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異世界復讐物語  作者: 希他勇
第一章 能力発現編
12/12

第11話 『凪乃相似vsリーナ 前編』

 何とか投稿することができました!本当に今まで投稿遅れてすみませんでした。徐々にブックマークが増えていくのは書いてても励みになります。

 ブックマークしてくれた方ありがとうございます。そして見てくれている方今後もどうか見てくれると嬉しいです。

 

 そろそろ地図を描きたいですね!

 

 轟々と音を立てる炎の中に、1人の人間と2人の吸血鬼に対峙している少女。

 ネコミミフードに身を包み、くりっとした目にあどけない顔、俺はこの少女を知っている。

 異世界に来て、何もわからない俺に手を差し伸べてくれた、たった1人の女性。忘れるはずがない。


「……リーナ」


 ……エミリアが言ってた冒険者ってリーナのことだったのか。

 この沸き立つ感情は何だろうか……怒りというよりも悲しい、そんな感情が心の中で渦巻いている。

 あんなに優しい人が目の前で、エミリア達を殺そうとしているのは見てて……悲しい。リーナにも事情が合ってのこと、それはわかっている、わかってるんだが……クソ、何でだよ。何でこうなるんだよ。


 後ろを振り向くと、銀髪の吸血鬼が血まみれの金髪の吸血鬼を守るように抱え込んでいる。

 この金髪の吸血鬼……エミリアは僅かに目を開けている。

 目に光はなく、もう生きているかも怪しい状況だ。

 だけど……必ず、必ず彼女だけは助ける。


「エミリア様の妹、リルル様であってますか?」と、俺はエミリアの妹であろう銀髪の吸血鬼に訪ねた。

「え、あ、うん」と戸惑いながらリルルは答える。


 リルルの目元は赤く腫れており、泣いた痕跡が見られる。

 状況はあまり理解してないが、2人はリーナに殺されかけた。


「恐いですか?」と問うように訊く。

「……恐くないよ、お兄ちゃんはリルルを助けてくれたから」先程の疲れきった表情から、弱々しい笑顔をみせる。


「よかった」と相似は胸をなでおろす。

「今からエミリア様を助けます」と相似が言った時だった。


「させると思う?」


 後ろからひんやりとした声が全身を刺激する。

 振り向くと、炎を纏った剣を持ったリーナがこちらを見ていた。


「……ほ、宝具使い」とリルルは怯えた声を出す。

「その仮面……」とリーナは俺の着けている狐の仮面を見た途端、目を張らす。


「なわけないよね……まあ、いいや。えーと、ところで君は誰?」

「……さあな」相似はリーナの問いに対してぶっきらぼうに返す。その時、自分でも思った以上に棘のある、怒気のある声がでた。


「……まあ、いいや。えーと、君は……その子らの仲間でいいのかな?」

「だったらどうなる?」

「私は君を退治しなくちゃいけない……今引くなら私は君を追わない」リーナは持っている炎の剣を相似達の目の前にチラつかせる。

 リルルはリーナの言葉にピクリと反応し、恐る恐る相似の仮面の奥を覗き込む。


 ここはきっと1つのターニングポイント、分岐点だ。ゲームみたいに、決まった選択肢は無い。自分で考えなければいけない。俺の苦手分野、流されるままにできない、俺の嫌いなことの1つだ。

 本来の俺なら目を逸らしていたと思う、というより必ず目を背ける。

 

 素顔を晒せば許してくれるってか? 

 俺実はこの吸血鬼と仲良いから殺すのはやめよ!って言うのかよ、馬鹿げている。それをすれば100パーセントエミリア達を助けられるのか?確証はない。

 

 それに……ミルキーにもあんなこと言われたしな。


● ● ●


「ミルキー、早くエミリアの場所を教えてくれ」

「まて、主よ。まさかその格好で行く気か?」


 この格好?そうは言っても……俺が今持っている物といえば、エミリアに買ってもらった、この黒のローブとロッドだけだからな……


「主よ、この世界で我の幹部と関わった者は”クエスト”、主が、元いた世界での共犯者……いや犯罪者にも等しい存在なんじゃぞ。まさか素顔を晒して行く気じゃないだろうな?」

