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異世界復讐物語  作者: 希他勇
第一章 能力発現編
10/12

第9話 『吸血鬼姉妹vsラビットバルーン』

かなりどうでもいいことですが、作者の名前を希裕太から希他勇に変えました。


なんとか戦闘シーンを仕上げられてよかった……ってあまり戦闘シーンなかったけどね(笑)

どんどん投稿が遅くなると思いますが、書くスピードは多分上がっている……はずなのでできるだけ投稿をはやくできるよう心がけます。

 覚悟はできた。助けは要らない。その2つの言葉を頭の中で何度も繰り返し繰り返し復唱した。

 昨夜、妹、リルルに苦しみを吐いた。辛さを吐いた。

 死んでも悔いはない……といえば噓になる。だけど、このまま逃げ続けて壊れてしまうくらいなら壊れる前に死んでやる。

 でももし死ぬことがなかったら、私は神様、いやこの”世界”に叶えて欲しい夢がある。

 それは残りの余生をリルルと相似と暮らすことだ。


「お姉ちゃん、言い顔になったね」

「ふふ、おかげさまで」


 そして、例えリルルのお願いでも変えられないことがある。

 リルルが死ぬくらいなら自分が死ぬ、これだけは変えられない、変える事ができない。だってこれが最後に私ができる唯一の妹孝行であり、目標でもある。

 多分私がこれを言ったらリルルは突っぱねるだろう。「そんなのダメ!!」とリルルが言う確信が私にはある。

 理由は単純、優しいから。これだけ……いや、これ以上の理由が必要だろうか?

 リルルのその優しさは私以外の別の誰かに使って欲しい。いつかリルルの”クエスト”が無くなったら、その優しさで誰かを助けてほしい。私には無い、その優しさで。


 これが叶うのならば私は死んでも構わない……いや、これも無いといえば嘘になる。あの子が上手くやっていけるか心配だ。だが、あの子も強さを持っている。

 私が持っていなかった”逃げない強さ”を。あの子はきっと上手くやる。

 そう切実に信じるしかない。


「お姉ちゃん~みえてきたよ」


 私とリルルは『キョロックの樹海』からずっと東に飛んで1時間ほどで『サンフェルの竹林』といわれてる場所についた。周りが竹に囲まれているこの地帯にリルルは”宝具使い”がいると言っていた。

 飛んでここまで来ると、そこには”宝具使い”と2人の冒険者は私達を見ていた。まるで、お前らがここに来るのを待っていたと言っているかのように。


 情報どおり3人の人間がいた。

 金髪の盗賊、青髪の魔法使い、そして中央に立つ黒のネコミミフードに身を包む”宝具使いのリーナ”


「リルル、私頑張るから」

「リルルも頑張るよ。だから……お姉ちゃん、死なないでね」


 私とリルルは広げている翼を閉じ、彼ら『冒険者』と同じ大地に足をつける。


「お初にお目にかかります、私はエミリア、この子はリルル。誇り高き吸血鬼にして、元魔王軍の幹部を務めておりましたわ。あなたは……Sランク冒険者の”宝具使いのリーナ”で間違いないわね?」エミリアと リルルはスカートの裾を上げ、軽く一礼をする。


「う~ん、”宝具使い”なんてみんなが勝手に呼んでるだけだよ。まあ、でも……リーナは私だよ。吸血鬼さん」

「敵相手に”さん付け”をするなんて随分行儀が言いのね。てっきり『冒険者』は全員粗相な方だと思っていましたわ」


 そう皮肉を込めて言うと”宝具使い”の後ろにいる二人の冒険者の顔が引きつる。

 だが、”宝具使い”はその皮肉の言葉を気にせず普段どおりに返す。


「ふふ、だって君って見た目はちっちゃいけど私より年上でしょ?」

「私がち、ちっちゃい?ふふ……素敵なジョークなこと」

「ジョーク?私は本当の事言っただけだよ」とにこりと笑顔で言う。

「……フ」


 悪気があって言ってるようには見えない。それがなおたちが悪い。

 まだ冗談で言ってくれた方が殺す前に謝らせることができるのに、”宝具使い”みたいにとぼけ顔で言うやつは思ったことを本気で言っている。つまりそれは本心であるということ。同時に私が小さいといううわさがまるで本当のように聞こえてしまう。

