多数対一(書き直し)
彼女が、身長ほどの無骨な鉄剣を片手で振るうと、疎ましい血なまぐさが払われた。
それは戦いの火蓋が切られた事と同義である。
幾百の人間とも似つかない『それら』は中心――彼女に向かって、跳ぶ。
「バカね……」
少女は剣先を斜め下に向けて、重心を落とす。赤の両眼はまるで視線だけで殺すほどに、強く『それら』を見据えた。
錆び付いた柄を掴む白い指先に力が入り、紅く染まる。
そして、彼女の膝が曲がり――――地面がへこむ。
それは、凡人同様のただ踏切り。
矢のような速度で少女は、瞬間的に、『それ』眼前に到達。ザザザ、と美しい装飾がなされた右靴がブレーキをかけ、渇き切った大地から砂煙が上がる。
少女は赤い目を剥き、歯を食いしばる。
「――――ッ!!」
空気を裂く音。
少女の腕により逆袈裟に振るわれた剣が飛び上がった一体に衝突する。そして、腰部から胸部にかけて切断。
分断された二つの肉塊が宙に舞う中、人型の影に陰る。
だが、少女は予想していたかのように、慣性で移動している剣に力を加える。剣先が縦に弧を描き、後ろから飛び掛かる『それ』を上下に両断した。勢いが止まらない剣は地面を砕く。
少女は片手を柄から放し、取り囲む『それら』を一瞥した。
暗闇に蠢く同一の影。
「雑魚共……め」
そして、少女は再び、駆ける。
少女に追従する無骨な剣は分厚く、彼女の上背ほどに巨大だ。それに反し、剣を小枝のように振るう彼女の腕は不気味なほど白く、年相応に細い。
大剣の一振りに、大量の血が闇夜に舞い踊る。
しかし、『それら』は臆することはない。仲間が何十と死のうが関係しないのだ。
『それら』の恐怖という感情は、対象を殺すという絶対的な命令に上書きされており、存在しない。言うならば、『それら』はただの殺人道具に成り下がった生物だ。
――――銀色の直線が肉を断ち、『それら』を構成する一つが欠ける。
地震は怖いですね。