第1話 『彼女は女神ですか!?』
「いらっしゃいませ~」
何故こうなった。
「探し物は便利な武器ですか?防具ですか?それとも……」
いや、原因は自分でも嫌というほど理解している。
だが突然の現状についてこれないだけである。
「奴隷ですか?」
俺は奴隷として売られていた。
なぜこうなったか、それは数日ほど遡る。
● ● ●
「はあ……はあ……やっとついた」
俺は自称魔王ミルキーのおかげ……のせいで異世界に飛ばされたのである。
しかもその時俺の手元にあったのは中二感満載の手紙1枚と中身が寂しい財布、そして会社服の1枚だけだった。
そのおかげもあって俺は草原をさまよい続けたまである。
絶対ミルキー泣かすと心に誓い俺は街を目指した……が、そう上手く行けるはずもなく、道中は化け物どもに襲われるわ、腹はすくわで死ぬかと思った。
「しかし、まあ……本当に異世界にいるんだな。俺……」
ごつい鎧を着た戦士風の男、頭に首にバンダナを付けへそを露出させた盗賊風の女が街の中で喋っている姿が見える。
門の前には二人の騎士が立っており、その門の上には『オラリア』と書かれた看板が付けられている。
おお……文字はわかんないのに、意味はわかるんだな……日本語翻訳ってそう言うことか。ん?でも待てよ。意味がわかってもその文字を書けるようにしなきゃいけないじゃないか?
……ここまで来て勉強しろってことか。いや、これは後回しにしよう。
まあでも、これだけ見たら嫌でも異世界なんだなと理解できる。
俺はこれからこの世界で生きていく、あんな風に仲間たちと談笑し、モンスターを倒して……
そんなことを考えると自然と身体が熱くなってくる。
「さあ!俺の冒険譚、第一章の始まりー」
「あーちょっと君、待ちなさい」
「へ?」
そこにはいかにも騎士風の二人の男が街への入り口にいた。
そのうちの一人が俺に近付きいかにも怪しい目を向けてくる。
「おい、あんた見ない格好だな、どこから来たんだ?」
「え!そ、その……日本です。はい」
情けねえ!いかにもごつそうだからってそんな萎縮すんな、俺!
「ニホン?聞かないな。お前の”ステータスカード”を見せろ」
”ステータスカード”?あーミルキーが言ってたやつか。
「持ってないんですけど」
「は?”ステータスカード”持ってないだと?」
騎士風の男は明らかに目つきを変え……もっている槍を構え始めた。
「え、ちょっと待ってくれよ!本当に持ってないんだってさ!」
「”ステータスカード”って物はな、本来生まれたときには既に持っている物なんだよ。それを持ってない奴は大抵魔王軍の残り物ぐらいだ」
騎士風の男はじりじりと近付き、いかにも俺を退治しようとしている。
「知るか!俺は別の世界から来たんだ!貰った手紙にもギルドで作って貰えって書いてあったんだよ!」
「ほう、ではその手紙見せてみろ」
「あ、いいぜ!散々疑ったことを後悔するんだな!クソ騎士!」
俺の言葉で一瞬顔を歪めたがそんなのは知ったこっちゃない。
今からその顔が泣き面になるのが楽しみでしかたねえぜ!ハハッ!
「……あれ、あれ、俺どこやっー!」
どこにもあるはずがないのだ。
だって……俺が破いたんだから。
「……失くしました」
泣き面になるのは俺のほうだった。
俺がそう言うと騎士はにやりと口を歪め……
「ほぉ~失くした!?失くしちゃいましたか!そりゃあいけませんな!しかしそうなるとあなた様が魔王軍の残り物じゃないという証明ができませんな~」
く!こいつ!急に卑屈に成りやがって!
