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濃い茶色のカーテンが閉め切られ、天井の電灯のみが光源の暗い部屋で、少年は眠たそうな眼をこすりながらゲームコントローラーを握っていた。ゲーム、パソコンにテレビと、足元に張り巡らされた配線は機能性だけが重視され、他人の目に触れる可能性など一切考慮されていない。
足元にはゲームのパッケージやら通販の包装紙などが転がっていて、お世辞にも整っているとはいいがたい。
二つある窓もぴしゃりと締め切られ、郊外にある住宅地にも関わらず、帰りがけの小学生でにぎわうはずの外界とは一切の通信が絶たれている。
数あるゲームジャンルの中の一つ、ファーストパーシン・シューティングゲーム‐通称・FPSと呼ばれる‐の中で、全世界で圧倒的な人気を誇り、今やプレイヤー三百万人超の《伝説的ヒット》と謳われる超人気タイトル。
一日のプレイ時間が裕に十時間を超える廃人級と呼ばれるプレイヤーもひしめく中で、通算四四九九勝三敗、勝率九九・九三%。二位に一%以上の差をつけて世界ランキング一位に居座り続ける、俗称「神」の姿がそこにはあった。
だが、ソファにだらんと体を預け、目と指以外のほとんどが動かない少年の姿は「神」と呼ばれているゲーム内での存在とはほど遠い物がある。オンライン上での称号など、現実世界ではなんの意味もなさないもなさないのは彼が一番よく理解していることであった。
ゆえに彼は、そのように呼ばれることを誇らしいなどとは思わないし、うれしさを感じたり、充実感を滲ませるなどいうことはなかった。
時折、ゲームのアカウントに「憧れます!」とか「私もあなたみたいに強くなりたいです!」などとメッセージが飛ばされることがあったが、少年はその送り主の気持ちが理解できない。ゲーマー達が憧れる「最強のゲーマー」など、所詮はそんなものだ。
マップの記憶、相手の装備の把握など情報を抑えることが勝利へのカギであるはずのこのジャンルで、全くそれをせず視界に入った敵だけを射撃する彼のプレイスタイルは、異質だった。
ちょうど視界に入った敵をヘッドショットで一撃で屠ると、通算四五〇〇勝を祝うBGMが流れる。それを見もせずにスキップしオートセーブを完了すると、すでに昼夜逆転どころか時間の感覚のない彼は、ベットに入って目をつむった。
九月六日午後三時五十五分、彼がこの世界、現実としてとらえていた「今」に存在したのはこのときが最後だった。