 ふふ、こいつ……どうやって殺してくれようかしら。


「さて、話はこれくらいにして……」


 エミリアとリルルは戦闘態勢に入った。正確には入らされた。

 がらりとして変わった場の雰囲気。それは突如として現れた”宝具使い”の気、殺気はエミリアとリルルを覆いこんだ。


「ウェイポンチェンジ、スピア」”宝具使い”が呟く。彼女の手に光の粒子が集まり、それは束ねられ、形どられていく。束は物質に変わり次第に姿を現す、それは真っ赤な三叉槍。


「リリル……今から私は”宝具使い”と一騎打ちするわ。あなたは”宝具使い”以外の人間をお願いしていいかしら?」

「……!お姉ちゃん、”宝具使い”と1人で戦う気?」

「どっちにしても”宝具使い”以外の人間が邪魔なの。お願いリルル」

「……わかった。でもお姉ちゃん………………いや、やっぱりいい」リルルは目を伏せ、”宝具使い”に視線を戻す。

「そう」


 エミリアは左手の人差し指の爪で、手の平の中心辺りを切りつける。

 傷口から流れ出す赤色の液体、血にエミリアは命令を送る。


「『血流剣ブラットソード』」


 流れ出ている血はピタッと止まり、流れ出た液体が宙を浮く。浮いた血は手元に集まりだす。

血流弾ブラットバレット』と同じように血である液体は次第に固体に移り変わっていく。

 それによりできたのは血が原料の、私の目と同じ色をした緋色の剣。


 それを見た”宝具使い”以外の2人の冒険者は己が持つ武器をエミリアとリルルに構え始める。


「リルル」


 エミリアがそう言うとリルルは腰に付いている真っ黒な短剣で手の甲を突き刺し、地面に血を流す。


「いっくよ~!”アンデット召喚”!」地面に絵をなぞるように描く。その瞬間、ボゴォ!と音を立てながらリルルの周りに”アンデットモンスター”の”ゾンビ”がわらわらと這い出てくる。

 その”アンデットモンスター”は各個体さまざな武器を持っている。それは長剣、ダガー、薙刀とそれはさまざまだがその武器に合わせた身体の大きさを持っている。

 遠くの方で、「うわ……めんどくさ」と男の声がしたのは気のせいではない。


「リルル……頼んだわよ」エミリアは”宝具使い”のもとへ向かう。最初は歩いていたが徐々に勢いをつけ、翼を使い低空飛行しながら行く。

 速度から言ってしまえば、まず”人間の目”では視認できないはず……だが。


「俺を無視してリーナとやろうなんて良い度胸してるじゃねえか!」


 金髪の男はリーナの前へ立ちはだかる。

”宝具使い”以外大したことはないと思っていたけど、やはり”宝具使い”の仲間なだけあって速い。

 人間が私の速さに付いて来れるのは滅多にいない。

 だけど……大丈夫、想定のうち。


「リルル」と呼ぶと金髪の男の横から”アンデットモンスター”が飛びつきリーナの前から位置をずらす。

「うぉ!てめぇ!」男は持っている短剣をエミリアから”アンデットモンスター”に構えなおす。

 そしてもう1人の青髪の魔法使いも”アンデットモンスター”に向きなおす。

 私はこの隙を見逃さない。

 手に持っている血の剣を”宝具使い”の頭をめがけて振りおろす。

”宝具使い”はそれを槍で受けとめる。その瞬間、エミリアは右膝で”宝具使い”の胸あたりを蹴り飛ばす。


「かはッ……!」


”宝具使い”はエミリアの蹴りによりそこから5m以上飛ばされ、後ろの竹に身体を衝突させる。

 私は即座に飛ばした”宝具使い”に剣を向け、喉元に突き刺すように飛ぶ。


「このッ!」


”宝具使い”はよろめきながら立ち上がり持っている槍をエミリアに向ける。

 私は槍の届く数cm後ろで急停止し、持っている緋色の剣を……”宝具使い”に投げる。


「甘いよ!」”宝具使い”は槍で飛んできた剣を振り払おうとする。


 かかったわね!


