第29話 ゴブリン会議
「つまり南屋敷の者達は我々に敵対する気はないと」
ザイルの報告を他の街の主な者たちと聞く。
「はい、その証がこちらの5頭のキングバッファローです。キングバッファローの買取も希望しておりましたので軍の予算から買取いたしました。軍の備蓄庫に入れてあります」
謁見室に山と積まれたキングバッファロー。
「幾つか気になる点があるのだが、このキングバッファローは何もない空間から出したのだな」
ザイルに聞く。我々ゴブリンにもアイテムボックスの使い手はいるがこれだけの質量を入れれる使い手はいない。
「推測になりますが、いままで彼等が狩った魔物はすべて黒髪の子供が保管しているのではないでしょうか?」
かつてゴブリン村を訪れたクロノア様も髪が黒く、アイテムボックスには無限に物を入れる事ができたと聞いたことがある。クロノア様の子孫かもしれんな。
「そうすると彼等と取引が可能であれば、数百のキングバッファローと数千の角ウサギが手に入ると」
食糧問題は一気に解決する。そして北のブラックオークに戦力が集中する事ができる。もしかしたらブラックオークに対して一緒に戦ってもらえるかもしれない。
「彼等が交流を求めているなら断る理由はないのだが、一つ懸念がある。黒髪の子供は大丈夫なのか?魔物の虐殺を楽しんでいたとの報告を聞いているぞ」
そう忘れてはいけないのは人間にとって我々は魔物であるという事。今回の事が罠で街に入った瞬間豹変する可能性がある。
「5日後に前回のところで会う事にしております。その時に人となりを見られてはいかがでしょうか。私はしっかりした子供に見えましたが」
誰か適任者がいないかと周りを見渡す。みんな下を向き目を合わそうとしない。まぁ魔物を虐殺して楽しんでいる奴の所には誰も行きたくはあるまい。
一人山と積まれたキングバッファローを見て落ち着かない様子の者がいた。食糧長官だ。二日前在庫不足で相場の四倍で買い集めていたキングバッファローが山と積まれているのだ。すでに手付金として数百キロ塩を支払い済みかもしれない。言い訳を考えるのに忙しかろう。
「ではザイル。食糧長官とともに再度南屋敷の者達に会って話を付けて来てくれ」
急に指名されて狼狽える食糧長官。行けない言い訳を始めるが
「二日前の件は食糧長官の責において適正に処理してくれればいい。予算の返却は無用だ」
財務長官が一瞬睨んだ様な気もしたが他に行く者もいないだろう。
「かしこまりました。南屋敷の者たちと会って参ります」
行く事を了承する食糧長官。周りから安堵の溜息がもれた。
火中の栗は拾いたくないものです。