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学院編③

魔法科 実技会場


半円状に並んだ魔法人形。

受験生たちは順番に前へ出て、詠唱を行い、炎や風を放っている。


「次」


呼ばれたノエルは、喉が少しだけ鳴った。


(落ち着いて……)


手のひらを前に出す。


「えい!」


短い声、詠唱はない。


次の瞬間――

空気が凍る。

魔法人形の頭部が一瞬で白く染まり、氷が分厚く覆った。


ぱき…ぱき…と霜が広がる。

周囲がざわつく。


「え……?」


ノエルが自分の手を見る。


「なんか違った……?」


検査員が数値を確認し、ゆっくりと告げる。


「無詠唱でこれほどの出力は非常に高い」


はっきりとした評価。

ノエルの顔がぱっと明るくなる。


「やった!!」


背後で小声が飛ぶ。


「詠唱なしもそうだけど……」


「普通、氷魔法って槍とか作って飛ばすのが基本じゃないの……?」


確かに、他の受験生は氷槍や氷弾を形成して放っていた。

ノエルの魔法は、生成というより――

その場の温度を一気に奪うような凍り方。


氷の質も厚い。

検査員は特に騒がず淡々と記録をつける。


「制御はやや粗いが、将来性は高い」


ノエルは胸を押さえ、ほっと息を吐いた。


(よかった……)


緊張で指先が少し震えているが、目はもう前を向いている。


***


治療科 実技会場


こちらは静かだった。

破壊ではなく、回復を測る場所。

魔法人形には切創や打撲の擬似損傷が刻まれている。


「次」


レオナが前に出る。

目を閉じ、ゆっくりと息を整える。


(焦らない)


魔力を掌に集める。

ぱち、と微かな紫電が走る。


派手ではない。

鋭くもない。

細く、柔らかい。


その電流が傷口へ触れた瞬間――


裂け目が静かに閉じていく。

光が過不足なく流れる。

余計な増幅も、過剰な出力もない。


検査員が頷く。


「回復の過不足なし。素晴らしい」


記録用紙に書き込みながら続ける。


「電気も扱えるなら、支援系としての適性は高いな」


レオナは軽く頭を下げる。


「ありがとうございます」


感情を大きく表に出さない。

だが、胸の奥に小さな安堵が灯る。

彼女の魔力は突出していないが揺らぎがない。


それが治療科では、何より重要だった。


***


それぞれの会場で、三人は自分の役割を果たしていた。


重さで叩き潰す者・冷気で凍らせる者・静かに癒す者。

まだ合否は出ていない。


三人とも、確かに学院の空気に足跡を残していた。

夕暮れの学院前。


受験生たちがそれぞれの会場から戻ってくる。

アルマは剣士科の建物から飛び出してきた。


「あ、いた!」


手をぶんぶん振る。


「二人とも! どうだった!?」


ノエルはまだ少し頬が紅潮している。


「えへへ……うまくいったと思う!」


「おお!? どんな感じだ!?」


「人形の頭、凍った!」


魔法をよく知らないが凍ったということで、アルマが目を丸くする。


「すっげーな!!」


ノエルは少し照れながら肩をすくめる。


「なんかね、ちょっと周りがざわざわしてたけど……」


「そりゃざわつく!」


アルマは豪快に笑う。


「レオナは!?」


レオナはいつも通り落ち着いている。


「過不足なく終えました」


「過不足なくってなんだよ!」


「必要な分だけ、ということです」


アルマは満足そうに頷いた。


「いいじゃん!」


少し間を置いて、レオナが続ける。


「合格発表は明日です。焦らず待ちましょう」


現実的な言葉。今日はまだ結果が出ていない。

ノエルが空を見上げる。


「なんか、あっという間だったね」


アルマは腕を組む。


「手応えはある」


「自信満々だね」


「当たり前だ!」


けれどその足は、ほんの少しだけ落ち着かない。

レオナは気づいている。

だが何も言わなず、自然と三人で並んで歩き出す。


王都の夕焼けが石畳を染める。

合格しても、不合格でも。


ダメでだったとしてもチャンスはいくらでもある。

それでも――


明日の掲示板に、自分たちの名前が並んでいることを、心のどこかで願っている。

アルマは小さく拳を握った。


「……三人でだ」


ノエルが笑う。


「三人で」


レオナも頷く。


「はい。三人で」


学院の門が静かに閉じる。

夜が、ゆっくりと降りていった。

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