第27話 インテリジェンスゴブリン
「ゴブリンって意外とでかいんだな」
あまりの事態についていけず的外れな質問をしてしまう。
「坊ちゃんはご存知ないのでしたな。通常は1mぐらいの大きさですぞ。こやつらが異常ですな」
ベルナルドが答えてくれる。2mを超える体躯。筋肉を隆々と蓄えた体に魔物の革で作ったであろう鎧をすべてのゴブリンたちが身につけている。そして手には弓矢や槍などそれぞれの武器を持っている。
「やつら鉄を精製できるのか」
槍の先についているのは魔物の牙ではなく明らかに鉄を使った穂先だ。
「社会性だけじゃなく文明レベルも高いのか。それにこの一糸乱れぬ行動はまるで軍隊じゃないか」
三方向からの半包囲体制。北側正面に500前後、東と西にそれぞれ250程しっかりと隊列を組んでいる。
「それも精鋭、布陣の仕方も兵法に基づいたものですな。指揮官は優秀ですな。公国にスカウトしたいぐらいですぞ」
ガハハと豪快に笑うベルナルド
「そういえば気付くのが遅れたと言っていたがどういうことなんだ」
エマに尋ねる。
「私の探知魔法効果が半径約300mたまに少数の反応はありましたがそれ以上近づくことなく逃げるように離れていきましたので気にせず放置しておりました」
不覚を取りましたと悔しそうな顔をするエマ。魔物が集団行動をとることはままあるがほとんどの場合群れで押し寄せるだけだ。こんな軍隊を相手にするなど想定外もいい所だろう。
「ひょっとして最初からつけられていたのか」
ふと疑問を口にする。
「その可能性を否定することはできません。最近離宮周辺の魔物はかなり数を減らしておりますがそれでもここまで来るのに一度も戦闘にならないなどあり得ないことですから」
エマが答えてくれる。完璧にピクニック気分になっていた自分を恥じる。
「それにしても歓迎はどうみてもされてないな。言葉が通じるか分からないが呼びかけてみるか」
高い知能を持っているのは間違いない。言葉さえ通じれば意思の疎通を図ることもできるだろう。
「こちらから呼びかける必要はなさそうですな」
そう言って北正面を指差すベルナルド。軍勢の中からより一回りデカイゴブリンが姿を表した。彼が集団のリーダーに間違いないだろう。
「南の屋敷に住まう人間よ!何の目的があって北を目指す?これより先は我らインテリジェンスゴブリンの領域だ!引き返すなら追撃はしない!そうそうに立ち去られよ!!」
初代様との交流があったおかげか言葉は通じるようだ。
「自分達の目的は魔物の皮や肉などと塩との交換だ!貴方達をむやみに刺激する積もりはない!もし可能であればこの場で取引に応じてくれればすぐにでも引き返そう!」
相手が離れているので強化魔法で声帯を強化し呼びかけに応じる。すると周りのゴブリン達がざわめきだす。
「静まれい!!!」
リーダーのゴブリンが一喝すると再び静かになる。
「魔物素材の買取が希望というなら応じよう!ただ今回買取をした後は二度とこちらの方向にこないで頂きたい!」
ここで「はい」と言ってしまうのは簡単だがそれだとゴブリン村に行く機会を失ってしまう。ゴブリン村との継続した交流これが最終目的だ。
「今回は取引に応じて貰ったら引き返そう!私は貴方達との継続した交流を望む!これは私からの贈り物だ!貴方達の責任者にお渡し頂きたい!」
そういって無限倉庫からキングバッファローを五頭ほど取り出す。
なにもない空間からキングバッファローが現れまたゴブリン達がざわめきだす。
リーダーのゴブリンも唖然としている。
しばらくしてふと我に返り
「静まれぃ!!!」
再び一喝しゴブリン達を黙らせる。
「贈り物ということなら友好の証として受け取ろう!我々の長にもそちらの要望を伝えよう!返答は5日後この場所で!いかに!」
ただで物をもらって嫌がる人はいないだろう。いやゴブリンか。
「分かった!それでいい!あとこれが買取って貰いたい品だ!」
そういってもう一頭キングバッファローを出す。
「貴重なキングバッファローは岩塩150kgが相場だが今回は贈り物も頂いている!岩塩200kgで買い取ろう!」
正直相場がわからない。前世の記憶が邪魔をしてメチャクチャ安く買い叩かれてる気がするが、今回はあくまで塩が目的なので了承する。
リーダーのゴブリンから受け取った岩塩を無限倉庫にいれる。
「では、5日後に」
ゴブリンのリーダーはキングバッファローを兵士達に運ばせ足早に去って行った。5日後が楽しみだ。
「どうやら私が出るまでもなかったようですね」
そういってテントから出てくるレオ。なに言ってんだお前?!
レオはずっとテントの中で震えてました。