「ほら!観念しろ!どうせ魔王軍の者なんだろ!」
騎士の男は攻撃態勢に入り、今にも襲ってきそうだ。
「だからちげえよ!待ってくれ!あ、そうだ!差出人の名前聞けばあんたも知っているひー」
「ねえ、私の友達に何やってるの?」
門の後ろから一人の声がした。
そこには黒の猫耳フードを被ったショート黒髪にくりっとした黒い目。すーっと通った鼻に子供のような小さな唇にこじんまりとした身体をしている。
語彙的に女性なのだろうが美少年と言われても納得できる顔をしている。
「え、リ、リーナさん!?その方と知り合いなんですか?」
「言ったでしょ?友達だって……ね?」
その少女はこちらに振り向き右目はウィンクさせる。
俺は少女に合わせ、コクリと頷いた。
「し、しかし……」
騎士の人もどうやら信じてないようで、俺を通したくないようだ。
するとリーナといわれている少女は騎士に近付きポケットから何かを取り出しそれを騎士の手の上にのせた。
それはルビーのような赤色の光沢のある綺麗な宝石。宝石に全く知識がない俺が見ても高そうだ。
「リーナさんの友達を無下に扱ってしまいすみませんでした!ささ、お通りください!」
こ、こいつ……殴りてえ。
「ほら、いこ」
リーナと言われている人は俺の手を握り、門の中へと引っ張っていく。
彼女の手は小さく暖かかった。久し振りの人の温もりがどうも心地よかった。
そういえばもう一人の騎士は何も言わないのか?と思ったが……それはもう気持ちよさそうに寝ていた。
街の中は、石造りの家が立ち並び……変なトカゲみたいな生き物が荷台を連れ進んでいく。街の風景は、中世ヨーロッパのような街並み。
上を見上げると、明かりはある。だけど、電灯の類じゃない。丸い太陽のような物が浮いている。
そんなレンガの道を1人の少女が、1人の男の手を持ち進んでいく。
「はぁ~全くあの人は頭が硬いんだから。そ……、君だいじょうぶ……じゃなさそうだね」
「うわああああああ、ありがとうございます!本当にありがとうございます!
俺はリーナの服にしがみつきぽろぽろと泣いた。
あの騎士の人に魔王軍の者として処理されるところだった。
異世界に来たのに誤認で死。最悪すぎる。
「お、落ちついて。大丈夫、もう大丈夫だから。ほら、泣かないで」
リーナは子供をあやすように優しく頭を撫でてくれた……(21歳)
ミルキーの手紙の”大丈夫”よりどれだけ安心感があることやら。
俺はリーナの母心のような優しさに甘え存分に泣いた。
● ● ●
ここはギルド。問題事や事件などの依頼を”クエスト”という形で発信し、それを冒険者達が自分のレベルに合った”クエスト”を受けるのである。
ちなみに”冒険者”というのは、その”クエスト”などを受注し解決する者、いわば何でも屋みたいなものらしい。
そんなギルドにある食堂に顔を埋めている人が一人……。
「うぐぅ……死にたい」
俺はあれから1時間ほど泣きに泣いてやっとの思いで泣き止むことができたのだが、泣き終わったあと明らかに自分より年下な少女に慰めてもらったということを思い出し悶えていた。
これが穴があったら入りたいというやつか……
「き、気にしないで、あれは誰だって泣くと思うよ? あの騎士の人の目ギラッギラして恐かったし」
リーナさんのさり気ない慰めを止めてほしい。
悪意がないのはわかっているんだが、慰められるたびにあの醜態を思い出してしまう。
「あ、ありがとう……リーナさん?でいいんですよね」
「そういえば自己紹介がまだだったね。私はリーナ、そのままリーナでいいよ」
「じゃあリーナ、俺は凪乃相似だ。まあ、適当に呼んでくれ。そういえばよかったのか?こんな見ず知らずの奴の為にあんな高そうな物をあいつにあげちゃって。せめて何か飯くらい奢らせてくれ」
「相似せ……あ、いや、相似さん、”困っている人がいたら助け合い”、だよ」
リーナはにっこりと微笑む。
この人は女神か!? いや女神だろ!
