第58話 宣戦布告
「これはラーダ外務卿、今日はどのようなご用件で?軍事演習のお話は先日聞きましたが」
ラクトニア国王の親書を携えて来たラーダ外務卿に会う。ブルーシュ大将軍とクルエラ筆頭魔導師と寝ずに対策を考えていたので正直機嫌が悪い。どうせロクでもない要求をしてくるのだから。
「はい、わが国王は公国での北の砦での反乱に心を痛めております。こちらの親書の内容を承諾いただければ援軍を出す準備が整っているとの事です」
「わが国ではそんな反乱の事実はないぞ。北の大砦の責任者が代わったので騒がしく見えるだけだ」
そう言いながら差し出される親書を受け取る。王国が反乱するように煽ったのは分かっているのだ。
「この内容が本気で受け入れられると思っているのか?!」
内容を確認しあまりに酷い内容に声を荒げてしまう。公国王の即時退位、和解金の支払いなど国がなくなってしまう要求ばかりだ。
「私はラキ宰相から賠償金の見直しと聞いているのですが……」
急に悪意をぶつけられ戸惑うラーダ外務卿。本国から見捨てられたか。
ラクトニア宰相にも見せる。
「これは宣戦布告と変わりませんな」
ラーダ外務卿を睨みながら静かに言い放つ。ラーダ外務卿はすでに真っ青だ。
「ラーダ外務卿は我が国と王国の友好の架け橋になってくれるものと思っていたが、残念です」
長年、援助金という名の買収を行っていたラクトニア宰相は更に追い詰めていく。
「ほ、本当になにも知らなかったのです!!私は公国の為に尽くしてきましたぞ!それは宰相もご存知の筈です!」
親書の内容を確認したラーダ外務卿は平身低頭、ほぼ土下座の状態で許しを乞う。
ここで怒りに身を任せて殺してもいいのだが、ラクトニア国王を喜ばせるのも癪だ。
「ラクトニア国王に伝えよ。友好な関係は終わりだと。欲しいものがあれば直々に公都まで取りにこいと!!!」
ラーダ外務卿は転がるように逃げて行く。
溜息をつきながら、
「ラクトニア国王との和解は無理らしい。あいつらはバカだ。この私と同じぐらいにな」
全てのキッカケを作ってしまった自分に自嘲してしまう。
ラクトニア宰相が親書を再度確認しながら
「いや、我々も愚かですが王国の方がより上かもしれませんぞ!」
大量の要求の中にエルフの隷属化を見つけて声をあげる。
「奴らはエルフの隷属化まで条件にいれています。早速、写しをいやこの親書ごと北の大砦に送りましょう」
ラクトニア宰相が提案してくる。
「北の大砦を味方に引き入れたいのに、そんな馬鹿な条件をいれるのか?レオが執政官になった経緯を知らない訳ではないだろうに」
ラクトニア宰相の見間違いかと思い再度確認する。すると要求が多すぎて見落としていたが中ほどに確かに書いてあった。
「本当に書いてある。何故だ?!レオはこの条件を受け入れたのか?!」
キラ王国は人類史上主義をとっている。エルフやドワーフを亜人と言って虐げている。レオの祖父は帝国からの亡命貴族だ。多少差別意識があっても仕方ないのか?
「いえ、レオは自分以外はすべて平等に見下す傾向があります。エルフだからと言って態度を変えることはありますまい」
クルエラ筆頭魔導師がフォロー?を入れてくる。そんな男に孫を取られていいのか?!
「ま、まぁ筆頭魔導師の言わんとする事は分かった。では、何故入っているのだ?」
ラクトニア宰相が言いにくそうに答える。
「ラクトニア家は本来、筋肉で物を考える癖がありして、我々の祖先が追放されたのも、戦闘力が皆無で役に立たないとされていたのに、色々と政治の批判をしたせいでして」
「つまり生粋のバカなのか?!要求も入れすぎてロクに確認もしなかったと」
「はい、エルフはキラ王国において高値で取引されております。とりあえず要求しとこうと書いた可能性はあります。それにそれぐらい抜けていないと、クロノア公国はすでになくなっているかと」
確かにラクトニア王国はクロノア公国の数倍の国力を常に維持し続けていた。それなのに、公国に二度の大敗をしている。
「そんな奴らに国力で勝てないとは此方も人の事は言えまい。とりあえず北の大砦にこの親書を送れ。せっかく敵から送られたチャンスだ。有効に活用してやろう」
数日後北の大砦にラクトニア王国とクロノア公国が開戦した知らせと例の親書が届けられる。