学院編⑤
魔法科 教室
半円状に配置された机。
壁には属性図と魔力循環の模式図。
その中心で――
「ねえねえ!」
「入学試験の氷魔法どうやってやったの!?」
「家庭教師とかついてたの!?」
ノエルはすでに囲まれていた。
少し照れながら手を振る。
「いやー、私、山間の村育ちで独学なんだぁ」
一瞬、沈黙。
「え!?」
「独学!?」
「すごい!」
ざわっと空気が変わる。
「無詠唱であれって普通じゃないよ!」
「詠唱省略なんて上級者向けだよ?」
ノエルは首をかしげる。
「え、そうなの?」
本当に知らない。
アルマに振り回され、レオナと特訓して自分なりに繰り返してきただけ。
「なんか、冷やすっていうより……こう、ぎゅっと掴む感じで」
説明は感覚的だ。
だが、周囲は真剣に聞いている。
少しずつ、中心に立ち始めていた。
***
治療科 教室
こちらは静かだった。
白衣の教師が黒板に術式を書いている。
「回復とは再生ではない。身体の自然治癒力を適切に導くことだ」
静かな声。
レオナは真剣にノートを取る。
術式の構造・魔力の流れ・出力の調整。
余白に、自分なりの補足も書き込む。
(過不足なく)
それが基準。
電気の応用についても触れられる。
「微弱電流は神経伝達を助ける。乱用は禁物だが、制御できれば支援として優秀だ」
レオナのペンが一瞬止まり、また動く。
教師がちらりと見る。
「君、試験で電気も使ったな」
「はい」
「制御が安定していた。続けなさい」
短い評価、レオナは静かに頭を下げる。
***
剣士科 訓練場
砂の匂い。
金属のぶつかる音。
圧倒的に男が多いようだ。
アルマは周囲を見回す。
(男ばっかだなー)
そりゃそうだ、と内心で思う。
大剣を担ぎながら、ぼんやりと空を見る。
(早く昼休みにならねーかなー)
その時、ひそひそ声。
「おい、あの子だよな? 魔法人形壊したの」
「子供みたいな見た目してんのにすげぇパワーだ……」
アルマの耳がぴくりと動く。
「子供じゃねーぞ!」
即反応すると周囲が一瞬静まる。
アルマは腕を組み、胸を張る。
「ドワーフだ!」
声は堂々としている。
ざわざわ。
「ドワーフか……」
「だからあの力か」
妙な納得が広がり、アルマは鼻を鳴らす。
「見た目で判断すんな!」
「はは、悪い悪い」
大柄な男子が苦笑する。
「けどよ、あの一撃はマジでやばかった」
「うん、正直ビビった」
アルマは少しだけ頬を掻く。
「……だろ?」
誇らしげにしていると教官の声が響く。
「整列!」
全員が並ぶ。
「ここは剣士科だ。力だけでも、技だけでも足りん」
視線がアルマに一瞬向く。
「両方を磨け」
アルマはにやりと笑う。
(望むところだ)
昼になれば、二人と合流できる。
それまでは、ここで自分の立ち位置を作る。
学院生活は、始まったばかりだった。
~~~~~~~~~~~~
学院の鐘が鳴り、昼休み。
中庭には学生たちが集まり、それぞれの科の話題で盛り上がっている。
アルマが訓練場から出てきた。
肩に木剣を担ぎ、額にはうっすら汗。
「アルマ!」
ノエルが手を振る。
「こっち!」
レオナも木陰から歩み寄る。
銀の髪が陽に透ける。
「剣士科はいかがですか?」
落ち着いた声。
アルマは鼻を鳴らす。
「汗臭い!」
そして豪快に笑う。
「ぎゃははは!」
周囲の学生が少し振り向く。
ノエルがくすくす笑う。
「率直すぎるよ」
アルマは木陰にどかっと座る。
「でも、面白そうだよ」
少し真面目な声。
「力だけじゃなくてさ!」
拳を握る。
「踏み込みとか、間合いとか、体の使い方とか」
思い出す。
軽やかな動き。
無駄のない斬撃。
「俺、力だけなら負けねぇけど」
少し悔しそうに笑う。
「速さはまだ全然だな」
レオナが頷く。
「技術は積み重ねです」
ノエルが身を乗り出す。
「でもさ! あの大剣また使うの?」
「使う!」
即答。
「でっかい方が楽しい!」
「楽しいで選んでるでしょ」
「大事だろ?」
ノエルは笑う。
「魔法科もね、なんかすごいよ。属性ごとに派閥みたいなのあるし」
「派閥?」
「炎派がうるさい」
「想像つくなぁ」
レオナが小さく微笑む。
「治療科は静かです」
「静かすぎるんじゃねーの?」
「集中できる環境です」
その言葉に、アルマは満足げに頷く。
三人で並んで昼食を広げる。
王都のパンは村より少し硬い。
中庭の木々が風に揺れる。
学院生活の最初の昼休み。
それぞれの場所で新しい世界が広がっている。
けれど集まる場所は、同じだった。