さすがに二度も格好悪いところは見せたくない。
「いやこればっかりは俺にも男の意地がある。無理にでも奢らせてもらうからな」
「ふふ、ありがとう。じゃあお言葉に甘えてコッテリアを1つ頂くね」
なんか聞いたことない名前の食べ物が出てきたぞ。
「こ、こってりあ?ま、まあいい。任せろ」
今までの失敗を失くし汚名返上といきますか。
俺は受付に行き料理の注文を受け付けているおばちゃんに話しかける。
「おばちゃん、こってりあという物を1つくれ」
「あいよ、30銅貨だよ」
……30ドウカ……30ドウカ。
ああ、30銅貨か。10円玉が3枚ってことなのかな。
それなら30円って言ってくれればいいのに、ははは(笑)
俺は10円玉3枚をを受付のおばあちゃんに渡す。
「あんた、なにこれ。玩具?」
やばい、予想通りの答えが返ってきて泣けてくる。
「え、いや、それは日本という国の通貨でしてね……”日本円”と言うんですよ」
丁寧に説明までする凪乃相似。
なんかこの世界俺に意地悪すぎませんかね?
「いや、そんなどこぞの国でしか使えない金を渡されても困るんだよ。からかってるならどきな。次の客が待ってるんだ」
「まじで待ってください!土下座でも皿洗いでも何でもしますので!コッテリアを!コッテリアを俺に!」
「うるさい客だね。ここは24時間現金払いなの。ほらどいたどいた」
「まじで!いや何でもしますから!だからー!」
「あ、おばあちゃん、ごめんね。この人の分も入れてコッテリア二つください」
言葉を遮った華やかで純粋な少女の声が俺の耳を通過した。
振り向くとそこには……女神がいた。
「あ、リーナちゃん。いつもありがとね。この人は……知り合い?」
おばさんが俺を何かの危険因子を見るような目で見る。
もう……何もいえましぇん。
「うん!私の友達」
「そうかい。じゃあリーナちゃんに免じて2人合わせて40銅貨でいいよ」
「わあ!ありがとう。おばあちゃん!」
「ほら、お兄さんもリーナちゃんにお礼言うんだよ」
「あ、はい……」
リーナに子供のように手を引かれる俺はただ涙するしかなかった。
まさに汚名万来である。
● ● ●
「リーナ様、このわたくしめに”ステータスカード”の作り方を教えてはくれませんでしょうか?」
「だ、大丈夫だから!気にしないから、だからその敬語やめて!」
「いえいえ、何を仰いますか、リーナ様。こうなることは未来で確定されてたことじゃないですか」
「未来!?相似さん未来でも見に行ったの!?やめてやめて!今の相似さん気持ち悪いよ!」
俺は結局リーナにコッテリアを買ってあげることもままならず、しかも俺の分も奢ってもらったという、なんともまあ男としてどうなのかという状況に陥っていた。
ちなみにコッテリアはほのかに甘く、外がサクッと中がとろっーとした例えるならシュークリームみたいな物だった。
「いつかこの借りは返すので……」
「もう……気にしなくていいのに。あ、”ステータスカード”の作り方だよね!あそこにいる受付のお姉さんに言えば作ってくれるよ」
「本当にありがとう。リーナがいなかったらあの騎士に殺されたし、仮に通れてもお金が使えないから餓死してたと思う」
「わ、私は何もしてないよ。あ!どうせだし相似さんの”ステータスカード”を作られるの一緒にみていい?」
「ああ……助かる」
「きっと相似さんはすごいチート能力持ってるんじゃないかな?」
「あまりフラグになるようなことは言わないでほしいかな」
「ふふ、ごめんごめん」と頬を赤らめながら謝るリーナの姿は女神に見えた。
「ああ……異世界に来てよかった」と初めて思えたのだった。
投稿は2~3日置きに投稿できるしたいです。




