能力者モノpart4
「コレ、ヤバくない?」
◇◇の緊張感が抜けた声に誘われ、○○は恐れる恐れる顔を上げた。
唇が触れ合う距離に◇◇の顔。
「うおっ!!」
ドカッと堅い地面に尻餅をついた。尾骨に鈍い痛みが響く。
「うおっじゃないよ。仕方ないな、ほら」
一方の◇◇は大して驚いた様子もなく、小さな手を○○に差し延べる。
◇◇の手を握り、立ち上がった○○の視界には土煙に巻かれた人影と、疎らに凸凹と穴が開く能力者演習場が広がっていた。
「多分、だけどね」
◇◇が、先程とは違う真剣な音色で口火を切った。彼女の目には、いつものふざけた様子は見られない。
「XY平面に下から『何か』を加えたんだよ。まぁ、アレの能力が何なのか分からないから、確証はないけど」
「恐らく、多量の空気をコンクリートの下に無理矢理、入れたんだと思うぞ」
「アレって、空間系?」
◇◇は矢継ぎ早に○○へ言葉を返す。
「ああ。しかも、水と熱の複合型」
◇◇はゆっくりと済まなそうに見上げる。
「…………逃げていい?」
こっちの方がとっとと逃げたい。複合型の能力暴走者の相手なんて、国軍か企業軍がやればいいのだ。一介の能力開発学科の生徒が立ち向かうものではない。
しかし、
「ダメ」
「マジですか?」
「風紀委員の誇りはないのか? 鋼の脚戟(Crushing)」
「ないね!! 黒の放火魔(flame dark)さん」
薄い胸を張る◇◇。
「空間系のくせに言い切るなよ。ったく」
はぁ~と、○○は溜め息を吐く。しかし、それに反して、○○の顔は少し笑っていた。
仲間がいるだけで、こんなにも心強いとは思ってもみなかったのだ。
「さて、やるか」
グッと拳を握り、前を向く。
それに呼応したかのように、唐突に突風。
視野の一部に掛かっていた土の靄が払われ、□□の姿がはっきりと映し出される。
「あたしは右回りで近付いて、蹴りを入れるから。○○君は左回りね」
ニコッと意味あり気な笑みに◇◇の顔が変わった。
「俺は拳で語り合う気ないからさ。近付いても仕方ないぞ」
「まぁ~囮だよ。あっ、気付いたみたいだよ。じゃあ、ヨロシクッ!!」
コンクリートの地面砕き、斜め上へ飛ぶ。
「えっ?」
囮。
その言葉の余韻を感じながら、ゆっくりと□□に視軸を合わせた。□□の視線が、○○を確実に捉えている。
「…………ヤバッ」
「fこ0..ろjtjwすtこjwろm」
□□が下から上へ腕を振るう。
「――――ッ!!」
モグラが土の中を這うように、衝撃波が○○に向かう。進行を邪魔するコンクリートが紙のように撥ね除けられる。
咄嗟に左へ跳び、彼の背後で黒土が舞い上がった。
「逃げてッ!!」
◇◇の声に答えず、地面を蹴り上げ、走る。
恐らく、コンクリートに熱した水を瞬間移動させて、裂いたのだ。いや、裂いたというよりも、連続的な水蒸気爆発により爆破した方が正しい。
□□が腕を振るう度、○○の背後で破壊音が連続的に炸裂する。掘り返された土が雨のように降り注いでいる。
咄嗟に○○は右に顔を向け、◇◇の位置を確認。
現在、◇◇は□□の猛攻を左右に避けつつ、進行中。
なら、
「◇◇!! 当たるなよッ!!」
「分かった!!」
返事を貰い、右手に炎を溜める。
酸素を消費し、膨れ上がった黒炎は球状に変形。
そして、直線的に放たれる。
炎球は黒い軌跡を描きながら、衝―――――一瞬にして、かき消される。
□□の眼前で、水蒸気爆発の衝撃波により消滅させられたのだ。
そのうえ、衝撃波の勢いは死なずに、コンクリートを裂きながら○○に向かう。
「あぶなッ!!」
力の反作用に身体が一瞬、固まるが、寸でのところで飛び退ける。
――――隙が出来た。
「流石ッ!!」
鋼の脚戟(Crushing)が宿る『右足』で、一段と強く踏み込む。
それだけで、コンクリートが蜘蛛の巣状に割れ、◇◇が弾丸のように飛ぶ。
条件反射のような速度で□□は腕を袈裟に振るい、応戦。
だが、遅かった。
腕が上がりきる直前。
◇◇が車一つ分前に着地し、拳を振り上げ地面を蹴る。
そして、コマ送りのように吹き飛ぶ。
◇◇が。
凄まじい速度で吹き飛んだ◇◇は、コンクリートの上でツーバウンドし、何とか受け身をとって立ち上がった。制服は擦り切れているが、彼女の身体には傷一つない。流石、空間系でも更に希少である肉体強化系。
◇◇は顔を上げる。
「……幾らなんでも、馬鹿げてるね。水系能力も強化されてるなんて」
水のカーテン。
厚い水の防護膜が□□を守るように張られているのが映っていた。
これでは、近接しても水蒸気爆発によりふりだしに戻ってしまう。
しかも、○○には更に不利な状況だ。
「攻撃が通らない……」
彼の力は光に対しては絶対的な優位を誇るが、水に対しては普遍的な炎。彼の炎には、全てを蒸発させるような熱量もない。
しかも、あの常人では有り得ない反応速度。
「……どうするんだよ」
自分の爪先を見つめるように俯いた。
○○には名案はない。
ただ、光を食らう黒い炎を『直線的』――――ん?
○○は顔を上げる。
「なんで、地面を這う必要があったんだ?」
□□の能力は、空間系の瞬間移動がある。なら、一々、直線的な攻撃よりも座標を狙い撃ちした方が簡単なはずだ。
「もしかして……」
それに賭けるしかなかった。こんな絶望的な状況で他に戦略などないのだ。
無意識に赤い炎が灯る。
「どうするの!?」
○○の炎に気付いた◇◇は声を上げた。
「一跳びで、アイツに近付くことは出来るか!?」
「無理!!」
「じゃあ、俺の攻撃と同時にフルスピードで近付いてくれ!!」
○○は右手を前――□□へと向ける。黒い火種が発生し、赤い炎を吸収。
――――最大級を放て。
黒き炎がその身を増大させながら揺らめく。
突然、パシャ、と水のカーテンが崩れ落ち、
「やmはなtmjはdjgadわmなtmか?」
○○の右腕を包み込むように膨れ上がった黒い炎を見て、□□がなんだアレは? と言わんばかりに首を傾げる。
しかし、□□には関係なかった。ただ、彼は破壊衝動のおもむくままに能力を発動すればいいのだ。
ぶらん、と両手を重力に従わせる。
――――更に炎は燃え盛る。
「◇◇!!」
「準備オッケ~だよ」
手首、足首を回す◇◇。
黒い炎に染まりきった右腕を支えるように左腕を添える。
「ちゃんと広がれよ。炎」
「kわlや@はw/mnゆかさdeやは:DらさN」
スタートの合図。
□□の両手が振り上げられる。
ピキィ、と□□の足元が遅れてヒビが走った。続け様に、コンクリートがぷっくりと膨れ上がり、破裂。そして、連なる破裂は全てを飲み込む巨大な波になり、押し寄せる。
「終わらせてやる」
増大した黒炎が発射される。宙に漂う酸素、光を食らいながら。
そして、◇◇は前へ。
能力者part5(最終)へ続きます。