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後編

 また家の中を妖しい影がコソコソ歩いています。ミシミシ階段を上がってきて、ゴウタの部屋のドアを開け、そーっとゴウタの顔を覗き込んできます。

 3日間、ゴウタは怖くて目が開けられませんでした。でも今日は勇気を振り絞ってそーっと薄目を開けました。暗くてよく分かりませんが真っ黒な二つの影が覆い被さるようにしてゴウタの顔を覗き込んでいます。ゴウタは歯がカチカチ鳴りましたが、勇気を振り絞って言いました。

「誰だ!?」

 二つの影はびっくりして逃げ出そうとしました。

「待て!」

 ゴウタがベッドから飛び降りると、

「キャッ」

 と悲鳴を上げて一つの影がすってんとひっくり返りました。

「イタタタタ。もう、ゴウタ! オモチャを出しっぱなしにしておくんじゃないって言ってるでしょ!」

「か、母ちゃん!?」

 ゴウタはびっくりしました。

「やれやれ、気付かれてしまったか」

 パッと灯りがついて、二つの影の正体が現れました。

 真っ黒な全身タイツを頭からかぶった恥ずかしいかっこうのお父さんとお母さんです。

 ゴウタはそのかっこうを見てげんなりして言いました。

「二人ともいい年してなんてかっこうしてんだよ?」

「フッ、ばれてしまっては仕方ない」

 お父さんがかっこうつけましたが、恥ずかしいだけです。

「実は父さんと母さんはBS団のメンバーなのだ」

「BS団?」

「ブラックサンタ団=略してBS団だ」

 あからさまに悪の軍団っぽいです。

「怪しい・・」

「何を言う!」

 お父さんとお母さんはポーズをつけながら言いました。

「BS団はサンタクロースをサポートする由緒正しき後援団体なのだ!

 サンタクロースは世界中の子どもたちにプレゼントを配るため毎年莫大な資金を必要としているのだ。そのお金を集めるためわれわれBS団メンバーは夜毎活動しているのだ!」

「ふうーん、偉いんだね」

 ゴウタはとっくにこれがブレイン・リフレッシュ・ドリーム・マシーンの見せている夢なのだと気付いていました。もう馬鹿馬鹿しくてつき合う気になれません。

「頑張ってね。おやすみなさい」

「こらこら、寝るんじゃない」

 腕をつかまれてベッドから引き戻されました。

「ばれてしまったからには仕方ない。おまえも今夜からBS団のメンバーになってわれわれの仕事を手伝うのだ」

「え〜、いやだよー」

「もう遅い」

「うわっ」

 気付くとゴウタもお父さんお母さんと同じ恥ずかしい黒の全身タイツ姿になっていました。

「さあ、意識を解放しろ。スーパーヒーローに変身するのだ。

 チェ〜ンジ、ダイナマイト、ドッカーン!」

 お父さんは叫ぶとBOOOMN!とアメコミタッチに爆発してマントを翻したスーパーブラックダンディー・ダイナマイトに変身しました。

「エクセレントフラーッシュ、ミャオ〜ン!」

 お母さんも恥ずかしげもなく叫ぶと魔法少女の透過光を放ってネコ耳としっぽを生やしたブラックキャットレディー・エクセレントに変身しました。ゴウタは恥ずかしくて顔が赤くなりました。

