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第55話 ラクトニア王国

レオ達がレオ王国を夢みて浮かれている頃、ラクトニア王国では重大な決断が下されようとしていた。


☆★☆


「ラキよ。この報告書は信用できるのか?」


国王の執務室としてはあまりに質素な部屋でラクトニア国王は、宰相であるラキに問いかける。


「はっ、15年前に亡命と称して潜入させたスパイの一人です。公国の辺境の北の大砦とやらに飛ばされたので連絡は途絶えがちでしたが、たまに送られてくる報告書はいつも正確な物ばかりでしたので」


ラクトニア国王の手には報告者リュイによって書かれた報告書があった。


「北の砦の政変。これ自体は取るに足らぬ事だが、そこを支配したのが王国にまで名が知られている麒麟児レオとはな。しかも、その裏には魔力が多すぎて手に負えないと隔離された王子までいるとは、ゲーリック公国王はバカかもしれないのぅ。本来であれば力強い味方になる筈だった実の息子に翻弄されておる」


ラクトニア国王は実に愉快そうに語る。


「稀に見る愚挙でございます。それだけにつけいるチャンスです」


ラキ宰相は同意する。


「50年前の恨みを晴らすチャンスかの?毎年20000枚もの金貨を公国に払うのにも飽きたのぅ」


50年前に負けた戦争の賠償金として毎年金貨20000枚ずつ払い続けている。当初の条約では100年払い続ける事になっている。つまり外交的な成果がなければ後50年払い続けなければならないのだ。


「ラーダ外務卿は、公国に買収されております。公国との賠償に関する条約の改正は無理でしょう」


ラキ宰相は答える。しかも王国から毟り取った賠償金を使い、王国内の他の高官を買収している。


「他にも農務卿と文部卿もそうであったな。代わりがいれば更迭してやりたいがの」


クロノア公国は、王国において替えのきかない人物を的確に公国派に引き入れていた。


「その手腕が我々にもあればクロノア公国をすでに亡き者にできているのですが……」


「120年前に追放した我が一族の末裔か。ラクトニア王家の愚挙もクロノア公国に負けず劣らずか」


ラクトニア国王は自嘲気味にそう呟く。


「100年以上前の事に現在の王が責を感じる必要はありますまい」


「責を感じているわけではないがな。ただ誰かが下した歴史的な愚挙のツケは本人ではなく後々の者が払う事になるのだな。儂も気を付けねばのぅ」


「王がそのような過ちを犯す事などないでしょう。現在のラクトニア王国は人口も増え、かつてないほどの繁栄を享受しております。北部地域の鉱山開発、農地改革などで人々は豊かになりました」


「今日は随分持ち上げるではないか宰相。まぁ今回はクロノア公国にツケを払わせる番だからのぅ。ラキよ。軍務卿を呼んでくれ」


★☆★


「ブラウンよ、どう思う?」


すぐにやって来たブラウン軍務卿に報告書を簡単に読ませ意見を求める。ラキ宰相は王の横に控えている。


「事実だとすればチャンスです。この北の砦の者達と手を結ぶことができれば、公国は瓦解するでしょう。公国の兵力は4万。この北の砦に、2万程公国軍を引きつけて貰えれば、我々常備軍15万をもって一気に公都に攻め上がることができます」


意見を聞いて満足気に頷くラクトニア国王。


「力攻めでも勝てるが、北の砦の連中に独立して貰えばどうかのぅ。報告書にあったエルフ自治領と併せればかなりの領土になるのではないか?出来れば公国と北の砦が潰しあってくれるのが一番ありがたいのぅ」


「では、北の砦に親書を出した後に国境付近の兵を移動して緊張を高めましょう。北の砦の者達には、味方にみえるでしょうし、公国にとっては対応しないといけない事態です。北の砦に警戒用で残している兵もこちらに向けるでしょう。砦の連中にその気があれば兵を挙げるでしょう」


「キラ帝国には、万が一の時にはクロノアの港を封鎖して貰わないといけないのぅ」


公国を追い詰める手を一つ一つ確認していく。


「あと気になるのが、クロノア公国の宮廷魔導師の部隊です。麒麟児レオが開発したとされる混合魔法の使い手が多数いる場合こちらの被害は無視できないものになります。その辺りの情報もほしいのですが」


ブラウン軍務卿が懸念を口にする。ラキ宰相はバツが悪そうに、


「それが、約3年前に公都に潜ませていた部隊が壊滅してからロクな情報が入らなくなった。宮廷魔導師のようなガードの固い所は先ず無理じゃ」


ブラウン軍務卿はビックリした顔で


「公都に潜入していた部隊は100人を超える筈です。それが壊滅とは、公国側に悟られたのですか?」


疑問をぶつける。情報戦で後れを取る事は非常に危険だ。過去の公国との戦争でも情報が正確であればあれ程の惨敗にならなかったとブラウンは思っていた。


「セリスとか言う小娘一人にやられた。公国としての動きはなかったようだ。セリスとやらの欲しい情報を知らないと殺され、仇討ちしようとした者も返り討ちに会い、逃げ帰ったと思ったら後をつけられており、拠点自体がなくなってしまった」


「セリスとは何者ですか?」


「諜報部員は死神と呼んでおるよ。本来はただの宮廷魔導師だ。筆頭魔導師の孫のエリートじゃがな」


「筆頭魔導師の孫自身が暗部における活動を?!理由次第ではかなり危険な存在では?」


「理由はあきらかじゃ。その報告書にある麒麟児レオを捜していたのだ。麒麟児レオも王子と一緒に隔離されていたからの。我が国だけでなく、帝国、共和国、全ての国の公都で活動をしていた諜報部隊は壊滅しておる」


「危険な存在ですな」


公国の上層部しか知らない情報を他国の諜報部隊に聞きまくるとは常軌を逸している。


「危険には違いないが麒麟児レオが北の砦にいる場合は、北の砦に向かう可能性が高い」


そんな都合良く話が進むわけがない思いつつ口にはしない。


「私は、軍を国境付近へ移動させます。詳しい情報が入りましたらお知らせ下さい」


ブラウン軍務卿は今できる事をやろうと思い執務室を後にした。完全な情報などどの道期待できないのだから。


「では、私もクロノア公国に外務卿を通して国境付近で軍事演習を行う旨を伝えて来ます」


ラキ宰相も執務室を後にした。


北の大砦での出来事が世界を少しずつ動かし始める。

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