「あ、ああ……なるほど、って言ってもな」


 顔を隠す物って言ったってそんな都合の良い物が早々転がってる………わけ。

 ふと横見ると、エミリアの妹、リルルのベットのサイドテーブルに置いてある物が目に入る。


 それは死んだ人の青白さに似た色に、両目の真下に赤色のクマがあり、それをあざ笑うかのような歪んだ笑みを浮かべた1つの仮面。

 狐の仮面……どこかで見覚えのある物。それだけはわかる。だが、どこで見たか思い出せない。


「ミルキー、これでいいか?」


 俺はは狐の仮面を手に取り、それをミルキーに見せる。

 ミルキーはその狐の仮面を見た途端、目を見張る。


「……偶然とは恐ろしい物じゃな」

「え?なんか言ったか?」

「いや……何でもない。その仮面で充分じゃ」


 俺は仮面を顔にあてると、視界が一気に狭まる。

 正直……邪魔、外せるなら今すぐ外したい。


「なかなか似合ってるじゃないか」

「そりゃあどうも。ミルキー、じゃあ行くぞ」

「待て」


 ドアから出ようとする相似の手をミルキーが握る。

 ミルキーの手はどこか冷たく、まるで人間の温かみが損なわれているような感覚だ。

 あ、いや……ミルキーって人間じゃないのか?

 

「主よ……もし、もしもの話じゃ、今から戦うことになるだろう相手がもし”主の仲間”だとしてもその仮面は外さないでおくれ」


 仲間?俺の仲間、知り合いが相手かも知れないってことか?

 知り合い……知り合いか、そんな指で数えれるほど居ないんだよな……悲しい。


「あ、ああ……わかったよ」


 俺はそう言うと外に出ようとするが……いつまでたってもミルキーが俺の手を放そうとしない。

 ミルキーは俺と背丈も同じくらいなため、年も同世代に見える。あくまで”見える”だが、それでもミルキーは可愛い、美少女と言う言葉が、ミルキーのために使われても良いんじゃないかってくらい可愛い。

 そんな美少女に真正面に立たれ手を握られるのは正直……色々やばい。

 童貞の俺から言わしてみれば、もう……何かに目覚めそうだ。

 

「み、ミルキー、どうした?」

「こんなこと……我が言う資格はないんじゃろうが……我と”約束”してほしい」と俺の手をギュッと握る。

 

 ミルキーはゆっくり口を開く。


「死なないでくれ」

「……!ああ、もちろん」

 

● ● ●

 

 やるべき事なんて……もう決まってるか。

”戦う”それしかない、前からきっとわかっていた。俺はきっとまだ逃げている、”戦わなくて良い理由”を探している。戦場に来てまで理由を探している。

 多分永劫、俺はこのまま変わらない、変われない。”人は変わらない”まさしくそれだ。変わりたくても変われないんだ。

 だけど……それでも俺は変わりたい、なら今俺がやるべき事はもう決まっている、戦おう。戦うしかないんだ。

 

 リーナは強い。俺が想像している以上に多分強い。正直、俺の”固有スキル”でリーナと互角に戦えるかもわからない。できるならここはシード戦、不戦勝で終わらせたい戦い。誰も殺したくない。

 なら、今俺にできること……それは無力化。この答えが本当に最適解なのか?

 そんなのはわからない。もっと良い答えがあるかもしれない。だがどれだけ俺が頭を捻ろうと結果は後、今は過程の段階という事実は変わらないし、そもそもこれ以上に良い答えが出るとは思えない。


 仮面の隙間から相似は笑みをこぼす。

 

「……クク」

「……何がおかしいの?」とリーナは顔を引くつかせる。

「何で自分より弱い奴に、背を向けなくちゃいけないのかなって思っただけだ」


 相似がそう言うとリーナの顔つきは明らかに変わった。

 それは、恥辱や羞恥などよりももっと別の感情、怒りだ。

 戦う前の事前の準備、だが自分でもこんなこと言うつもりはなかった。

 自分でも驚きを隠せない、多分俺はムカついている。大事な人を傷つけられたんだ、誰だって怒る。


「……それを私に言うんだね」


 リーナは空に浮かぶ月を見上げ、ため息を吐く。そして再び俺に目を向ける。


「じゃあ私が君に勝てば、その持論は間違ってることになるよね?」

「勝てればな」

「なら今! それを証明するよ!!」


 言葉と同時にリーナは剣を振るう。

 剣を降ろす瞬間、剣に纏っている炎の加護が膨張し、巨大に膨れ上がる。

 その膨らみあがった炎は剣を離れる。その炎は津波のように相似を飲み込もうとする。


「『影壁シャドウウォール』」


 相似がその言葉を発すると”炎の壁”の影が具現化し、相似の前に出現する。


「!!」


 リーナの放した炎は『影壁シャドウウォール』にあたり、左右に分裂する。


 ギギギ……

 

