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異世界復讐物語  作者: 希他勇
第一章 能力発現編
4/12

第3話 『Sランクの破壊力は想像以上』

すみません。前に予告したとおり少し長いかも知れません。

戦闘シーン書くの思った以上に難しい。頭の中に映像はできているのだが……

「相似さん、右に展開して『アイスロック』の詠唱を!」

「了解!」

 

 俺は言われたとおりにリーナの右に移動し、リーナで標的の死角になったところで初級水魔法『アイスロック』の詠唱を開始する。

 

 俺はあれからリーナと一緒にクエストに来ていた。

 ちなみに受けたクエストはこれだ。


 ~畑が荒らされています、助けてください!~

 

 クエスト内容 ”チャージボア”を5匹討伐

 予想難易度  D1(Dランク1人でクリア可能レベル)

 必要受託ランク なし

 報酬 50銅貨  というものだ。

 

 ”チャージボア”というのは俺が異世界入り直後に出くわしたあのイノシシもどきのことである。ちなみに何故俺がイノシシもどきと呼んでいるか、それは普通のイノシシと違い足が3つしかないからだ。

 前足に2本、後足に1本である。

 しかしそれでは走れないのでは?と思うがこいつは走らないのだ。

 まさに突進するかのように前足より異常に発達した後足でジャンプし相手に突撃するのことで”チャージボア”とつけられたらしい。 

 そのジャンプの飛距離はおよそ5m以上ありオリンピックに出たら確実に優勝するであろう。

 上手くその突進を食らえば骨折ではすまないという。しかしそんな危ないなら難易度は”D3”くらいなんじゃないかと思ったが、こいつは危害を加えなければ襲ってこないそうだ。


 ……こいつ俺を見た途端に攻撃してきたよな?

 有無も言わさずこいつ俺に突進してきたよな?

 ちょっとこの説明文を書いた奴に文句を言わなければ。

 

 リーナは”チャージボア”を1本のダガーで足止めをしている。

”チャージボア”はリーナに向け何度も突進しているがリーナはビクともしない。

 俺が想像してたより、リーナはすごい奴なのかもしれない。

 先ほどから”チャージボア”に突進されているのだが、それをダガーで一歩も動かず足止めをしているのだ。

 おそらく避けないのは俺が後ろのいるからであろう。

 ていうかあのダガーはいつ出したのだろう? 普段武器を持っているようには見えなかったのだが……

 俺は詠唱を終え呪文名を唱える。


「『アイスロック!』」


 すると”チャージボア”の周りに檻のような脆い氷の造形物みたいなものが出来上がる。

”チャージボア”は突然の造形物に一旦戸惑うがすぐにジャンピングアタックを開始する。

 あの檻はもって10秒弱くらいか?

 ちなみこの魔法はリーナから貰った『魔道書』というものから水魔法の一覧の『アイスロック』の詠唱文を音読しているだけだ。


「相似さん!次に『エレクトリック』でトドメを!」

「了解!」


 どうやらトドメはリーナはあくまで俺にやらせるらしい。

 なんとまあ優しい……

 俺は初級水魔法覧の『エレクトリック』の詠唱を開始する。


「フウ・ウィンド・バール・イヤー・ホステージ!」


唱え終えると手の先から一寸の雷が作り始められ、出来上がりと同時にそれは”チャージボア”へと放たれる。

 ふふ、水に流すと言ったな? あれは噓だ。

 

 ふごああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!


 氷の檻は雷に破壊され、それは”チャージボア”を貫通する。

”チャージボア”は叫びと共に絶命した。

こんがりと焼け香ばしい匂いが食欲をそそる。


「ふう……やっと一体か」

「やっぱりINTが高いだけあるね。"チャージボア”が1Lvで一撃なんてすごいよ!」


 うーん……これを俺は素直に喜んで良いのだろうか?