「さあ、あなたも変身するのよ、我が息子よ!」

「え〜、やだよ、かっこわり〜」

 と言いつつ、体が勝手に動いて、

「変身!」

 コンピューターグラフィックスの防具が飛んできて頭や腕や肩や膝に装着されました。ぐるんと腕を回して足を踏ん張り、

「マスクドブラック・フューチャー、参上」

 シャキーン、とポーズをつけました。お父さんのスーパーブラックダンディー・ダイナマイトが腰に手を当ててクレームを付けました。

「最近の変身はあっさりしたもんだなあ。もっとこうー熱血な感じで盛り上がんないかなー」

「はずかしーからいいよ」

 と言いつつゴウタは自分の変身した姿をすっかり気に入ってしまいました。

「で、何すればいいんだよ?」

「ブラックキャット、今夜の獲物は?」

「ええ、ブラックダンディー、今夜はあこぎな商売で財をなすETCHIGO屋の宝物庫を襲うわ!」

「ムム、それはなかなか警備が厳重そうだな。頼りにしているぞ、マスクドブラック」

「はいはい」

 なんだかゴウタもワクワクしてきました。

「行くぞ、ゴー!!」

 ブラックダンディーのマントが大きく広がってブラックキャットとマスクドブラックが飛び乗ると、三人は星降る夜空に飛び立ちました。


 超高層ビルの建ち並ぶ摩天楼。その下に金ピカリンに輝くギリシャの神殿みたいな建物がありました。

 三人はその屋根に飛び降りました。

「マスクドブラック。中に侵入して窓を開けてくれ!」

 マスクドブラックは狭い通気口からスルリと中に入り、窓を開けてやりました。ブラックダンディーとブラックキャットが足から滑り込んできました。

 ブラックダンディーはマントの下から大きな黒い袋を3枚取り出しました。

「これにありったけのお宝を詰め込むんだ!」

 見ると広いフロア全体にガラスケースが並び、中にキラキラ光る宝石がいっぱい並んでいます。

 マスクドブラックはじいっとそれを見て言いました。

「ここって、宝石店じゃん?」

「これはすべて南蛮渡来のご禁制の品なのだ。ETCHIGO屋はそれはそれは悪い奴なのだ」

 なんかお父さんの趣味の時代劇が混じっています。ま、どうせ夢なんだからどうでもいいですが。

「トリャ!」

「エイッ!」

 ブラックダンディーもブラックレディーも乱暴にガラスケースをぶち破って宝石をわしづかみにして袋に投げ入れていきます。ゴウタも

「えーい、やっちゃえ!」

 と、パンチでガラスを叩き割り、ダイヤやルビーの首飾りや指輪を袋に投げ入れていきました。

 ガッチャンガッチャン! ガラスを割る音がフロアじゅうに響き渡り、どう見てもただの強盗団です。でもゴウタはこの乱暴な夢が楽しくて仕方ありません。ガッチャンガッチャン!

 ジリリリリリリ!と警報が鳴り響き、ぞろぞろとピストルを持ったおサムライが現れました。お父さんが無理やり時代劇にこじつけたせいです。

「者ども! 撃ち捨てい!」

 おサムライたちはバンバン遠慮なしにピストルを撃ってきました。ゴウタはヒャア!と悲鳴を上げましたが、

「なんの!」

 ブラックダンディーが立ちふさがって胸で弾丸を受け止めました。

「ワハハハハ。このはがねの肉体にピストルなんか通用するか。オリャア!」

 突撃して回し蹴り。おサムライたちは「うわあ」と吹っ飛ばされました。

「ニャーオ。バリバリバリ」

「うぎゃああっ!」

 あっちではブラックレディーが鋭い爪の引っ掻きの餌食にしています。オリャア!ミャーオ!と二人ともやりたい放題です。

「おのれ!」

 一人のおサムライが子どものマスクドブラックをバーン!と撃ちました。わっと手でかばうと、弾丸はピーンと弾かれました。

「よーし、オレも」

 防具がCG変形してソードになりました。

「必殺、サンダーアタック!」

 ソードを振り下ろすとバリバリバリッと雷が落ちて、おサムライはぐえっと気絶しました。ブラックダンディーが親指を立てて「グッジョブ!」とニヤッとしました。

 やりたい放題の三人組。おサムライはバタバタ倒れていき、床に山と積まれました。

「勝利!」

 三人は宝石の詰まった袋を背負って揃ってポーズを取りました。イエイ!

 やっぱりただの泥棒です。


「さあ引き上げだ」

 屋根の上に舞い戻り、ブラックダンディーがマントを広げました。その時、バラバラバラとヘリコプターの近づいてくる音がして、パッとまぶしい光が三人の目を射抜きました。

『犯人に次ぐ! 大人しく投降しなさい! さもないと・・』


 と、そこで三人は目を覚ましました。窓から朝の白い光が射し込み、チュンチュンとスズメが鳴いています。


「いやあ昨夜も大活躍だったな!」

「ええ。ゴウタも頑張ったわね!」

「うん!」

 三人とも上機嫌でニコニコです。パンを頬張りながらテレビで朝のニュースを見ていると・・

『先ほど夕方6時=日本時間午前4時、ニューヨークの世界的に有名なステファニー宝石店に強盗が入り、店の宝石のほとんどが盗まれるという事件が発生しました。強盗は三人組で、全身に黒いタイツを着て、ものすごい怪力で警備員をなぎ倒し、宝石を奪って屋上に逃走しました。駆けつけた警察ヘリコプターが発見し、投降を呼びかけましたが、直後に3人は突如として消え失せたそうです。周辺では今もニューヨーク警察、FBIによる大捜索が行われていますが、現在のところ犯人は発見されていません。こちらがステファニー宝石店の防犯カメラが捕らえた強盗3人組の映像です』