 と具現化した影ぶつかり、何かが削れるような音が鳴る。

 炎が全て消えたと同時、壁はパリパリと崩れると、影は粒子になり、ゆっくりと元の”影”に戻っていっている。

 リルルは目をぱちくりさせている。


「今のは中級の影魔法? 無詠唱って……」リルルは相似の顔をまじまじと見る。

 

 そして炎を放った当の本人も……


「口だけでは……なさそうだね」


 リーナは”炎の影”が邪魔だと感じたのか、剣をブンッと振るうと周りの炎は光の粒子と化した。

 炎の壁がなくなると1人の足音がこちらに近付いているのが聞こえた。


「リーナすまねえ!そっちに1人いっちまった……って誰だ?」


 金髪の男が、青髪の魔法使いを背負いながらこちらへ走ってきた。 

 どこかで見たことある顔立ち。

『オラリア』の町でお世話になった金髪の男、ゼンだ。今でもあいつの顔を見ると怒りが沸いてくる。

 そのゼンに担がれているもう1人は……知らん。

 全く覚えが無い。まあ、どうでもいいか。


「……ゼン、今からここから離れて」

「は?……リーナ、何言ってるんだ?」


 いつものリーナと違った雰囲気を察したゼンは心配するように、リーナの名前を呼び再確認する。


「早く」とリーナがポツリと真面目な声で言った。

「……!わかった」


 それを察したのかゼンは青髪の魔法使いを背中に乗せ竹林の元へ走っていく。ゼンの足は速く気がつけばいつの間にか見えなくなっていた。


「リルル様、これをエミリア様に」


 俺は赤色の液体が入った小瓶をリルルに渡す。


「こ、これは?」

「エミリア様とリルル様を絶大に愛しているお方が作ったお薬みたいな物です」

「す、ストーカー?」リルルはその薬を不安げな表情で見る。

「……そうかもしれないです」


(……おい)とそんな声が聞こえたのはきっと気のせいだ。


「それを飲ませるかどうかはリルル様が決めてください」

「飲ませる、その人が誰かは知らないけど……お姉ちゃんが助かるならリルルはやる」


 リルルはそう言うと小瓶の蓋を開け、エミリアの口元にゆっくり、ゆっくりと入れていく。

「お姉ちゃん……お願い」とリルルは声を震わせながら飲ませている。

 俺ができることはした。後はエミリアが無事に復活することを祈るしかない。


 その光景をリーナはただ眺めるように見ていた。


「もう良い?」と痺れを切らした様にリーナは言う。

「今、がら空きだったんじゃないか?」

「そんな風に君を倒しても何も得られないよ。それにそこにいる吸血鬼ならいつでも倒せるしね」


 リーナの言葉にリルルはピクリと反応する。リルルは悔しい気持ちに襲われ唇を震わせる。

 

 辺りはシンッと静かになる。

 その静寂を最初に斬り裂いたのは、相似だ。


「『影扉シャドウゲート』」


 相似の言葉により、相似とリルル達の周りの影からぷくぷくと無数の泡が泡立ち、ゆっくりとそれは姿を現す。

 それは影でできた真っ黒な剣、槍、斧などの無数の武器が陰から頭を覗かせている。


「超級魔法まで無詠唱なんて……すごいね」


 リーナがそれ言うか?どうやって倒したかは知らないが、俺から言ってしまえば、エミリア達を倒したのほうが普通にすごいと思うが……

 相似はロッドを振るう。その瞬間、100を越える影の武器が身体を出し、自我を持つかのようにリーナのもとへと飛んで行く。


「ウェイポンプラス、ソード!」


 リーナがその言葉を発した瞬間、リーナの左手に光の粒子が集まりだす。それは密を束ね、次第に物質へと変換される。そしてできた物、それは右手に持っている真っ黒な剣と打って変わった真っ白な剣、”ヴァルキリー”が使ってそうな武器だ。

 