 いや、自分の言葉で、自分の手から魔法が使えたことは嬉しいが、あの受付の姉さんが言うには俺はDランク。しかもこのクエストは予想難易度はD1だ。つまり俺一人でもクリア可能ということになる。

 どうにもこの言葉はお世辞にしか聞こえない。

 まあ、多分俺以外でもこれくらいはできるレベルなんだろう。


「そういえばリーナ、倒したモンスターは写真とかで証明したほうが良いのか?」


 そもそもこの世界に写真があるかどうかだが……

 異世界にスマホって……雰囲気ぶち壊しやなあ。


「倒したモンスターは自分の”ステータスカード”に経験値と一緒に書かれるよ」

「なるほど。じゃあ倒したモンスターはどうすれば良いんだ?ゲームみたいにクリスタルやコインとかに変わるのか?」

「ふふ、それはゲームだけだよ。この世界では倒したモンスターを捌いて回収屋に渡せばお金と変えてくれるよ」


 ふむふむなるほど……つまりモン●ンと同じ要素ということか。


 俺は手元にある”ステータスカード”を見る。


”LV2 NAGINO SOUZI(凪乃相似)ランク D

 HP100 MP50 

 ATK(攻撃力)   31

 DEF(防御力)   31

 SPD(俊敏性)   21

 INT(知力)    51

 MPR(魔法防御力) 31

 LUK(運)     -1


《職業》冒険者

《クラン》無所属

《固有スキル》『不明』”


 どうやらLvが1上がったらしい。

 ステータスは全体的に1上昇……あれ運下がってね?

 これどんどん多くなっていかないよな。もともと運がないのにこれ以上運をマイナスにしないでくれよ。

 

「ありがとう。でもリーナにお願いがあるんだが、次は1人でやらしてほしい」

「どうして?」

「このクエストは俺1人でもクリア可能なレベルなんだろう?ならリーナがいなくなった時に困らないよう練習しておきたいんだ」


 リーナは人差し指を口に当て「ん~」と唸っている。


「なるほど……うん、わかった!でも危なくなったらすぐ助太刀するからね」

「おう」


 俺は遠くにいる1体の”チャージボア”を発見すると攻撃範囲に入るよう近付いていく。

 そしてギリギリ入ったところで再び魔法の詠唱を開始する。

 さっきの戦いでコツはなんとなく掴んだ。

 

 最初は相手の行動を制限する。


「アース・ヴァン・クライ・ダースト!」


 すると”チャージボア”の足元を緩み始め次第に沈み始めていく。

 これは初級土魔法の『アースウェイク』というもので地を砂に変える魔法だ。

 一つの魔法だけではなく多種類の魔法を使えるようにしたい。そうすれば魔法の幅も広がると考えている。 獲物が這い上がろうとしている間に俺は次の魔法の準備に取り掛かる。


「フォール・ディス・ドロー!」


 これは『ファイヤーボール』といい、初級の火魔法だ。

 威力はやや低いらしいが詠唱が短いので誰もがこの魔法を愛用するという。

 野球ボールくらいの火の玉が手のひらから出て、それを”チャージボア”に投げつける。

 やったか!?と思ったが、俺はこいつの特性を忘れていた。

”チャージボア”は魔法でできた砂のところで後足に力を溜めおもいっきしジャンプし、火の玉を軽々と避け魔法を唱えた俺の目の前に着地した。

 距離からして3mのくらいでボアは鼻息を荒くし、俺を”標的”として定めたようだ。

 ボアは後足に力込めているため地面が割れる。


 や、やば!

 俺はすぐに魔法の詠唱を開始する。

 

「ふ、フル・ウィンド!・バール!!ーっ!!」


”チャージボア”の後足が地面から離れたのが見えた。

 クソ!間に合わねえ!

 なんだかボアの突進が遅く見える。これが走馬灯ってものなのだろうか。

 もう少し俺がモンスターの特徴を知っていれば。

 いや、これはいい訳だな。

 俺は”チャージボア”の特徴は事前にリーナから聞いていた。

 

 クソ……つくづく俺は運がないな……

 いや、これも違うな。

 俺はリーナに会えた時点で運がよかったんだ。

 これは紛れもなく俺のせいだ。

  

 ボアの体が俺に当たろうとした時だった。

 何かが金属物にぶつかるそんな鈍い音がした。

 怖くて目を閉じたが、俺に痛みはない。

 死ぬ直前に痛みはないものなのだろうか?