 お父さんとお母さんとゴウタは真っ青になりました。そんな馬鹿なことがあるわけありませんが、テレビに映る黒い全身タイツの3人は、自分たち家族にそっくりでした。


 お父さんは警察に出頭して夢の中の自分たちの犯行を自白しましたが、警察の人に「馬鹿な冗談を言うんじゃない!」と怒られて追い返されました。

 ゴウタは道雄くんに電話して黒岩三太郎のことを訊きましたが、道雄くんは三太郎も科学教材社も知らないと言いました。



 夜です。今夜は12月24日、クリスマスイブです。

 お父さんとお母さんは怖くてもうドリームマシーンなんて使う気にならず、さっそくクーリングオフのハガキを出しました。


 ゴウタも怖かったのですが、勇気を出して自分の部屋で一人でドリームマシーンを使って眠ることにしました。

 トナカイの鼻を押して、ピアノ曲が流れ出します。

「トロイメライ」というシューマンという人の作曲した曲だそうです。

 ゴウタは深い眠りに落ちていきます。



 ゴウタはマスクドブラック・フューチャーの姿で昨夜の宝石店の屋根の上に一人で立っています。足元には宝石の詰まった3つの袋があります。

 改めて周りを見渡すとニュースで見た宝石店のビルとは違います。もっとマンガっぽくて、映画のセットのようです。

 グオオオオオオーーー

 と、ものすごい排気音をさせて真っ黒な三角形のジェット機が上から下りてきました。ステルスジェット戦闘機です。

 運転席のハッチが開いてニヤッと笑う黒岩三太郎が現れました。

「剛太くん。その袋を持ってこれに乗りたまえ」

 ゴウタは袋をかばうように前に立って言いました。

「おまえが夢の中で僕たちを操って宝石を盗ませたんだろう? これは店に返す!」

「そうはいかん」

 三太郎は操縦桿を操ってステルス機の三角の翼でゴウタと3つの袋をすくい上げるとギュン!と上空に上昇しました。ものすごい重力に押さえつけられてゴウタはワーと悲鳴を上げました。三太郎は機体を傾けて3つの袋をスルスルと運転席に回収しました。

「ハハハ。落っこちないようにしっかり掴まっているんだぞ」

 ビュン!とジェットで加速して、ゴウタはまたヒ〜ッと悲鳴を上げて翼にしがみつきました。

 風もそうですが、冷気もひどいです。ゴウタはガチガチ震えて、黒いゴムの手袋に白い霜が浮いています。寒いのも当然で、ステルスジェットはどんどん雪の世界に突き進んでいきます。雪の山脈を越え、雪の森を越え、雪の荒原を越え、真っ黒な海を越え、とうとう氷の大地、北極まで来てしまいました。

「そら頑張れ。あそこがゴールだ」

 氷の山に窓が開いて、オレンジ色の灯りが漏れています。

 その山の前にステルスジェット機は静かに着陸しました。

「さあ来い」

 三太郎は片手に3つの袋を持ち、片手にすっかり固まってしまったゴウタをつまみ上げ、入り口の穴に入っていきました。

 中は広い広いオモチャ工場で、大勢の赤い服のサンタたちがオモチャ作りに精を出していました。

「おう、三太郎。材料がないぞ。早くよこしてくれ」

 催促するサンタに

「おう。そらよ」

 と三太郎は袋を投げました。あっちとこっちにも投げました。サンタたちは中からザアーッと宝石を取り出すと、カナヅチでガンガン割りだしました。すると割れた宝石は車やお人形やコンピューターゲームのオモチャになっていきました。

 よくよく見ると別のところではゼロのいっぱい並んだお札を丸めてオモチャに作り替えています。

 クリスマスのプレゼントのオモチャはこんな風に作っているのかとゴウタは感心しました。

「その坊主はなんだ?」

 赤いサンタが忙しそうにしながら横目でチラッとゴウタを見て言いました。ガラの悪いサンタです。

「こいつか? こいつは悪い子だ」

「そうか、悪い子か? わっはっは」

 ガラの悪いサンタは仕事をしながら笑いました。カナヅチを振り下ろし、宝石がガンガン割れてオモチャに変わっていきます。コンピューター制御の恐竜が現れて、ゴウタは欲しいなあと思いました。ガラの悪いサンタはゴウタをジロッと見て、