「はああぁぁぁぁ!!」


 そんな気勢と共にリーナは、創られた純白な剣で斬り払い、数個の”影の武器”は破壊される。影の武器は破壊されると、影は粒子へと帰る。

 それに続くように、右手に持つ漆黒の剣を下から上に上げるように斜めに一閃し、そのままくるりと半円を描いて動き、純白の剣を斜めに軌道を描き斬り払う。

 次々と2つの剣で、影の武器を破壊していく。

 影の武器が破壊されることにとって粒子の中を、1人の少女が剣舞を奏でる。さながら舞台の上で踊っているかのように錯覚してしまうほど可憐だ。


 俺では到底出来ない芸当。やっぱりリーナはすごい。


影扉シャドウゲート』は確かに大量の武器を生産できる。

 だが、強度はと言うと普通の武器より劣り、しかも消費MPも一本一本の武器に消費してしまうため、糞魔法ハックといわれているらしい。

 だが、俺はただ黙ってMPを消費する気はさらさらない。


 俺は影の前に手を掲げる。すると相似の手の真下の影が泡立ち、1つの武器が創られる。元の世界では見たことがない物、銃だ。銃はあまり詳しくないが、これの名前くらいは知っている。

 よく映画のワンシーンでよくある度胸試し。頭に銃をつけ、自分の度胸を測るもの、『リボルバーピストル』だ。

 影で出来ているせいなのか、全く重さがない気がする。まるで空気に触れているような感覚。

 それをリーナの……右足辺りに狙いを定める。

 

 ドォン!


 そんな発砲音と同時に、相似の作り出した影の弾がリーナの右足に向かう。

 当たる、そう思った。致命傷は与えない、そう考えていた。

 リーナは右足をほんの少し、ヒョイと石ころを避けるかのように上げ、弾を軽々と避けた。しかも何の動きの妨げにならず影の武器を壊し続けている。


「んなッ!」


 なんかのまぐれか?と思い、再び影の銃をリーナへ向け、発砲する。だが、先程と同じ足に目でもついているのか軽々と避けられた。

 まぐれじゃない、化け物かよ……

 でもこのままだと埒があかない、俺の”固有スキル”で影魔法だけMPは1/10とはいえ、俺のMPはそれほど高くないし『影扉シャドウゲート』も超級、消費MPは少ないとはいえない。このままこれを使い続けても、良いことはない。ならできるだけ早期決着を目指す。


「『影縫シャドウリンク』!」

「…………!!」


 リーナも気づいたようだ。リーナの足は地面にくっつき離れない。

影縫シャドウリンク』は影と本体を放さないための魔法、相手の動きを一時的に封じることができる。

 そして数本の影の武器がそんなリーナの元へ向かう。


「やあぁ!」とリーナは短い気勢が声が共に、右手の漆黒の剣に力を込める。漆黒の剣に光の粒子が再び収束する。

 光の粒子は真っ赤な色を変え、熱さを帯びる。リーナはその炎を帯びた剣を地面に突き立てる。すると地面からマグマが噴き出るように、炎の津波で影の剣を飲み込んでいく。それは先程放った炎の津波より巨大で赤い。

 炎の津波は次々と相似の創りだした剣を破壊し、ついには相似のいるところまで到達しようとする。


「ひッ!」とリルルは怯えた声を出す。

「クソッ!『影壁シャドウウォール』!」


 相似の前にある影が具現化し、相似を壁が包み込む。炎の津波は『影壁シャドウウォール』衝突し四方八方に分裂する。

 ギギギ……と音を立てながら、炎の津波が過ぎるの待つ。


 ピキッ!


 何かがひび割れる、そんな音が響く。黒い壁前方に泡白い光が差し込む。

 あ、あぶね……もう少しで壊れてたのか、と息をつく。

 魔法というものはINTに比例し、威力、そして強度も変わっていく。それはつまり相似の影魔法はINT105000の威力、強度があるということ。だがそれにヒビを入れたあの炎の津波は、相似の『影壁シャドウウォール』と張り合ってることを表している。

 あの『影扉シャドウゲート』相似の影魔法のINTにより、強度もその分の威力があるはずなのだが、リーナの使っていた剣はそれを壊せる威力があるということだ。


 俺は『影壁シャドウウォール』のヒビが入った隙間からリーナを覗き込む。

 だが、リーナがどこにも見当たらない。

 え……ど、どこ行った?