 

「相似さん!相似さん!」

 

 誰かが俺の名前を呼んでいる。天使か?はたまた俺を冥界へ連れ去る死神か。

 恐る恐る目を開けると……大きな盾を持ったリーナが俺の前にいた。


「相似さん、まだ死んでないよ」

「なんだ、天使か」


 そういえば危なくなったら助けてくれるんだったな……いや、でも裏を返せば俺はリーナがいなかったら死んでいたのか?

 ……情けねえ。

 俺はこの世界で生きていくことができるのだろうか。


「もう……相似さん、後でみっちりと戦い方を教えるから、今は休んでて」


 リーナはそう言うと目の前の”チャージボア”に向き直る。

 そういえばリーナはあの盾を……というよりダガーもだったがいつ出したんだ?

 そんなことを考えているとリーナは持っている盾を投げ捨てるとそれは光の粒子となり分散して消えてなくなった。


「どうなってんだ……?」


 リーナは”チャージボア”に対し1歩2歩と歩いていく。

 その瞬間だった。

”チャージボア”がものすごい勢いで後ろにジャンプしたのだ。

 それは俺でも理解できた。

 前を歩くリーナの背中だけでも感じる殺気に”チャージボア”は当てられたのだ。

 手が、肌が、脳が、全てが震えている。

 これは……恐怖か?