拡散ディヒューズ!」私がその言葉を発した瞬間、緋色の剣は崩れ始める。だが、ただ崩れるわけではない。崩れる過程で”液体”には戻らず、既に形が完成した”固体”のまま宙を浮く。形状は『弾丸』。

何百という血の弾丸が宙に舞う。


血流弾ブラットバレット!」


その何百の血の弾丸は全て”宝具使い”に狙いを定め、”宝具使い”に発射される。

「く!ウェイポンチェンジ!シーる―――」”宝具使い”は防御に入ろうと『宝物庫』から『盾』を取り出そうとするが間に合わない。間に合わないと悟った”宝具使い”は腕を盾にするように顔を守る。

 その結果、全ての『血流弾ブラットバレット』はリーナの両腕、両足、そして『心臓』の部位に当たる胸に着弾した。


「うッ!ウェイポンチェン――」リーナは『宝物庫』から何か武器を取り出そうとする。

 

 そんなことさせないわよ!


部位支配コントロール!」

「ジ―――……え?」


 私は”宝具使い”の両腕、両足に『機能停止』の命令を送った。

 そのため、”宝具使い”は崩れ落ちるように地面に座り込んだ。


「身体が……動かない」

「はぁ……はぁ……はぁ」


 勝った?私の勝ち?あの”宝具使いのリーナ”に?

 あっけない、この人間が今まで私達を怯えさせた奴なの?とても魔王の幹部達を1人で倒せたとは思えない。ホッとしたと思うと同時に今までこんな人間に逃げていたことにため息が出る。

 そう考えると身体の力が抜け自然と笑いがこみ上げてきた。

 実は別人なのではと”宝具使い”に目を向けるが、正真正銘その当人、”宝具使い”が私にこうべを差し出しているかのように座りこんでいる姿を見ると勝ったんだって実感できる。

 私とリルルは……もう逃げなくていい。人間と言う脅威に怯えることなく眠れる。

 そう考えただけで瞳が潤み始めた。

 ふふ、私もどうやらあの子の泣き癖が移ったのかしらね……今日は家に帰ったら妹と相似で一緒にお祝いかしらね。いや、まだ私にはやらなくてはいけない事がある。

 それを達成することで私の目的、夢が達成する。


「”宝具使いのリーナ”、……あなたに取引があるわ」私の目的は妹、リルルと相似の3人でこれからの余生を平和に暮らすこと。今私が”宝具使い”を殺したところでリルルに危険がなくなることは無い。寧ろ”クエスト”の危険度が上がってより危険になるだけだ。なら一番の最善手はなにか……それは。


「……と、取引?」”宝具使い”は明らかに怯えた様子でおずおずと尋ねる。


「”宝具使い”が戦闘不能になった今、あそこにいるあなたの仲間じゃもう勝ち目はない。それはあなたから見ても明白なはず。そんなあなた達が得るものは”身の安全”。こっちが要求するのは私達の”クエストの破棄”、S級のあなたが頼み込めば何とかなるでしょ。どう……?悪くない話じゃないと思うんだけど」


 それは、私達に関する”クエスト”そのものを消してもらう事。”クエスト”さえ消えさえすれば、私達が狙われることは無くなる。

 もし私が”宝具使い”と同じ立場なら必ずこの取引に応じる。もし”宝具使い”1人ならこの要求は飲まないかもしれないが、今は『仲間』が同伴している。つまり今”宝具使い”は『仲間』を人質に取られているのと同じようなもの。

 それにこっちが要求するのは私とリルルの”クエスト”の破棄。これももし、”魔王軍に関するクエスト”の破棄だったら”宝具使い”1人では承諾、いや万が一でも承諾されることは無いだろう。

 それに比べ、私達に関する”クエスト”の破棄なら些細な物なはず……


 圧倒的有利な交渉の立場にいるのに緊張が止まらない。さっきから手の震えが止まない。

 もし……取引に応じなかったらどうしよう、”宝具使い”以上の実力の『冒険者』が送られたらどうしよう。

 そんな思いが頭の中を巡っている。

 大丈夫……と私は服の裾を掴み、”宝具使い”の方へ向く。


「…………エミリアさん……でしたっけ?」

「交渉に応じる気になったかしら?」

 

