第62話 公国の亡霊
「公国の亡霊は実在したのか!」
南に向かう途中なんどか襲われるハメとなった。一回の襲撃で100人前後殺されてしまう。最初は地元の義勇兵の仕業だと思い山狩りなどしてみたが被害が拡大するばかりだった。
「襲撃者は二人で間違いないのか?!」
報告に来た部下に何度目かになる同じ質問をぶつける。
「はい、襲撃者は二人。エルフの女性とのことです」
たった二人にすでに500人以上がやられている。軍を任されてたった二日のうちにだ。
「くそっ!!こんなところで躓くとは……」
3万の軍勢がいるのだ。この程度の犠牲では撤退できない。そもそもこの事態に対応できなければ王国軍内での自分の立場がなくなる。
「魔法は効かない。並の兵士では囲んでもカモにされる。かといって深入りはして来ない」
進軍の遅滞を狙っているのか?それとも焦って行動することを狙っているのか?
「敵の首脳部に悩みの種を植え付けるつもりが逆に悩んでいれば世話はないな」
自嘲気味に呟く。
「より警戒をし進軍を続ける。これはブラウン軍務卿の戦略なのだ。ここでの遅れは許されない!!」
報告に来た部下は絶望した顔で部署に戻っていった。
「軍務卿にも報告をせねば」
ブラウン軍務卿は誤解されているが戦死者がでるのを極端に嫌う。遠征で95%の損失を出したばかりに殺人将軍などと呼ばれているが誤解もいいところだ。
「私の出世もここまでか」
思わず空を仰いでひとりごちる。
本来南に兵を進めるだけの簡単な作戦。それに多大な犠牲を払っているのだ。長引けば長引くほど亡霊に味方を間引かれ続けるのだ。明るい未来など開けるはずもない。
☆★☆
「なに?!!2000も失ったのか?!」
ブルーシュは副官の報告に愕然とした。
王国軍を更に奥地に誘導する為に繰り出した一手。軽く戦って撤退するだけの予定だった。それが逆に敵の策にはまり深追いしたところを逆襲され大損害を被ったのだ。
「なぜ、我々が深追いする必要があるのだ?!」
副官に八つ当たりしても仕方がないのだ。2000の兵を率いていた者はすでに死んでいる。
「南に向かった王国軍はどうなっている?」
「どうやら南の大砦の長が出てきたようです。今のところ進軍はかなり遅くなっています」
「一息つけるか。しかし、本当に出て来てくれるとはな」
基本的に南の大砦を治めている双子のエルフは表に出てこない。南の大砦の政務も他の者に丸投げ。しかし南の大砦に君臨し続けている。
「しかし、奴らはいくつなのだ?50年前の戦争にも参加しているのだろう?」
そして100年前の戦争にも
「その質問を本人達に直接したものはこの世にはいませんね」
本人達に直接した者がいるのか勇者だな。
「本人達に聞く勇気は私にはないな。それよりこれからだ。敵が折角兵を分断してくれたのにそれを活かすことが出来ていない。なにか対策はあるか?」
「とりあえず北の大砦の援軍を待たれてはどうですか?麒麟児とセリス様お二人で事態はひっくり返せますが」
すでに公国がその二人にひっくり返された後なのだ!!とは言えない。
「北の大砦の援軍を待ちにしても日数を稼がなければならない。それをどうするかだ」
「敵はあのブラウン軍務卿です。大陸での戦功が本当であれば化物の類ですよ。当初の戦略通り敵軍勢の誘導を主な任務として、深追いしないよう徹底させるしかないでしょう。今回2000で済んで良かったと喜ぶ所です」
副官の正論に頷くしかない自分がいる。自分とブラウン軍務卿とでは役者が違うのだ。今更当初と違うことをしようとして上手くいくはずがない。
「そうだな。深追いしないよう撤退させろ、今回のことを教訓にすれば同じ過ちを繰り返しはしないだろう」
ベルナルド様の息子達であるシオン将軍とベルタ将軍を使えればこんな指示をわざわざ出す必要はなかったのに。
今更ながら自分の不運を嘆くしかなかった。
★☆★
「ライン将軍は亡霊にあったか」
ブラウン軍務卿はライン将軍からの報告書を読みながらそう呟く。
被害は今のところ少ないがこれから更に被害は拡大するだろう。対策がないのだから。
せっかく公国軍2000を葬ったのに割りが合わないことだ。ラインは進軍を続けるか。本隊に亡霊が来られても困る。正しい判断だろう。
しかし犠牲者は増え続ける。亡霊はエルフのようだしエクソシストを派遣しても無駄だろう。王国からの送られる予定の3万をそのまま南に送るか。片一方が亡霊を引きつけている間に道の封鎖は可能だろう。それに6万を全滅させることはこのペースでは不可能だろう。
さっそく指示を出そうとした時に、伝令が駆け込んで来た。
「申し上げます。敵の襲撃に遭い犠牲者は三万を超えるそうです!!」
一体なにが起こったのだ?!!
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