「ウェイポンチェンジ、スピア」


 リーナがポツリと言い放った言葉と同時に彼女の手に再び光の粒子が集まりだしていく。次第にそれは形どられ一つの武器、『槍』が出来上がる。

 しかもただの槍じゃない。異世界きたてほやほやの俺でも理解できる。

 俺に因縁をつけてきた騎士が持ってた槍よりもずっと……おぞましい何かだ。

 血で染められたかのように赤く、三叉槍のような形をしている。


 リーナはその場で垂直に高く飛び、できた槍をまるで槍投げでもするかのように構える。

 そして一言。


「グングニル」


 リーナの言葉と同時に放たれた槍は流星のようにプラズマを帯び、一直線に”チャージボア”に放たれた。

 このとき凪乃相似の目にはリーナが槍を投げる素振りしか見えず放たれた槍のスピードを目で終えなかった。

 直撃すると一本の光の柱が現れあたり一面を風圧で消し飛ばした。

 残ったのは焼け落ちた野原とクレータ、そして地に刺さる1本の槍だけ。

”チャージボア”の姿はどこにも見当たらなかった。


「はは……なんじゃこりゃ」


 魔法関係ないじゃん……

 こうして残りのボアの討伐もリーナが全てオーバーキルしたのであった。


● ● ●


「こちら、クエスト報酬の50銅貨となります。ご確認ください」


 俺とリーナはクエストを終えた後ギルドに戻り、受付に報酬を受け取りに来ていた。

 50銅貨あることを確認し、俺とリーナは食堂へと足を向けた。


「ほいリーナ、報酬の50銅貨だ」

「え、い、いいよ!お金は相似さんが貰って」

「そういう訳にもいかないだろ。俺は今回のクエスト実質リーナがボアを倒している間、草むしりしてたくらいだぞ」


 今回のクエストはリーナにLv上げを手伝って貰うために行っただけであって、報酬を貰うためにやったわけではない。

 それに貰うにしても最初のボアをリーナの補助が合って倒しただけであって俺は何もしてないに等しい。

 今回俺がやったことといえば、だだっ広い草原の雑草を少し綺麗にしたくらいだ。


「じゃ、じゃあせめて半分こ!さすがに相似さんの報酬がなしなのは駄目!じゃないと私はこの報酬を貰わないから」

「はぁ、頑固だな。じゃあせめて30銅貨にしてくれ。半分はさすがに貰えない」

「相似さんこそ、まあそれなら……」


 リーナに30銅貨を渡しこの件に収集はついたが、俺は今回リーナに聞かなくてはいけないことができた。


「そういえばリーナ、あのとんでもない武器はいったい何なんだ?魔法なら俺に教えてほしいんだが」

「ご、ごめん。あれは私の”固有スキル”なの……」

「”固有スキル”ってあんなすげーのかよ!」


 なるほど……俺のステータスの能力値は平均値よりやや低いだけだけだったのに何故受付の人にあんな悲しみの目を向けられたのか、その理由がやっと理解できた。

 まあ……確かにあれだけすごけりゃ”固有スキル”のすごさを実感できる。


「なあ、リーナの”ステータスカード”を見せてもらってもいいか?」

「いいよー」


 リーナは猫耳フードのポケットから自分の”ステータスカード”を取り出し俺に渡す。

 

”LV53 RINAリーナ ランク S

 HP1000 MP1000

 ATK(攻撃力)   1000

 DEF(防御力)   1000

 SPD(俊敏性)   1000

 INT(知力)    1000

 MPR(魔法防御力) 1000

 LUK(運)     1000


《職業》冒険者

《クラン》ラビットバルーン

《固有スキル》『宝物庫ほうもつこ』(《初代魔王》が所持してたといわれるS級武具をMPを消費することで自由に取り出し可能)

       『千の値』(能力値の初期値ともに上限値が全て1000になる)”


「リーナSランクだったのかよ!」


 次々出てくるダガーや盾に”チャージボア”を跡形もなく消し飛ばしたあの槍、多分あれは”固有スキル”の『宝物庫』ってやつだろう。

 そしてこの『千の値』ってやつもすごい。

 最初から能力値がオール1000なんてほぼチートじゃないか!


「まあ、あんなもん見せられりゃ納得するしかねえか……。それにしてもこの”千の値”ってやつも羨ましいよ」

「この”固有スキル”はそんなに良いものじゃないよ。どんだけLvが上がっても能力値はこれ以上上がらないの」

「あーそっか……いや、でも俺の能力値はどれだけLvが上がってもリーナに届くとは思えないんだが……」


 俺が1Lv上がって全体の能力値が1上がるということは、このリーナの53LVになる時俺の全体の能力値は52しか上がらないということ。仮に3、4上がったとしてもリーナのステータスを超えるのはほぼ無理だろう。


「人によって能力値の上がり方が1Lv上がって100以上上がる人もいるので、私なんて結構抜かれちゃうから。だから相似さんも”固有スキル”がない代わりにきっと……」

「おい、フラグになるようなことはやめてくれ」


 ぐうぅ~


 会話を遮ったこの音。

 リーナを見るとおなかに手を当てて頬が赤く染まっている。


「お腹すいちゃった……ご飯食べない?」

「賛成だ。俺も腹すいたしご飯食べるか」

「じゃあ私がご飯持ってくるよ。相似さんはここで待ってて」


 リーナはそう言うと椅子から立ち上がりカウンタにへと去っていった。


「おい」


 1人の男の声。

 声のほうを向くと革の軽装備を着けた盗賊風の金髪の男が立っており、他にも後ろにぞろぞろと冒険者と思わせる人がいる。


「えーと……どちら様で?」

「俺はリーナと同じクランのゼンというものだ」


 あー『ラビットバルーン』の人達か。

 ふむ、リーナには世話になったしこの人達も同じクランということは家族みたいなもんだろ。

 ここは1つ礼でも言っておくか……


「どうも始めましてええええぇぇぇぇ!?」


 ゼンは俺の服の胸元を掴み気のたった目つきで睨みつける。


「おい、おまえ誰だよ。リーナと何してんだよ」


 あーこれはあれか、「俺の彼女に何してるんだ?」みたいな風に思ってるのかな?