 いけないいけない……私は何を先急いでるのよ。ここは慎重にやらないといけない場面なのに。


「ごめんなさい」と”宝具使い”……いや。


”青髪の魔法使い”が言った。


「え――――」

「『バックスタブ』」


● ● ●


「お姉ちゃん……大丈夫かな」

 

 お姉ちゃんにお願いされたため、リルルは”宝具使い”以外の『冒険者』の足止めをしている。

 1人は金髪の男でもう1人は青髪の女。

 リルルが調べた情報だと、この2人は共にAランク。

 

 ”金髪の男は盗賊で”俊敏性”がメインとした戦い方で、速度で相手の目を混乱させ、その隙に攻撃する。一発一発の攻撃力はものすごい高い。その代わり軽装備で防御力が低いため1回でも攻撃を当てれば致命傷を与えられる。そして『冒険者』が持ちうる”固有スキル”は命中率を上げるものと訊く。


 もう1人の青髪の女は魔法使い。

”回復魔法”をメインとした戦い方で、主にクランの補助に徹していると聞いている。よく”水魔法”で敵の行動を制限したり、遠距離系の武器の攻撃の阻害を行っている。

 だけど、この魔法使いの”固有スキル”だけわからなかった。

 どれだけ調べても、あの女の”固有スキル”を知っている人はいなかった。

 この女だけ要注意だが、所詮はAランク、そんな対したものではないはず。


「クソ!こいつらうじゃうじゃと!きりがねえ!」


 金髪の男は青髪の魔法使いを守りながら、沸いて溢れてくる”ゾンビ”の首を掻ききっている。

 青髪の魔法使いはロッドを地面に突き刺し、その場をただ見ていた。


 リルルが出せる”アンデットモンスター”は増大だが、決して無限ではない。ナイフ1刺しして流れ出る血で約20体の”ゾンビ”を召喚できる。それはつまり、出せば出すほど体力は減っていくということ。

 なのであまり持久戦には持ち込みたくない。


 リルルは再びナイフで手の平に突き刺し、血を地面に垂らす。数からして100体は出せる量だ。

 だがリルルの能力は弱小の”ゾンビ”だけじゃない。


「”ゾンビジェネラル”召喚!」


ボゴォと音をたて這い上がる巨大な”ゾンビ”、名を”ゾンビジェネラル”。

巨大なバトルアックスを持ち、その武器に合った腐敗した3頭身の身体。さながらその姿はあの冥界の番犬”ケルベロス”だ。

 リルルが出せる”アンデットモンスター”の中での最も強いモンスター。”ゾンビ”単体ではCランクの弱小モンスター。だがこの”ゾンビ”100体を結合、融合させることで召喚できるモンスター、それが”ゾンビジェネラル”。”ゾンビジェネラル”はAランクだが実力的にはSランクに引けを取らないほどの実力を持つ。


 オオオオオオオオオオオオオオオオアアァァァァァ!


”ゾンビジェネラル”の獰猛な雄たけびが大地を揺らす。

 戦闘で使える残りの血の残量からして、リルルが出せる”ゾンビ”はあと50体が限界。

 だけど、戦況は誰がどう見てもリルルが有利。場にいる”ゾンビ”は10体、”ゾンビジェネラル”が1体。

 それに比べ相手の盗賊は徐々に体力が削られていく一方……

 お姉ちゃんの方は……いや、今はこっちを優先しよう。こいつらを早く蹴散らし……て。


 リルルが気づいた異変。

 余裕そうなのだ。それもやせ我慢をしているようには見えない。何か策でもあるのか、まるで戦いを楽しんでるような笑み、表情をしている。

 あいつらからしたらこの状況は絶対やばいはずなのに……何か勝てる策でもあるの?

 それに……この違和感は何?嫌な予感がする。


「ゼン」青髪の魔法使いが静かに呟く。

「やっとか!」と金髪の盗賊がにやりと笑う。


 男はそう言うと……走りだし、”ゾンビ”と”ゾンビジェネラル”に目がけて……いや、”ゾンビジェネラル”を無視して横を通り過ぎようとする。

”ゾンビジェネラル”を無視してお姉ちゃんのところに行く気?馬鹿な男……リルルがそんなことさせると思う?それに……魔法使いちゃんはがら空きだよ?


