雨降りの午後に
雨はキライ。
大切な人との、別れを思い出すから……。
「ユキ、ごめんな……」
雨降る中、彼は別れを告げた。
私を狭い場所に押し込むように、けれど、その手は暖かく優しかった。
雨で濡れる彼の顔。
頬を伝う雫は、雨のもの? それとも……。
私はただ、悲しそうに彼の顔を見上げるだけだった。
灰色の空。
降りしきる雨。
私は彼との別れを悲しんだ。
たった一人にされてしまった。
いつかは、こうなると思っていた。
親に内緒で公園で会っていた。
彼が来てくれるだけで嬉しかった。
一緒に食べたおやつ、とっても美味しかったね。
今でも、その味が忘れられない……。
雨は一向に降り止まず。
私はぽつんと、ひとりぼっちで公園の隅っこに座っていた。
たまに見上げて空にお願いするけど、私の願いは届かなくて。
悲しくて、悲しくて。
先ほどの別れを……思い出して、思わず涙が零れた。
…………あれ?
雨が止んだみたいだった。
雫が落ちてこない。
あんなに煩かった雫が、ない?
ふと見上げるとそこには青い傘があった。
「こんなところで、一人か?」
ぶっきらぼうでちょっと怖そうな彼。
先ほど別れた彼よりも逞しいけれど、不器用な、その傘の優しさはどこか懐かしい気持ちさえした。
頷く代わりに、彼の瞳をじっと見つめる。
「雨、止まねぇな」
「……」
声にならなかったけれど、私の声は彼に届いたようだ。
「これ、食うか?」
差し出されたのは、駄菓子のカツ。
前の彼も、同じのをくれていた。
涙が零れそうになるのを堪えて、私は黙ってそれを貰った。
「いい、食いっぷりだな。小せえのに」
私の食いっぷりがいたく気に入ったのか、彼は初めて笑った。
その笑顔が優しくて。
「……さてっと、そろそろ行くか」
思わず、私は彼を見上げる。
もう、行ってしまうの?
言葉にはならなくて。ただ、静かに見上げていた。
「お前も一緒に来るか?」
その彼の言葉に嬉しそうに私は答えた。
「わんっ!」
土砂降りの雨。
キライだったのに、今は、スキかもしれない。
ちょっと怖そうだけど、笑顔がステキなご主人様に……会えたから。