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一対一?

彼女・相手の心を少し読める。


○○・敵。


アイツ・仲間。


剣撃が幾重にも重なる。

右斜め下からの切り上げは音速の抜刀術により僅かに逸され、横に引かれた白銀の閃光は、赤錆が点在する巨大な刀身に受け止められる。

全てを飲み込む炎の波は、全てに吹き付ける烈風により散り、高密度空気のハンマーは瞬時に生み出した爆風により、空気に戻った。

破壊の余波は聖堂内の白い石畳を爆発的に空中に散布させ、木製の横長イスは、爆炎を纏い、存在価値を消した。

○○の右腕が残像を残して、消える。

彼女は○○に漂う心の片鱗を読み取り、頭身ほどの大剣を苦にした様子も無く、その刀身を左半身を守るように置き、一手先の攻撃を防ぐ。

ガキンッ!! と凄まじい金属音が聖堂に響き渡るが、間を開けず音の波に飲まれた。

音は彼女達を中心に偏る。

破壊の均衡は保たれる。

月光に栄える得物は全てを切り裂く。

力は互いを押し合い、釣り合っていた。

○○は、巨木を容易に砕く逆袈裟斬りを半身にして避ける。 大剣の頂点が、続けざまに直線を上から下に作るが、○○は地面を蹴り、数mの間合いを発生させた。

初めて出来た間合い。

彼女らにとっては所詮、数mの距離。 間合いとは呼べない距離。

○○はクルンッと刀を逆手に持替え、納刀する。

「……………」

○○の腰に携える鞘が怪しく赤き閃光を放ち、彼の右腕がゆっくり振られる。

遅い銀色の閃光は、ボウッ!!と空気を吸い込み、風で構成された巨人の腕に変化。 それは半円の軌跡を描き、白亜の壁を灰塵を巻き上げながらぶち抜き、聖堂内の石畳を紙幣が風に飛ばされるのようにめくりあげ、横長イスをグシャと押し潰し、彼女を殺さんと威を放つ。

彼女は分かっていた。

この一撃が来るのを。

自己最高の一撃を使い、聖堂内を破壊し尽くそうと○○の心は吠えていた。

彼にさえ、どうなるか分からない一撃。

彼女は強く柄を握る。

避けらるほどその一撃は甘くない。

刀身に左手をあてがい、腰を落とす。

巨人の腕が刀身にぶつかり、


風で構成した腕は彼女をゴミのように吹き飛ばした。


彼女の身体は壁に直線的に衝突。 白亜の壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、陶器を落したように砕ける。 遅れて、宙を滑空していた大剣が、大海の孤島のように残る石畳にぶつかり、ガキンッと聖堂内に音を響かせた。

「…………は……あ……」

だが、彼女にはそれを認識出来ない。 頭がクラクラして、吐き気がするのに息がうまく吸えない。 音が耳の中で反響して良く聞こえない。 焦点が揺らぐ。 唯一、認識出来たのは口に鉄の味が広がるぐらいだった。

「心を読めても、俺自身が威力分からなきゃ、意味ないのか。 しっかし、すげー威力だな。これ。 次から必殺技候補だな」

○○は鞘に刀を納刀し、周りの惨状を一瞥しながら言った。

彼女は鈍る五感を多少取り戻し、壁に寄り掛かりながら、立つ。 足が彼女の知らない恐怖以外の何かでガクガクと震えていた。

「あっ? 生きてるのか、じゃあ、死んだ方がいいな」

納めたはずの凶刃が光を取り戻す。

彼女は、己に問い掛ける。

自分は死んでしまうのか?

だが、仕方ない、と彼女は即座に心の中で吐き捨てる。

殺し過ぎたのだ。 人を殺して、住民を救ったから聖女。 救った数のほうが多いだけだから、英雄。

どれもこれも、周りが無責任なのだ。

しかも、尊敬までする。

無邪気な子供達からの、青春を送る同年代からの、社会の色に染まる年上者からの、羨望の目が彼女にとってたまらなく嫌だった。

人を殺しといて、何が聖女だ。 聖女なんて欲しくない。 もっと普通の少女が良かった、と彼女は思う。

結局、


私からしたら、手を繋ぐ事が夢。


彼女は唇を噛み締める。

「あ? 生きたいのか? そんなの無理だろ? 人が人を殺した時点で、そいつは人じゃねぇ。 悪魔だ」

「……分かって……る」

「聖女様=悪魔か。 笑いものだな。 聖女信仰者は悪魔信仰者だとはなぁ。 しかも、生きたいときた」

ゆらり、ともう一つの悪魔が揺れる。

「分かってる!! だけど」

死にたくない!! と少女の声が聖堂に響く。

夢を果たしたいという強い思いを少女は改めて実感する。

「人を殺しといて、生に懇願するとは、お前、俺より腐ってるな」

では、と○○は言い、くの字になった彼女の得物を拾い上げ、投げる。

放物線を描き、大剣は彼女の前で数回、バウンドした。

「死にたくないなら、俺を殺せ。 悪魔様よ」

○○は下卑な笑みを浮かべる。

「…………」

少女は軋む身体を持ち上げ、赤錆が点在する身長ほどの大剣を強く握り直す。

合図は無かった。

彼女の曇った視界には、○○が消えたように見えた。

次の瞬間には、一歩前に○○。

彼女は咄嗟に力を横に振るう。

しかし、そこには血が無い。

巨大な刀身を天にし、○○は屈んだ。 そして、そのまま、左手の平を鞘、瞬殺の居合いの態勢を取る。

そして、○○の右腕がブレた。

月光が切り裂かれ、


銀色の閃光は振るわれない。

彼女の眼前で、高密の爆炎とともに黒い影が消えたようにも思えた。

○○はノーバウンドで聖堂の壁に衝突。 衝突地点から様々な破片を振り撒く。

「はぁ、死んでねぇーよ」

彼女にとって聞き覚えのある声だった。

いつも自分を小馬鹿にするあの声だ。

どうしようもない、ヘタレのアイツだ。

それで…………

「だからさ、早く続きやるんだろ? 聖女様」



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