 

 辺りを探る。

 いた。前方の真上。リーナは空に浮く月と重なり、右手に何かを持っている。

 それには見覚えがある。エミリアとリルルと同じ瞳の色、血の色をした三又槍。

 それは俺が”チャージボア”に殺されそうになった時、見せてくれた1つの宝具、その威力は絶大。標的を跡形も無く消し飛ばし、地形させも変動させる悪魔の槍。

 あれを一度見てしまえば、忘れることなんてできない、脳に、目に焼きついてしまう。

 だが、その光景を見たからこそ今感じること。


「や、やば!シャドウウォー!!」

「グングニル!!」


 リーナの手から真っ赤な『槍』が放たれる。手を離れた瞬間、星が流れるプラズマを帯び一直線に相似に向かう。

『槍』は相似の創った『影壁シャドウウォール』に衝突する。


 キュィィィィィィン!

 

 訊いたこともないような高い音が回りに響き渡る。

『グングニル』が壁に触れた瞬間、巨大な爆発と共に一本の巨大な光柱が出現する。光柱は相似の創り出した”影の壁”を爆風と共に破壊し続ける。

 その光柱が数分間の間、相似の『影壁シャドウウォール』の破壊が続く。

『グングニル』が放たれた場所には粉塵が舞い、辺りは見えない。衝撃が終わると『グングニル』は粒子へと戻っていった。

 その粉塵は夜風と共にゆっくりと晴れていく。

 

「……まさか耐え切るとは思わなかったよ」


 所々崩れ落ちている『影壁シャドウウォール』の中に片膝を地面に付け、右手を前に掲げ、左手でそれを支えている男、相似だ。

 その『影壁シャドウウォール』はパリパリと音を立てながら影に戻る。


「はぁ……はぁ……はぁ」

「お、お兄ちゃん……大丈夫?」

「はぁ……はぁ、大丈夫です」


 全然大丈夫じゃない、やばい。想像以上にやばい……あの『グングニル』の威力は知っていたが、ここまでとは……

 それに頭も少し痛い……魔法を使いすぎたか。思った以上にしんどい。


 リーナの放った『グングニル』は確かに『影壁シャドウウォール』で防ぐことが出来た。だが、一度の『影壁シャドウウォール』で防ぎきったわけではない。

 あの光柱による永続攻撃により、数分間『影壁シャドウウォール』は壊され続けた。相似は光柱が出現している間『影壁シャドウウォール』が重ね重ね復唱し、一回の『グングニル』を防ぐことができたのだ。

 そして相似が『影壁シャドウウォール』を使った回数、それは軽く十数回は超えている。


 前を見ると、リーナが持っている左手の炎の剣は、”光の粒子”になるのではなく、徐々にさび、ついには砂となった。


「壊れたのか?」

「ちょっと無茶しすぎちゃったからね」


 ということはなんだ?

『宝物庫』が出せる宝具は使用制限があるってことか?なら、あの『槍』もいずれはこわれ……


「『グングニル』壊れないよ」

「え?」


 リーナがそう言い放つように言った。

 

「この子だけが私の無茶に付いて来てくれる、唯一の武器だから」

「わざわざご忠告ありがとさん……」


 するとリーナは右手を開き、空に掲げる。彼女の手から大量の光の粒子が空に流れ出す。流れた粒子はそのまま空に留まる。

 それはまるで”星”。夜空に元々あった星とはもう全く区別が付かなくなっていた。


「『宝物天ほうもつてん』」


 リーナの呟きと共に”星”と化した光の粒子は、あらゆる上空に密を束ね始める。それらは次第に形を変える。星のように綺麗な光の粒子は、様々な異形の形をした”武器”となった。

 ほんの少しまで、空には満面の”星”で埋め尽くされていたが今では様々な武器が上空が留まっていた。

 数からして……いくつあるだろうか。だが見た感じ400……いや500はありそうだ。


「な、なにこれ……これ全部”宝具”……?あいつ……私達に本気出してなかったの?」

「この技を使ったのは君で2人目だよ」


 冗談抜きでガチでやばい。

 リーナのさっきの炎剣も『グングニル』もそうだったが、どの”宝具”も威力が高い。

 さっきの『影壁シャドウウォール』で結構体力にガタが来ているせいか、さっきから手の震えが止まらない。

 いっそのことエミリア達と逃げてやろうか…………エミリアとリルルは無事に守ることができたんだ。

 別に逃げたって構わないだろ……今すぐ逃げたい、本当に逃げてやろうか……


「クソッ……たれがッ!!」


 相似は立ち上がる。

 逃げてどうすんだよ。逃げたらエミリア達は幸せになれるのか?またあのエミリアの笑顔を見ることができるのか?

