞在した結果、私、ゼン、リオンのLvは5上がった。まあ、私はどれだけLv上がっても”能力値”に変化はないのだが……経験を詰んでるということにしておこう。
何故私が『オラリア』に戻ったか、それは狙っているクエストの目標のLvを仲間が達したため戻ったのと、もしかすると相似さんに会えるかなーと甘い期待をした自分がいたこと。
私は”ステータスカード”を見る。
”フレンドリスト
・凪乃相似 現在位置 『《迷宮》バザークの巣窟』”
へえ……相似さんは今、迷宮にいるのか……迷宮……迷宮ね。
ん?迷宮?え?相似さんが?
私はもう一度”ステータスカード”を見る……が、何度見ても『バザークの巣窟』と書いてある。
迷宮。
これは少し蠱毒という物に少し似ている。1つの容器に多種類の虫を入れ生き残った者が蠱毒の王となる。迷宮も同じ、1つの場所にモンスター同士で争う。生き残った者がその場所、迷宮の王となる。冒険者はその王を迷宮主やダンジョンキングなどと呼んでいる。そしてその迷宮主は倒したモンスターを喰らい自分で新たなモンスターを生み出し、迷宮が生まれる。そのモンスターを迷宮兵士と言い他のモンスターに比べてかなり強いといわれている。
そして見事迷宮主を倒すことができるとすごいアイテムが貰えるとかなんとか。
す、すごい……1週間も見ない間に迷宮に潜れるようになったんだ……
しかも『バザークの巣窟』は迷宮の中でも圧倒的な難しさを誇ることで知られている。
私もモタモタしてたら抜かされちゃうな……がんばらないと。
私達の”クエストの標的”は、あるSランク冒険者の”固有スキル”によるとある場所に1週間ちょっとで出現すると予測されている。
私達は残りの時間を有意義に使うだけだ。
なら私達が取るべき行動は……
「リオン、ゼン、残り一週間は……めーいっぱい!休もうぅ!」
「「おぉー!」」
疲れを取ることも大事である。
ふふ……近いうちに会えたらいいな。
次は3日後の9(土)になると思います。