 うむ、なら誤解のないように訂正しなければ。


「お、俺はただリーナにLv上げを手伝ってもらってただけですよ?」


 俺は社畜で鍛えられた営業スマイルで丁寧に答える。

 ふ……完璧。

 俺がそう答えるとゼンは俺の服から手を離しワナワナと震えている。


「リーナだあぁ!てめえ何呼び捨てで呼んでんだ?あぁ!」

「ひいぃ!あ、いや……その、ごめんなさい!」


 ゼンの威嚇の入り混じった声に萎縮しはじめる。

 いや、本当にもう……勘弁してください。


「ははは!お前Dランクかよ!Dランクなんて始めてみたぞ!」


 ゼンの手には見覚えのある”ステータスカード”を持っていた。

 え……あれって。

 俺は自分のポケットを確認するが”ステータスカード”が見当たらない。

 い、いつの間に盗ったんだ?


「お、おい返してくれ」

「ぶはっ!”固有スキル”『不明』って。あははははは。まじかよこいつ!おーいみんな見てみろよ!」


 男は後ろにいる仲間であろう者に俺の”ステータスカード”を投げる。

 仲間たちは嘲笑が交じった声で俺のカードを見ている。


「うわ!へぼ!」

「私こんな低い能力値初めて見たよ」


 そいつらはカードを見た後、床にカードを投げ捨てる。


「リーナはな、お前みたいな雑魚が関わっていい人じゃねえんだよ。そこらへんをわかって人付き合いしてくれないと困るんだよ」


 はあ……何でこう異世界は俺に厳しいんですかね。

 まあ、これ以上リーナにお世話になる訳にもいかないし丁度よかったのかもな。

 

 俺は落ちている自分の”ステータスカード”を拾おうとすると、ゼンがカードを踏みつける。


「足を退けろ」

 

 そう言うが男は足を退ける素振りが見せないので、引っ張ったり押したりするがびくともしない。

 そんな俺の姿を周りの冒険者はくすくすと笑っている。


 クソ……惨めだ。俺は何度この思いをしなければいけないんだ。

 こんな何もできない惨めな自分が嫌いだ。

 現実世界に帰って酒の一杯でも飲んで今日あった全てのことを忘れたい。

 

(自分にこんな思いをさせる奴等が憎いか?)

 

 突如、頭の中に女性の声が再生される。

 あまりの憎さに心の幻聴が作り出されたのか?

 いや、だが俺はこの声を知っているような気がする。どこかで聞いたことあるか?

 

 …………誰だよ。


(我が誰だろうと主には関係なかろう。今は我の質問に答えよ)


 主……? まあいいや。そうだな、憎くないと言えば噓になるな。


(そうか……我は訳有って主の脳の一部に魔法を使って話しかけているんじゃ)

 そう答えると女性の声のトーンがわずかに上がったような気がした。


 つまり何が言いたい?


(クックック、我が魔力を強めれば主の体を一時的だが借り受けることができる。我がそやつらに軽いお灸を添えてやろうかっと言っておる)


 そんなことできるのか。まあ、善行な人間なら「そんなことはダメだ」とか言うんだろうな。


(まあ……そうじゃな。我が今まで出会った人間はそう言う何の面白みもない奴等ばっかじゃったな、だが主は違うというのか?)


 同じだ。俺もこいつらもそしてお前も。全員同じだ、所詮”善行”なんて言葉は”偽善の勇気”と一緒なんだ。名前も顔も知らないお前に復讐してほしいもんだ。


(……)


 だがな、裏はそうで有っても表は違いたいと思ってる。


(主は何を言っているんじゃ?)


 まあ、自分で復讐するってことだ。

 自分で強くなってこいつらに見返してやるさ。


(クックック……相変わらずじゃな、主は。心配した我が馬鹿だった)


 そのなんだ……主主言うのをやめてくれないか? 俺はお前の主になった覚えはないし、それに俺はお前の名前も知らないんだぞ。そっちは俺の事を知っている口ぶりのようだが。


(おお、そうじゃったな、すっかり忘れとった。なら、自己紹介をしよう。我の名はミルキス、初代魔王にして、ある者に命を救われた者じゃ。クック、我は主の全てを知っているぞ)


 だから主はやめろって。てかミルキス……?魔王……? 何かどこかで聞いた単語だな。え……と確か……。


(クックック、そろそろ魔力が尽きる時間じゃ。我はそろそろおいとまするとしよう。主に栄光ある輝きし未来があることを願っておるぞ)


 あ、おい!