「”ゾンビジェネラル”!あの男を食い止めて!”ゾンビ”はあの魔法使いを倒しちゃって!」


”ゾンビジェネラル”は金髪の男の前に立ちふさがり、バトルアックスを空に掲げ一気に男に振り下ろす。

 馬鹿な男、最後の最後で勝負を先急ぎすぎたね。これであいつは頭蓋骨を直撃…………。

 

 ガイィン!


 そんな鈍い音が鳴る。肉が裂ける音でも、骨が砕ける音でもない。


 リルルが見た光景、それはこの世界では絶対にありえないこと。常識を覆す出来事。

 魔法使いが杖でバトルアックスの一振りを受けきっていたのだ。その隙に金髪の男は”ゾンビ”と”ゾンビジェネラル”を過ぎ去っていった。

 し、しまった。今ここでお姉ちゃんの所に行かせたら、戦況が確実にあちら側に傾く。


「”ゾンビジェネラル”!急いでお姉ちゃんの―――」

「行かせないよ」と


 次の瞬間。


神罰ジャッジメント


 バゴォオオオオオン!!

 

 天からの刹那の雷光。その雷光の衝撃により辺りは軽い砂埃に見舞われ……砂埃が消えると”ゾンビジェネラル”は跡形も無く消えていた。

 青髪の魔法使いの姿は、じじ……とテレビの砂嵐のような音をたてながら次第に姿を変える。

 そこに現れたのは黒のネコミミフードに身を包んだ、”宝具使い”だった。


「な、なんで……お前がここに……お姉ちゃんと相手してたんじゃ……」

「リオン……って言ってもわからないよね。えっと私の仲間の”固有スキル”でね……相手の脳を刺激して幻を見せるものなの……あ、大丈夫だよ?直接脳とかにダメージとかはないから」

「い、いつから……」

「最初からだよ。君たちが姿を現したときから」

「でもお前はあの時、能力を使って私達の前で”宝具”を出したじゃない!」

「それも幻だよ。あの時リオンが出したのは水魔法で作った、ただの氷の槍だよ。それを君たちが勝手に”宝具”と勘違いしてただけ」

「何でそんなことを……」


 それが一番腑に落ちない点だ。

 何故私とお姉ちゃんに姿を誤認させる必要があったか。相手からしたら結果的に私とお姉ちゃんを出し抜くことに成功した。だが、それではリルルとお姉ちゃんを事前から知っていなければできないこと。


「う~んとそうだね、私達もリルルさんと同じように君たち2人をゼンに観察してもらったの」

「気づいていたの……」

「それで得た物から、エミリアさんの能力がちょっとめんどくさそうだったから誰かに囮役をやってもらおうかなって、そしたらリオンが私がやる!って張りきっちゃってね……て、そんなこときいてないよね」

「はは……」


 まんまとリルルとお姉ちゃんは騙されたわけだ。

 リルルの出せる”ゾンビ”残量は50体程度。それでこの化け物に勝つって……?不可能だ。

 私の持ち札で最強の”ゾンビジェネラル”をいとも容易く葬られたのだ。それを弱小”ゾンビ”で勝てるわけない。

 はは……参っちゃうね。いっそのことお姉ちゃんと逃げちゃうか。いや、逃げても変わらないか。でも、今逃げなきゃ確実に殺される。


「ウェイポンチェンジ、ソード」

「!」


”宝具使い”の手に光が粒子が集まり、それは次第に『剣』へと形になる。

 創造された『剣』は漆黒の魔鉱石まこうせきによって創られた長剣。その剣に炎の加護が纏わりつき、真っ赤な炎が剣を包み込んでいる。さながら『太陽』とも言い表せれるくらいに眩しく、熱い。