「おまえのもんじゃないぞ」

 と意地悪く笑いました。

「ほら、行くぞ」

 三太郎に首根っこを掴まれたままゴウタは奥の方へ連れていかれました。サンタの中には女の人も混じっています。ゴウタを見ると「あらまあ」と目を細めて笑いました。

 一番奥に、暖炉を背に、膝に毛布を掛けて背を丸めたおじいさんサンタが座っていました。

「こんばんは、サンタクロース」

「おお、サンタローか。こんばんは。はて?誰じゃったかのお?」

「ほら、挨拶せえ。サンタクロースさんだ」

「サンタクロースって、え? 本物のサンタクロース!?」

 ゴウタはびっくりして目の前のおじいさんを見ました。真っ白な髪の毛とひげに埋もれて、優しそうな小さな目がゴウタを見ています。ゴウタは感激で胸が熱くなりました。

「君はサンタローに捕まって手伝いをさせられておったのか? そりゃあすまんかったのう」

「いえ! いいんです! ・・面白かったです・・」

「そうか、面白かったか? ホッホッホ。なるほどこりゃ悪い子じゃ。ホッホッホ」

 サンタクロースはゴウタのイメージ通りの笑い方をしました。

「よし。特別にサンタクロースさんに会わせてやったんだ、満足だろう?」

 三太郎はクルリと向きを変えて元来た方へ帰ろうとしました。サンタクロースが言いました。

「まあ待ちなさい。せっかくだから24時の鐘を突くところを見せてやりなさい」

「はあ、そうですか。おまえは運のいい奴だな。では鐘楼に連れて行ってきます」

 三太郎といっしょにゴウタもサンタクロースにあいさつして、サンタさんは手をニギニギして見送ってくれました。

 ゴウタはようやく体が溶けて自分で歩けるようになりました。

「ねえ、僕のプレゼントは?」

 三太郎はジロリと見てヘッと笑いました。

「悪い子のおまえのプレゼントなんてない」

「ひっでーな、手伝ってやったのに」

「ははははは。悪かったな。

 じゃ教えてやる。

 ここで作っているプレゼントはサンタクロースのいない子どもたちのための物だ」

「サンタクロースのいない?」

「そうだ。おまえには立派なサンタが二人もいるだろう?」

「・・父ちゃんと母ちゃんのことか?」

「ああ、そうだ」

「二人ともサンタじゃあないじゃん?」

「これから変身させるのさ」

 三太郎は横の穴に入って進み、天井の高い場所に出ました。

「見ろ」

 紐がぶら下がって、そのずーっと上の方に大きな鐘が下がっています。

「あれがサンタクロースの鐘だ。もうそろそろだな」

 氷の壁に大きな時計が埋め込まれています。時刻はちょうど・・

「ボ〜ン、ボ〜ン、ボ〜ン・・」

 0時になったところです。

「24時だ。鐘を鳴らすぞ」

 三太郎は紐を掴み、

「そーれ」

 引っ張ると上の方から「リンゴ〜ン、リンゴ〜ン」と大きな鐘の音が降ってきました。

「おまえもやるか?」

 三太郎に持ち上げてもらってゴウタも紐を引っ張りました。

「リンゴ〜ン、リンゴ〜ン、リンゴ〜ン・・」

 一生懸命鐘を鳴らして、

「24回。よしいいぞ」

 下に降ろされました。

「これでどうなるんだい?」

「見に行こう」

 横穴から外に出ました。

「見ろ」

 指さされて空を見ると、水面に雫の輪が広がるように、この上の空を中心に夜空にワンワンと七色のオーロラが広がっていきます。

「24時の魔法のオーロラだ。このオーロラは世界中の空に広がっていって大人たちをサンタクロースに変身させるのだ」

「オレの父ちゃんと母ちゃんも?」

「そうだ」

「うっそだあ〜。オレ、寝たふりして二人がオレの枕元にプレゼント置いていったのちゃーんと見てたもんねー」

「バーカ、当たり前だ。サンタを信じない子供の親にはオーロラの魔法はかからないのだ」

「ふう〜ん・・」

 ゴウタは疑わしく思っています。

「あ、サンタさんだ!」

 8頭のトナカイの引く空飛ぶソリに乗ってサンタクロースが飛び立っていきます。

「ありゃりゃ?」

 あっちからもこっちからも、いくつものソリで何人ものサンタクロースが飛び立っていきます。

「なーんだ、偽者かよー」

「バカモンが。みんなサンタクロースの命を受けた本物のサンタクロースだ。おまえも会っただろう、オリジナルのサンタクロースはもう1600歳の高齢だ。世界中をソリで回るような激務はさせられん。だからああしてオリジナルに任命された本物のサンタクロースたちが世界中にプレゼントを配りに行くのだ」

