第45話 フォシーユ孤児院
「さてと気を取り直して、エマが言ってた孤児院に行ってみるか」
「急に元に戻りましたね」
余計な事を言うなレオ。門番達の視線が厳しい。怪しい人認定受ける直前だ。
「そういえば場所はどこだ?レオわかる?」
「自慢じゃありませんが地図も読めません。ということでアル君聞いて来てください」
「なんでだよ?!こう言う場合年長者の仕事だろ?」
「こう見えてもコミュニケーション能力ゼロなんです!めんどくさい事は周りにやって貰ってたんで!」
自慢気に言う事ではないが、確かに上から目線で基本喋ろうとするから人に物を尋ねるには向かないか。しょうがない自分でやるかと思っていると、いつの間にか離れていたメイが門番の方から戻ってきた。
「聞いて来た。この大通りを真っ直ぐいって最初の大きな交差する道を左だって」
メイが聞いて来てくれた。なんか申し訳ない。
「メイ、ありがとう」
アタマを撫でる。撫でた後頭を親しくない男子に撫でられるのは嫌だと言う前世の某雑誌に載っていた記憶を思い出す。一瞬撫でる手が止まったがメイは目を細めて嬉しそうにしていた。よかった〜。
「メイ、あれより役にたつ?」
と上目遣いで聞いて来たので更にアタマを撫でておいた。
レオの『あれ』扱いが止まらない。
仕方がないか……。
メイが聞いた通りに進むとすぐに分かった。明らかに学校っぽい建物があった。門の所にも『フォシーユの館』と書いてあるので間違いない。何故か校章にあたる部分が鎌なのが気にかかるが突っ込んだら負けだろう。校庭で男女問わず木の剣を振っているが体力作りの一環に違いない。
入口の所にも警備員の詰め所みたいなのがあり、やる気のなさそうなオッサンがタバコをふかしながらダラダラしていたので
「すみません。院長のセルバンさんにお会いできますか?」
聞いてみると、訝しそうに
「いま、セルバンって言った?誰からの紹介?」
「後宮メイドのエマです。手紙も預かってます」
セルバン宛の手紙を差し出す。受け取ると顔を真っ青にして、
「失礼しました!すぐに院長にお伝えしますので少々お待ちください!」
一目散に院長の所に走って行ってしまった。
エマって何者だ?あぁ死神か。などと考えて居ると先程の警備のオッさんがすごい勢いで戻ってきて応接室に通された。
しばらく待っていると
「お待たせしました。アルフレッド様。
私がフォシーユの館の院長セルバンでございます。エマ様からのお手紙を拝見致しました」
50代中程だろうか、いかにも孤児院をやってそうな穏やかな笑顔を浮かべた初老の男性が入ってきた。
「セルバンとは昔の呼び名でして、今ではエマ様ぐらいしかお呼びになりません。宜しければホープとお呼び下さい。今日の門番が古株で良かった。エマ様を一度門前払いにして……失礼話が逸れましたな」
なにをしたエマ?セルバンは昔の名前か。エマが死神時代からの知り合いかな?
「いえ、エマからセルバン殿を訪ねるように言われてましたので……失礼ホープ殿でしたね」
「はい、その方がこの街では通りがいいですので。それでご用件は手紙にあったそちらのエルフの姫君の事ですな?」
「はい、彼女の姉と共にエルフ自治領に帰してあげたいのです」
すると難しい顔をしてホープは答える。
「街の警備隊もエルフの姫君が攫われた事件の後、血眼になって奴隷商と言う奴隷商をシラミ潰しに探しておりましたからな。まだ見つかっていないと言う事は奴隷商ではないと言う事でしょう」
この辺りはエマが予想した事が当たっているようだ。この公国内の人間はエルフは攫わない。
「奴隷商を調べている最中での例の大脱走です。エルフ側が調査団を街に送り込もうとした矢先の事でしたので、かなりエルフ側から疑われたようですな。北と南にそして公都方面の西とほとんどの逃亡奴隷は捕まりました」
まさか逃亡してまで東の魔境に逃げるわけがないと……死ぬ可能性が高いのだから。
「東の逃げた中にメイがいたと。メイの姉……」
「マイ!マイ姉様!」
メイが姉の名を告げる
「姉のマイは見つかってないという事か」
「はい、逃亡奴隷の事件の後、門での検閲が強化され、歩きの者、荷馬車問わず行われましたので街の中にはいないと思われてます。エルフも魔境への捜索隊を計画してますから」
一縷の望みを託してか。ルイをエルフに返すだけでもエルフから感謝されるだろうし、エルフ自治領と北の大砦との最悪の状況は避けられる。メイの焦燥した顔を見ると言うのは憚られるが……
するとホープから提案をされる。
「ただ、警備隊も街の中で探してない所があります。ご一緒に探しませんか?」
「勿論構わないが、どこなんだ?」
「この街、北の大砦の実質的な支配者グラディウス家の屋敷です」
北の大砦に住む人達はエルフの姫達は亡くなった思い込んでいます。その為、メイが街中を歩いても咎められる事はありません。