 リルルはこの剣を知っている。


「……レーヴァテイン」


 この剣『レーヴァテイン』を一振りすれば、全てが炎に包まれどんな物でも跡形も無く消してしまう。

『魔王』様がよく愛用していた『剣』。

 業物にして業物ではない、これは失敗作、贋作、本物には程遠い、と『魔王様』が口にしていたのを覚えている。

 あの『剣』を見ていると、『魔王様』を思い出してしまう。

 ほんとに……もう、嫌になっちゃうよ


「最期の最期に……嫌な物を見せてくれるね」

「…………準備はいい?」

「待っててくれたの?人間にもそんな優しさがあるなんてリルル感激だよ」


 逃げても変わらない。この世界に生まれてから不幸の連続。でもまあ、お姉ちゃんと毎日一緒にいれたし悪くはなかったかな。


「”宝具使い”、ダンスを始めよう」

「……喜んで」


 もし、もしも叶うなら、生まれ変わるなら次もエミリア、お姉ちゃんの妹でありますように。


● ● ●

 

 ……倒れている?この血は……私の……血?……すごい量。

 私は……死ぬのかしら?このまま、予定通り、何もなく、叶えられず、このまま死ぬ。

 不思議と痛みは感じない。

 いっそのことこのまま、死んで楽になってしまいたい……でも、私が……やらなきゃ……リルルは………………嫌だ、それだけは嫌だ

 横目でリルルの戦況を見る。そこはメラメラと音を立てながら炎に包まれていた。まるで炎の壁だ。

 リルルは今……『宝具使い』と戦っているの?

 

「はぁ……はぁ」

「おいおい……まだ立つのかよ」


 私だって立ちたくないわよ……このまま死んでしまいたい、楽になりたい。だけど、それじゃダメ、ダメなの。私が立たなければ、終わってしまう。全て、何も救えず、叶えられず。


 立った瞬間に痛みは戻ってくる。

 つらい―――つらいけど、せめ……て……リルルだけ…………は……。


「はぁ……はぁ……『血流罠ブラットトラップ


 私が流した大量の血から金髪の男の足に血の鎖の付いた足枷のような物が創られる。

 鎖は血の池に繋がっており、それを壊さない限り金髪の男はその場から動けない。


「うお!何だこれ!?」


 金髪の男は足を振ったり、持っている短剣で斬りつける。

 持っても1分……

 私は炎の壁に向かう。

 エミリアが歩くだび、短剣で抉られた背中の傷からダラダラと血が流れだす。

 

 はぁ……はぁ……ふらふらする……頭が痛い、目眩も……血を流しすぎたわね……

 近い筈なのに……歩いても歩いてもつかない。

 ゆっくり、ゆっくりとふらつきながらエミリアはリルルの元へと向かう。


「はぁ…………はぁ…………リルル」


 世界に1人しかいない私の妹。


「リルルッ……」


 世界に1人しかいない私の『家族』。


「いま………………いくからね」


● ● ●


 燃え盛る炎、それは壁のように縁取られ出口は無い。

 そんな中でリルルと相対する”宝具使い”。

 

「終わりだね」”宝具使い”がいう。

”宝具使い”の向ける剣先には、だらりと腕が垂れ、崩れ落ちたリルルがいた。


「……強すぎだよ」

「私は強くならなきゃいけないの」

 

