第63話 不死軍団
「なんとか間に合ったね」
壊滅した軍勢を見ながら安堵する。思った以上に王国軍が公都に近づいていた為に焦って魔法を使ってしまった。
遠距離から魔法を放った為にあまり残酷なシーンを見ずに済んだ。レオもセリスも自分がすることに反対したが強硬した。これは自分が決めたことだからだ。自分の意思で公国を救うと。
「それでも大分残っているね」
「かなり長距離からでしたから。全体の3割程ですね。やっつけたのは」
レオが答えてくれる。まだ敵が七割残っていることに安堵してしまう。一発で数万の命を奪う力。しかも今回はかなり手加減した。全力でやれば全滅できただろう。敵もこちらを殺す覚悟で来ているのだから殺される覚悟もあるだろう。しかしそれでもなるべく殺さずに済ませたい。
「これで撤退してくれるかな?」
「敵の司令官はブラウン軍務卿です。味方殺しの殺人将軍と呼ばれていますからどうなるやら……」
一撃で3割やられたのだ。普通は撤退しかないと思うのだが、これで突っ込んできたら殺人将軍と猟奇的な将軍に率いられた軍勢に同情するしかない。
「撤退開始しましたね」
撤退と言うか逃亡のようだ。我先にと逃げ出しているように見える。ひょっとしてさっきの一発でブラウンさんを殺ってしまったのかなと考えていると
「味方が追撃に入りましたね。当然でしょう」
レオが教えてくれる。視線を向けると一万程が突出して追撃を開始している。
「あれ?敵も迎え打つみたいだな。ただ1000人もいないか」
と言うとレオが焦った声で
「不味いです。あの不恰好な鎧を身につけた軍団はブラウン軍務卿とともに大陸で生き残った精鋭です!!」
多少丈夫そうな鎧を身につけてはいるが10倍の軍勢がいる公国軍が負けるとは思えなかった。
「そんなにヤバイ敵なのか?救援したくてももうぶつかるぞ」
言い終わるか終わらないかぐらいで戦場に軍隊同士の衝突音が響き渡る。
1000に満たない軍勢が公国軍をチーズをカットするようにドンドン突き進んでいる。
「本陣が危ない!」
慌てて公国軍の本陣前に飛んで行く。
一万の軍勢が抜かれ本陣に迫ろうというところで
「殲滅魔法をメキド!!」
レオが王国軍に向けて混合魔法を使う。ブラックオークを仕留めた炎があたり一面を覆い尽くす。
しかし、王国軍の精鋭は動きを鈍らせたものの前進をやめない。
「そ、そんな混合魔法に耐えるなんて……」
セリスが動揺する。もちろん自分も混乱していた。ブラックオーク達を焼き尽くす炎が人間に効かないとは考えもしない。
慌てて降りて、ホーリーランス1000本を作る。
「貫け!!」
☆★☆
「なにが起こった?!」
犠牲者三万と聞いて声をあげる。
「公国の新魔法か?!」
敵の最終兵器のことはもちろん知っている。ただ序盤戦で使うようなものではないはずだ。公王の一族の命が代償なのだから。
「敵に動きはあるか?」
報告に来たものに尋ねる。
「いまのところありません!」
つまり公国軍と連動していない。単独攻撃だ。南に亡霊が現れこちらには化け物がきたらしい。
正体は例の王子様だろう。こんなことできる化け物そうそういては堪らない。
「全軍に通達!!不死軍団以外は全軍拠点まで全力で撤退せよ。殿は私がする!!南のライン将軍には撤退の指揮をさせろ!!」
伝令に来た人間に伝える。なにか言いたそうな顔をしたが慌てて伝令に走って行った。
天幕を出ると共に大陸で戦った戦士達は揃っていた。
「共に戦場を駆け抜けた同士諸君!!最後の突撃を行う!!目標敵本陣!!」
大陸において共和国軍相手に30回以上突撃をして来た。味方を踏み台に数々の戦功を重ねて来た最高の軍団。死んでしまった味方の防具を集め少しずつ改良された機能のみに特化した不格好な鎧を全員が身につけている。
不死軍団と名付けられた我々軍団は死ななかったのではなく戦場で死に切れなかった想いと共に生き続けた。
この突撃は味方を逃がすためのものであり他国の軍を生かす為のものではない。全員がそれを分かっているので逃げ出す者はいない。
「こちらの撤退をみて敵が突っ込んで来たか。行きがけの駄賃に追撃に来た軍勢を打ち破りその後敵本陣に突っ込むぞ!!!」
「「「「「「おう!!!!」」」」」
10倍の敵に向かって突撃を開始する。幾度となく繰り返された行為。今回は特に体が軽い敵を幾らでも葬れそうだ。
先頭に立ち敵軍勢を蹴散らす。後ろもついて来ているのが分かる。ドンドン進む。敵の軍勢をアッという間に抜き去る。
あとは敵本陣だ!!
と思っていると巨大な炎の波が襲ってくる。これが例の王子様の魔法なのか?!確かに強力な魔法だが、竜の皮で補強された鎧を着ている我々はこの程度では止まらない。
耐え切って本陣に進み続ける!!
その時黒髪の子供が我々の先に立つ。
ランス系の魔法を使ったようだ。千本はあるだろうか?一本一本が光り輝いており美しい。黒髪の子供も輝いて見える。
死神とは美しいものだな。
それがブラウン軍務卿の最後の思考だった。
次回更新は10月1日です。