「ふうーん。でもオレの家には来ないんだろう?」

「あのサンタたちが向かうのは自分のサンタクロースがいない子どもたちのところだ。サンタクロースになってくれる親や親せきのいない子どもたちのところへ行くのだ。だが、全ての子どもたちのところを回れるわけではないがな、残念なことに」

「うん・・」

 三太郎はゴウタの頭をぐしゃぐしゃ撫で回して言いました。

「自分のサンタクロースがいるおまえは幸せ者なのだぞ」

「わかったよお〜」

 ゴウタはちょっぴり尊敬の眼差しで三太郎を見上げて言いました。

「あんた偉いんだな。魔法の鐘を鳴らすなんて」

「赤いサンタたちはオモチャ作りとプレゼント配りに忙しいからな。俺の仕事はイブの前日までだ」

「どうしてあんたは赤いサンタじゃないんだ?」

「それはな」

 三太郎はゴウタにニヤリと笑いかけて言いました。

「俺がものすごーく、悪い子だからさ」

 ゴウタが笑うと三太郎も「はっはっはっはっはっ」と豪快に笑いました。

「そういやどうして0時の鐘じゃなくって24時の鐘なんだ?」

「夜の魔法の鐘だからさ。それに地球が回っているから世界中の国の0時はまちまちだからな。どの国でもイブの夜は朝まで魔法の24時なのだ」

「へえー」

 ゴウタは感心して、ますます三太郎を尊敬しました。

「よし、ここまでだ。おまえも自分の家に帰れ」

「え〜、まだここにいたいよお〜」

「そういう我が儘な悪い子は、サンタクロースの代わりに黒いサンタがやってきて、オモチャじゃなく勉強道具を置いていくぞ」

 三太郎はチャーミングにウインクしました。その途端ゴウタの体はスーッと空に吸い上げられ、三太郎も、氷の山も、見る見る小さくなっていきました。ゴウタは大声で呼びかけました。

「おーい! 来年も来てくれよおー! オレ、悪い子で待ってるからなー!!!」

 オーロラの七色に包まれて、ゴウタの意識はふうっと消えました。



「どうだ?」

「寝てる寝てる。うっふっふっふっふ」

 二つの黒い影がそーっとゴウタの顔を覗き込んでいます。ゴウタは目を閉じて寝ているふりをしていますが、ちゃーんと起きてます。

「メリークリスマス。ゴウちゃん」

「メリークリスマス。ゴウタ」

 ゴウタはそっと目を開けて部屋を出ていく二人の後ろ姿を見ました。すると、

 二人の体はぼんやり光って、赤い服を着て、ふさふさの白い髪の毛をしていました。

 サンタクロースは本当にいたんだ。

 ゴウタは嬉しくなって、幸せな気分のまま眠りに落ちていきました。

 トナカイのドリームマシーンから小さく優しくトロイメライが流れています。

 そのトナカイを大きな手が持ち上げました。真っ黒な、黒岩三太郎です。

「クーリングオフ成立だ」

 三太郎はゴウタの枕元のプレゼントを見て優しく微笑みました。

「おまえはいい子になっちまったから、来年は来ないよ」

 黒岩三太郎は闇の中に消えていき、

 それきり、

 ゴウタが彼に会うことはありませんでした。



 クリスマスの朝、ステファニー宝石店の社長の元にサンタクロースからの感謝状が届きましたが、社長はカンカンになって破り捨ててしまいました。

 かわいそうに彼はサンタクロースからのプレゼントをもらったことはなかったようです。



 ところでゴウタのもらったプレゼントですが、携帯ゲーム機の「頭の良くなるパズル」のゲームソフトでした。



 おしまい。

ありがとうございました。幸せなクリスマスが・・わたしのところにも来ないかなあ?

2007,12,7

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