第59話 出陣!
「どうしたらこんな内容になるんだ?」
公都から送られて来た王国の親書の内容に軽い頭痛を覚える。よりによってメイがいる時に届いてしまった。メイは泣きそうな顔でこちらを見ている。
「さぁなにも考えていないんじゃないですか?まぁ私の祖父が帝国からの亡命者ですから価値観を共有できると思ったのかもしれませんね」
レオが答えてくれる。
「それでもおかしいだろ?エルフを助けて執政官になった人間に送る内容ではないし、前回の親書では、エルフ自治領も含めて認めるんじゃなかったのか?」
「それは違いますよ。アルフレッド様。王国はエルフ自治領もレオ執政官の領土だと認識をしているです。エルフの自治まで認めるとは言っていません。エルフの事を自由にしていいとお墨付きを与えたに過ぎません。その結果として軍事行動を起こしたのですから王国が勘違いしても仕方ありません」
リュイが解説してくれる。
「あくまで軍事演習だろ?」
返しは分かっているが一応聞いてみる。
「この状況下で本当に演習だと思っている人間はいないでしょう。各国の上層部の話ですよ。演習に参加している冒険者のほとんどが公国と戦う気はないでしょうね。冒険者にとってクロノア公国王家は憧れの存在ですから。アルフレッド様にとってはあまり実感ないでしょうが」
そうなのか、冒険者にとっては憧れなのか。半分予想通り、半分予想外の答えに少しビックリする。
「まぁいいや、公国側としては、王国からの親書を送って来たという事はこれを見て北の大砦が味方になると確信しているんだろ?」
「私のお爺様ははレオ様の人となりを良くご存知です。レオ様がエルフを差別するような人ではないと確信しているでしょう」
セリスが教えてくれる。レオの人となりを知っていて孫を放任しているとしたら実に器の大きい方に違いない。
メイはこの会話の間心配そうに自分の服の裾をつかんでいる。
「メイ大丈夫だよ。王国に味方をする事はないよ」
頭を撫でながら伝える。
「王国と公国の戦況はどうなっているんだ?詳しい状況は分からないのか?」
「まだ始まったばかりです。あまり焦らないでくださいよ」
「少し押されているようですが、どちらかというと引き込んでいるようです」
「諜報部隊は全て潰してあります。ロクな動きはできないでしょう」
そんなに焦っているつもりはないがそれぞれが落ち着かせようと語りかけてくれる。レオ、リュイ、セリスの順番だ。さりげなくカミングアウトが含まれているが気にしたら負けだろう。
「とりあえず、先行部隊として自分とレオ、セリスの三人でいく。リュイは北の大砦に残って政務全般を頼む。グレンには精鋭部隊を率いてなるべく早く、公国軍に合流するように伝えて欲しい」
表立って動く気はなかったが、いざ事が起こると居ても立ってもいられない。敵の中心を叩いて最小の犠牲で終わらせたい。
「仕事しなかったのに決断は早いんですね。執政官は私なのですが。公国から毟り取るチャンスですよ。分かってますか?」
レオが愚痴ってくる。自分でも調子がいい事と思うがここはレギオンの団長としての権限で押させてもらう。
「レオ様が宜しければ私からはなにもありません」
セリスは予想通りだ。本当にレオが好きだな。付き合っちゃえよ!すでに付きまとっているが……。
「この街のことはご安心を」
短く答えるリュイ。こいつがある意味一番心配だ。もう一人の補佐官のアデーレにしっかりと見張ってもらおう。
「私も行く」
固い意志を持った目で見上げてくるメイ。さすがに留守番をしてもらいたいが、言っても聞かないだろう。
「危ないと思ったらすぐに逃げる事。出来るね」
含むように言い聞かせる。頷くメイ。
メイはいざとなったら後宮で預かってもらおう。リリィは元気かな?