能力者モノpart3
氷塊が○○の頭上に、前触れもなく現れた。
○○は目を剥く。
「――――ッ!!」
咄嗟に地面を蹴り、頭蓋を潰す威力を有した氷塊を避ける。
が、再び頭上に新しい氷塊。
それも右に跳び、ギリギリで避ける。バコンッ!!と凄まじい音を上げて、コンクリート諸共氷塊は砕けた。
――――キリがない。
手の平で水系と熱系により作り出した氷塊を、空間系の瞬間移動で頭上に持ってくる。
□□の武器は水。
弾切れは無し。
しかも、彼の炎は、光を焼くことはできるが、水や氷に対しては何ら普通の炎と変わりがない。
絶対的な不利。
「くっそッ!!」
もう一度、巨大な氷塊を避け、右手を広げる。周りの酸素を消費し、黒の炎球を創造。
再び天から落ちる氷塊を左に跳び避け、右腕をサイドスロー気味に振るう。炎球は黒い直線になり、左目を押さえる男――□□に衝突。
しない。
水のベールを羽織った右手で、黒い炎は砕かれる。
手に纏わりついていた水が炎に焼かれ、急激に蒸気と化した。
好機だ。
やけくそに放った一撃だったが、一瞬隙が出来た。
○○は足を強く踏み込み、前へ。至近距離なら、黒炎を直接当てられる。光を焼く火炎が右手を覆うが、
「!!」
刹那、ゾゾゾッと不気味な感覚に襲われた。
足が途端に止まり、右手の炎が終息する。
――――次の瞬間だった。
□□を包んでいたはずの水蒸気のカーテンが―――――破裂する。
風を切る音ともに、ピッと○○の頬に赤い線が走った。
「…………?」
頬に手を当てることで血液を確認し、○○は視軸を前に向けた。
そこには、左目を押さえたままの□□『しか』いない。
それはおかしい。
複合型の能力者は複合が故に畏怖の対象なのだ。一種の能力系統に関したら、単色の能力者の方が抜きんでている。
では、どのようにして、水蒸気を吹き飛ばしたのだ? しかも、表皮を切り裂くほどの威力で。
○○は周囲を見回す。
見渡すばかりのコンクリートの大地。
彼が探しているのは熱系能力者。
無論、太陽光で蒸発させるように熱系能力者が、遠距離からの比熱変化技巧を行なった可能性があるからだ。そうなったら、一ヵ所に止まっているのは危ない。
しかし、その予測は外れた。
コンクリートには、ギターピックほどの雹が転がっていた。一つや二つではない。豆撒きをした後のように無数に存在していた。水分の熱を奪い固体に変化させた後、『何らか』の力を加えて吹き飛ばしたのだ。いや、そもそも比熱変化の技巧は殆どが範囲指定型だ。水蒸気のみを選択できる訳もない。
咄嗟に□□へ視線を戻す。
そこには、ボォーと突っ立っている□□。左腕はブランッと重力に従っており、押さえられていた左目が赤く変色していた。
全体的な雰囲気は薬物中毒患者と勘違いしてしまうほど。
○○の脳裏に嫌な文字が走る。
その文字とは――暴走(Awaking)。
過度の能力使用により、空間処理、熱量処理、風圧処理など様々な処理が、脳のキャパシティー限界以上に発生し、起こる現象だ。プラスの効果として、能力発動までのプロセスを全て無視し、馬鹿げた能力値を示す。
一度、暴走を目の当たりにしている○○から見ても、□□の状態傾向は暴走者に似通っていた。
「………マジかよ」
後退りを始める。
暴走状態の能力者相手に一人で勝てる訳がないのだ。
突然、□□が大きくと跳ねると、首だけを動かして○○に眼の焦点が当てた。しかし、その眼光は死んでいた。
「ふ、tmtやはjわ※………」
言葉。
震動。
爆音――――○○に向かって一直線。
ドドドドドドドドド!!、と神様が地球の皮を剥くように、コンクリートが捲り上がる。他に喩えるなら、海岸に押し寄せる灰色の高波。
「はは、嘘だよな……」
コンクリート製の波は空中で無数に千切れ、一つ一つが巨大な砲弾に変化。重力と慣性の合力により、斜めに落下する。
或る一つが○○の頭上飛び越え、コンクリートに衝突。
ゴバッ!! と地雷が弾けたように、大量の黒土が宙へ撒き散らされる。
「はは……」
そして、○○の視界も板状の黒い影に覆われる。
だが、
「とりゃあぁぁぁ!!」
高めの可愛いらしい怒号とともに、――――黒い『少女』の影が空を飛ぶ。
影はコンクリートの塊に、ライダーキックさながらの蹴りを食らわせる。
普通であったら砕けない。
だが、重力と硬度を無視した飛び蹴りは、瓦割りのようにコンクリートの塊を砕いた。
砕かれたことにより小粒に変わった塊は、地面を叩く。
「――――増えてるっつーの!!」
小粒とはいえ人を殺す力は有するのだ。
○○は巨大な塊が飛んでこないことを祈りながら、頭を抱え込んでしゃがむ。
そんな目を瞑っている最中、軽い着地音が前方から。
続け様に、
「◇◇参上ッ!!」
と、アニメ声。
part4に続きます。