 いや……多分見れるだろうな。

 エミリアのことだ「危ないところ助けてありがとう」って言いそうだ。

 だが俺にはそれを言うエミリアが作る笑顔のビジョンは疲れきった表情しか浮かばない。

 


”俺は彼女の、エミリアの本当の笑顔を見たい”



「フィナーレにしよう」


 リーナがゆっくりと手を下ろす。その瞬間、数多の”宝具”が相似に狙いを定め、飛んで行く。

 まるで”雨”。相似の元に雨が降り注ぐように、相似の元に”宝具”の雨が降り注ぐ。

 相似は右手を広げる、先程のように影が泡立ち1つの『剣』が生成される。先程の『影扉シャドウゲート』とは違い強度もこの武器一つに集中した。

 リーナみたいに俺は剣技の技術も腕もない、それはそうだ。俺は一度だって刃物を持ったことがないんだ。


 相似は影の剣を上空から飛んでくる武器を斜めに軌道を描いて振い、1本の”宝具”の軌道と交差する。


「おらぁ!」


 壊れずに相似の右の足元に、ザンッ!と音を立て地面に突き刺さる。

 だが、また1本、2本と”宝具”は相似の頭上へと落ちようとする。

 

 キィイン……ガァン!!


 頭上に出来ている、いくつかの小さい薄い影の壁に、”宝具”を衝突させ落ちる場所をずらす。

 相似は剣と同時に、頭上に影で創った細切れにした『影壁シャドウウォール』をばら撒いた。それは相似の周りを飛び回る”ラジコンヘリ”のような物。この『影壁シャドウウォール』もラジコンを動かすように頭の中でイメージする。だが、それは簡単ではない。これは数体のラジコンヘリを1人で操作しているようなもの。

 だから、相似は8割をそちらの意識に集中し、残りの2割は自分に当たりそうな”宝具”にまわす。

 通常の『影壁シャドウウォール』より少ないMPで使えるし、『影壁』だと周りが見えないため、こっちのが良いと判断した。

影移動シャドウムーブ』という、影の中を移動する技で戦っても良いが、それだとリルル達に”宝具”が飛んできたら対処ができない。


 思ったとおり……確かに壊れはしないが、”宝具”の威力は、リーナが使う時よりも落ちている。リーナみたいに壊さなくて良い。後はこれを続ければ良いだけのこと。

 ずらすことだけに集中しろ、他は何も考えるな、全神経を”宝具”に向けろ!


 1。

 2。

 3。

 4―――――――。


 

 101……クソ、まだ終わらないのか、手が痺れてきた。そろそろ休みたい、息が苦しい、終わりが見えない。

 俺はただ一心不乱に飛んでくる”宝具”を受け流していた。どれだけ時間が経ったのか……自分でもわからない。だが幸いなのがまだ”夜”だということ。影はそこらじゅうにある。

 だがどれだけ、影があろうと相似のMPは無限ではない。

 俺はまた飛んできた”宝具”を受け流そうとした時だった。

 透けた。いや違う、透けたように見えた。”宝具”は相似の剣を掻い潜り、通り抜けたのだ。


 ザッシュッ!!


「え……」

「お兄ちゃん!!」


 何かが裂ける音がした、右腕の感覚がない。

 動かそうとしても、脳からの命令を一向に遮断している。違う、遮断も何も……ないんだ。

 右腕を見ると、1本の”宝具”の剣が相似の右腕ごと斬り取られ、地面に突き刺さっていた。相似の右腕は消えていた。行き場を無くした血は肩から噴き出るように流れ出す。

 いだい……なんだよ、なんだよこれ……いでぇ……いだいいだいいだい。

 だけど、痛がっている場合じゃない。


「ク……ッソ……がああぁッッ!!」

「もういいよッ!お兄ちゃんだけでも逃げてよ!」とリルルは叫ぶ。


 リルルの言葉を無視して、相似は次々と飛んでくる”宝具”に視線を向きなおす。相似は再び左腕を広げ、影の剣を創りる。そして、飛んでくる”宝具”を軌道をずらし、頭のいくつかに『影壁シャドウウォール』の断片にMPを注ぐ。

 だが……


 パリンッ!