 戦いで使える全ての血を使い果たしてしまい、今ではもう立つ力すら残ってはいない。

 リルルが出した”ゾンビ”は悉く烈火の炎に飲まれ、全て灰と化した。

 理不尽と言う言葉はこういうときに使うんだな思ってしまうほど、強いと思ってしまった。

 ほんと……何なんだろうね。


「最期に……いい残すことはある?」

「……1つ訊いていい?」

「……何?」

「リルルは……何のために、この世界に生まれたのかな?」

「……ごめんね…………わからない」

「…………謝らないでよ。ムカつくから」


 わかりきっていた、こうなるって。心の片隅で勝てるかもっていう微かな希望を信じた結果がこれ。

 希望なんて物はすぐに絶望に変わってしまう。何度リルルは絶望に落とされたか、覚えてない。そのわりに希望が叶ったことなんて一度も無い。

 いいよ、結局ここに死ぬために来たって思えば、少しは気持ちが楽になる。

 所詮リルルはこの世界にはいてはいけない存在だったんだ。だから神様はリルルに意地悪ばっかする。


『宝具使い』は『レーヴァテイン』を構える。


 神様は優しい。

 だって、こうやって神様は断頭台だけ用意してくれる。


 ああ……リルル……死ぬんだ、やっと楽になれる、別に楽にはなりたくないけどね……リルルやりたいことまだ一杯あるのに、このまま死ぬなんて嫌だ。

 恐怖に追われず自由に生きてみたかった、たらふくご飯を食べてみたかった。学校というものにも行ってみたかった。お姉ちゃんの言ってたペットを一度見てみたかった。お姉ちゃんと遊びたかった。お姉ちゃんともうちょっとだけ話したかった。お姉ちゃんと……最期に会いたかった。


 気がつくと……涙を流していた。


「まだ…………死にたく……ないよ」




 ザンッ!!


 


 斬られた。血が飛び散る。

 だけどそれは、リルルの物ではなかった。


「…………お…………ねぇ……ちゃ……ん」


 リルルの前に倒れこむお姉ちゃん。お姉ちゃんの肌はところどころ焦げていた。

 背中には何かで抉られたのか血が流れ出ており、そして”宝具使い”の一閃で胸からも大量の血が流れ出ていた。

 とても生きていられるような状態じゃない。

 

「リ…………ッ……ル………………よ…………か……った」お姉ちゃんがゆっくり、ゆっくりと手をリルルの顔に伸ばす。

「ご…………め…………ん…ね。た…………す……けて…………げッ……られ…………なくて」お姉ちゃんはリルルの顔を優しく撫でる。


 嫌だよ。

 

「リ…………ル…………そこ…………に…………い……る?」

「い、いるよ!お姉ちゃん!ここにいる!」


 嫌だよ……


「リ…………る……」次第に声が薄くなっていく。

「お、お姉ちゃん!嫌だ!嫌だよ!いっちゃやだ!」


 すると”宝具使い”は、再び剣を構える。

 それを見たリルルはエミリアを守るように抱え込む。


「ごめんね」と言いながら”宝具使い”が剣を振るった。


 誰か……助けて。

 














「『影壁シャドウウォール』」





 



 

 

 

 


 

 …………あたりが真っ暗……何も見えない。ここが………天国ってところなのかな?それとも地獄か。

 リルルは、結局……死んじゃったのかな。お姉ちゃんを守れずに。

 手のぬくもりはさっきから消えない。わずかながらにも手を握られている。

 ここにいるってことは……お姉ちゃんも死んじゃったの……かな。

 

 パキッ


 そんなガラスが割れるよな音がした。

 前を振り向くと真っ黒な空間に白いヒビが入っていた。

 ……これは、なに?

 

 パキッパキッ!


 次第にヒビは大きくなり、いつの間にかリルルとエミリアのいる空間の全てが白いヒビに覆われていた。

 な、なにが起きているの?怖い……

 だけど、お姉ちゃんの温かみが心を落ち着かせた。


 パリーンッ!!


 黒い空間はついに崩壊した。

 黒い空間の外は、変わらない先ほどの風景、炎のリングの中だった。


 リルルの目の前には……1人の人間が立っていた。

 黒のローブに身を包み、右手にはスティック状のロッドを手に持ち、顔は白い狐の仮面で隠されていた。

 あの仮面は……リルルの……この人が助けてくれたの?

 

「あ…………そ、……え」


”助けて”と言おうとするが、上手く喋れない。

 言わなきゃいけないのに、言わないとお姉ちゃんが……それなのにさっきから口が動かない。

 リルル達は所詮世界の嫌われ者。そんなリルルがお願いしたって……え


 そして、黒ローブの人はリルルの頭に手をのせ一言。


「大丈夫です」


 リルルはその人の声に謎の安心感があった。

 その人の手から感じるこの安心感は何?顔もわからない。名前もわからない。それなのに安心してしまう自分がいた。


「お姉ちゃんを…………助けて」

「命に代えても」


次は4日後の20日(水)になります。

時間帯も変わらずです。


*本当に申し訳ないのですが、投稿する日が伸びそうです。確実に言えるのが水曜日に投稿できないということです。もし、楽しみにしている方がいましたら申し訳ないです。必ず、土曜日には投稿できるようします*

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