第41話 逃亡奴隷
現場に到着してみると、ゴブリン達と逃亡奴隷達が壁を挟んで睨み合い状態だった。
「貴方達に危害を加える気はない。どうか保護して貰いたい!!」
逃亡奴隷のリーダーらしき男がゴブリンに訴えている。
インテリジェンスゴブリンは、見た目は人間に割と近いと言える。ただ2m前後越える体躯。明らかなゴブリン顏。どう見ても魔物なのだ。
その魔物に保護を求める。よほど切羽詰まっているか、気が触れているか。両方の可能性もある。
対応するゴブリンも困り顏だ。通常は排除対象だろう。私達に気を使って対応してくれてるのだ。私達がゴブリン達と交渉できたのは、長期間ゴブリン達が見張り続け、私達の力を知っていたのに他ならない。ゴブリンにとって人間は仇敵なのだから。躊躇すればゴブリン達自身が危ない。
「今、責任者を呼んでいる!暫くすればくるからそこで待つように!」
対応したゴブリンがそう言うと、
「言葉が通じた?!」
と逃亡奴隷達はざわめいている。知ってて言ったのではないのか?
「すまない、待たせたな。後は代わろう」
対応してくれていたゴブリンにそう言うとあからさまにホッとした顔になった。表情は分かり難いが三年も生活すると段々分かってくるものだ。そもそもこの畑を手伝ってくれているゴブリン達はみんな戦闘が苦手だ。兵士になれないゴブリン達なのだ。それでも人間より大分強いが。一日塩100gで雇っている。
自分やベルナルドが姿を現すとざわめきはさらに大きくなった。
「こんな所に人間が?!」
それはコッチのセリフだ!だが気持ちは分かる。
「ここの主のアルフレッドだ!君達の目的はなんだ?」
逃亡奴隷達に呼びかける。
「私はこのグループのリーダーのウィルだ。我々は言われもない罪で奴隷に落とされ北の大砦から逃げて来た。どうか我々を匿って貰いたい」
鑑定の力を使ってステータスの称号に暗殺者や死神がないのを確認する。
「我々は隔離された土地で暮らしている。君達を匿った所で君達の生活を保障することはできないぞ」
「それではどうかアルフレッド様が使役しているゴブリン達の代わりに我々をお使いください。苛酷な旅に耐えて来た者達です。きっとお役に立ちます」
ゴブリン達を使役?確かに使役している塩の力で。
正直な所、屋敷南の農場。ベル農場(エマ命名)と呼んでいるが土地は余りまくっている。500m四方つまり25haある。人間四人の食料を作るのにこの広さはいらない。合計で5ha程の畑や田んぼがあり。更にゴブリンの住み込み用に長屋を建てたがそれでも三分の一も活用できていない。
逃亡奴隷達の言葉を聞いてベルナルドがウキウキしているのが分かる。ベル農場の更なる発展を想像しているのだろう。
ベルナルドの土魔法と水魔法を使った農地改革魔法は効果が抜群で一年目から米や野菜が山ほど取れた。四人で食べても余るので、大半をゴブリンの街で買取りして貰っている。逃亡奴隷達が食べる分ぐらいは充分にあるのだ。
別に逃亡奴隷達を保護して生活を保障しても良いが当たり前として捉えられるのも癪だ。向こうから働かせてくれと言わせるぐらいは良いだろう。
「働くと言うなら、その対価に食糧と住処を提供しよう。壁の内側に入る時に武器は預からせてもらう」
「分かった。感謝する」
その後、ゴブリン達に炊き出しをして貰う。みんな美味しそうに食べてくれた。
飯の後は自慢の離宮温泉だ。
みんな感嘆の声を上げている。もっと誉めていいのだぞ。
レオが男のロマンですと言って覗きに行こうとしてたので、殴っておいた。初めて人を殴った。レオも初めて殴られたらしく「親父にも殴られた事ないのに!」と言っていた。お互い初体験同士か……言葉にするとなぜか落ち込んでしまう。需要はあるのだろうか?
その後ベル農場での労働条件はベルナルドとウィルで詰めてもらう。
離宮では部屋が足りない為ゴブリンの街に行き軍隊用テントを5つ借りる。塩10㎏掛かった。最近価格が上昇している気がする。ベル農場のお陰で対ゴブリンの街との収支は常に黒字だから問題ないが。
テントを借りて帰ってくるとウェルの顔は明るかった。満足が行く条件が結べたようだ。ベル農園の為に馬車馬の様に働いくれたまえ。
改めて逃亡奴隷をみる。ゴブリン達の手を借りてテントを立てている。男が8名、女が13名。女の方が多い。よく生き延びれたなと思いながら、さっき鑑定で気になった同じ年ぐらいの子供の女の子のステータスをもう一度見てみる。
メイ•レイモンド
HP700
MP1800
属性 土 風
称号 逃亡奴隷 エルフの姫君
エルフを初めて見たけど、耳がトンガっている以外はほとんど変わらない。
少し肌が褐色だが整った顔立ち。腰までありそうな銀髪をポニーテールにしている。さすがエルフ期待を裏切らない。
エルフの姫君か。事件の匂いがプンプンする。
そうやって見惚れてると彼女の方からやって来て頭を下げた。
「どうか北の大砦に囚われている姉を助けてください!!」