”宝具”が頭上に浮く一つの『影壁シャドウウォール』を破壊し貫通する。貫通した”宝具”はそのまま直線に相似の着けている仮面の右の頬の部分が割れる。

 まだ、まだ……まだ終わらないのか?あぁ、駄目だ、まだあんなに沢山ある……嫌だ、もう嫌だ、早く終わってくれ、先が見えない未来に押し潰されそうになる、おかしくなってしまいそうだ。

 体中が痛い……こっちが先に終わってしまいそうだ……それこそ駄目だ、まだ終われない。このままじゃ終われないんだよ。


 パリンッ!


 また一つ『影壁シャドウウォール』の断片が破壊され、破壊した”宝具”、剣は相似の左足に突き刺さる。 


「……ッ!」


 足を動かそうとしても、地面に刺さった剣により固定されてしまう。何とか抜こうと影の剣を地面に突き刺し、左手で抜こうとするが……今まで相似が阻害していた軌道のルートががら空きになる。

 そのルートに空気が入り込むように数本の”宝具”が入り込み、相似の左手、右足、背中に”宝具”が抉りこむように突き刺さる。


「……がぁッ!」



 相似は”宝具”が突き刺さった反動により、倒れこむ。足に刺さった剣は相似が倒れこむと、足を裂け、外れる。

 痛みで『影壁シャドウウォール』の呪文を解いてしまう。そんな相似を守るものはない。

 その上空に舞う”宝具”は相似の状態など気にもせず、相似に雨のように降り注ごうとする。


「…………シャドウ、ウォー……ル!」


 俺は何とか力を振り絞り、”エミリア達”だけに影の壁に創ろうとする。だが、魔力が足りないせいかできたのは、屋根しかない”影の物質”だった。

 

 あぁ……いてぇ……まじでこれ……死んだな。

 はは……何で俺リーナに弱いって言っちゃったんだろう。俺……手も足も出ないじゃん。最悪、かっこわりぃ、どうせなら勝ちたかったな……まあ、無理か、俺だし。俺が勝てるわけない。

 俺のがんばりでエミリア達は助けることができただろうか、それならいいだのが……多分俺が死んだらリルル達も殺されしまう、俺が死んだ後無事に逃げれることを願うしかない。

 

 

 ミルキーとの”約束”も守れそうにないな……本当にごめん。

 俺は眠るようにゆっくり瞼を閉じる。







「お前は負けた?」


 

 声がした。だけど、ミルキーの声ではない。だけど、どこかで訊いたことがある。

 俺は瞼をゆっくりと開けると、周りの風景が白黒のモノトーンみたいになっている。空を見上げると、落ちてくるはずの”宝具”もピタリと動きを止めている。

 前を向くと、俺が受け流した”宝具”の上に誰かが立っている。そいつは小学生くらいの背丈に……あの白い狐の仮面を着けている。

 こいつ……夢のときの……


「仕方ないよ、相似先生は弱いんだもの」仮面は声色を甲高い声に変える。


 また先生……俺は一度もなったことないって……まあいいや。弱い……その通りだ。その通りすぎて反論できないな。


「俺達が居ないと相似先生は駄目だからな」仮面は声色を男らしい太い声に変える。


 何言ってるんだ?俺は一度もお前の顔なんて見たことがないんだぞ。


「だから、あたい達が一緒に居てあげないと」仮面は声色を幼く子供らしい女の声に変える。


 無視かよ……


「僕達が力を貸そう」仮面は若々しい男の声に変える。


 力を……どういうことだ?


「そうだね。今度はあたし達が相似先生を引っ張ってあげる」仮面は声色を透き通るよな大人の女の声に変える。


 すると、その仮面を付けたそいつは”宝具”から降り、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 そして、そいつは倒れこむ俺の場所まで近付いて、そこに座る。


「相似先生の味方だ」


 その言葉と同時に世界は色づき始める。







「お兄ちゃんッッ!!」


 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザンッ!!


 数多の”宝具”が相似に降り注いだ。


 次も未定ですが、一週間以内に出します。

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