 ミルキスはそう言うと次第に声が薄くなっていき、しばらくすると完全に消えた。

 俺は今ある現実に戻される。


「おーい!固まってるけどだいじょうぶでちゅかー。ぎゃははは、怖くて声もでないでちゅかー?」


 ゼンのからかうよな口調につられ周りの冒険者もつられて笑いだす。

 ただ笑われてるだけだと思うなよ……

 俺はゼンに聴こえないよう小声で『ファイヤーボール』の詠唱を始めようとした時だった。


「相似さんー、コッテリア食べよー」

 

 突如響いた少女の声。

 リーナが両手にコッテリアを持ってこちらを見ていた。

 リーナはゼンの足元に向けた瞬間、目つきが変わったのがわかった。

 その目つきは俺も今日リーナとクエストに同伴した時に見せた時の威圧とよく似ていた、いやほぼ同じと言っても良い。

 ゼンと周りの冒険者もリーナの殺気に気づきさっきまで騒がしかったのが静寂に移り変わった。


「ねえ、ゼン……何してるの?」

「あ、いや、そのちげえんだよ!こいつがリーナに付き纏ってるからちょっと文句言ってただけで」


 リーナはゼンの言葉黙って聴き、ただ無言で近付きポツリと一言。


「退いて」

「へ?」


 あっけを取られるゼン、意味がわからなかったが次の言葉で嫌でも理解することになる。

 

「足をどけろッ!!」


 いつも優しいリーナから考えられないほどの覇気のある声に、獲物を睨み殺すような目。

 あの戦闘で行った時のリーナよりも怖いと思ってしまった。


「う……あ」

 

 ゼンはカードを踏んでいる足を無意識に退ける。

 周りの冒険者もリーナの威圧に蛇に睨まれた鼠のように萎縮している。

 ちなみに俺もである。


 リーナは落ちているカードを拾い、フードの裾で踏まれて汚れた部分を丁寧に拭いでいる。

 その時のリーナの表情はどことなく切ないような気がする。


「相似さんごめんね、うちのクランの子が迷惑かけて。私がきつく言っておくね」

「あ、ああ」


「「……」」


 しばらくの沈黙。

 沈黙のせいで食卓のほうで数人の冒険者の談笑がギルド内に響き渡っている。


「相似さんこっち来て」


 リーナが沈黙を破り俺の手を引いてギルドの外へと歩いていく。

 後ろを振り向くとゼンとその仲間の冒険者がギロリと鋭い目つきで俺の方を見ていた。

 俺は何もしてないだろ……


 リーナは俺の”ステータスカード”を目の前に出す。

 俺はそのカードを取ろうとするがリーナが力を込めているせいで取れない。


「り、リーナ?どうした?」


 え、俺の力が弱すぎて取れないの?

 女の子に力で負けるって相当恥ずかしいんだが。


「私たちね、あるクエストのための戦力調達というか……Lv上げ?をしてたの。だから、その、もうここをでなくちゃいけなくて……だ、だから……」


 リーナは顔をピンク色に染め、俺の”ステータスカードを持っている手がわずかながらに震えている。

 え、これはまさか……


「そ、その」


 俺にも春が……


「あの時の借りを今返しくれないかな!」

「…………へ?」


 やはり俺に春などという甘い言葉は到底来そうになさそうだ。







*公開する予定がないのでゼンの”ステータスカード”を書いとこうと思います*


”LV42 ZENゼン ランク A

 HP530 MP600

 ATK(攻撃力)   849

 DEF(防御力)   615

 SPD(俊敏性)   1005

 INT(知力)    340

 MPR(魔法防御力) 415

 LUK(運)     10


《職業》盗賊

《クラン》ラビットバルーン

《固有スキル》『盗人の悪知恵』盗賊系スキルの命中率を大幅に上昇+新スキル(スティール)の獲得

       





 


 

次は3日後4月1日(金)に投稿しようと思います。

時間帯も揃えたほうがいいのだろうか?

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