学院編②
学院の中庭には、受験生が列をなしていた。
中央に置かれているのは、大人の胸ほどもある透明な水晶。
魔力量と出力を測定するためのものだ。
ざわざわと緊張が広がる中――
「次」
呼ばれたのはアルマだった。
「よし!」
迷いなく前に出て両手を水晶に当てた。
一瞬の沈黙。
そして――
ぼやー……
ほんのり、頼りなく光った。
「うおっ! 光った!?」
アルマが素で驚く。
検査員が淡々と数値を読み上げる。
「……魔力量10」
周囲が少しざわつく。
アルマが振り向く。
「それって凄いの……?」
検査員は言葉を選ぶ。
「大変申し上げにくいですが……最低レベルです」
つまり、最低基準。
アルマは数秒固まり――
「ぎゃははははは!」
腹を抱えて笑った。
「だよな!! 知ってた!! 俺、剣士科志望だし大丈夫!」
胸を張る。
周囲の受験生がぽかんとする。
落ち込むでもなく、取り繕うでもなく、ただ笑っている。
レオナが小さく息を吐く。
(予想通りですね)
ノエルが前に出る。
「次、お願いします!」
水晶に触れた瞬間――
ぱあっと強い光が広がる。
はっきりと、力強く。
検査員の声が少し上ずる。
「魔力量85」
周囲がどよめく。
「平均は40から50です」
補足が入る。
ノエルが目を丸くする。
「え、そんなに?」
アルマが飛びつく。
「ノエルすっげーな!!」
背中をばんばん叩く。
「い、いたい!」
ノエルは照れくさそうに笑う。
「でも出力安定してないからなあ……」
最後に、レオナ。
静かに水晶へ手を置く。
光は穏やかだが、安定している。
「魔力量55」
平均よりやや上。
派手ではないが、揺らぎがない。
検査員がちらりと記録を見る。
「制御精度が高いですね」
レオナは軽く頭を下げる。
アルマが腕を組む。
「おお、いい感じじゃん!」
ノエルがにこっと笑う。
「バランスいいね、私たち!」
アルマが胸を張る。
「俺は魔力なくても前に立つ!」
ノエルが即座に続く。
「私が後ろから撃つ!」
レオナが静かに締める。
「支えます」
三人の並びは、王都でも変わらない。
周囲の受験生がちらちらと視線を向ける。
魔力量10のドワーフ、85の少女魔法使い、安定55の治療志望。
アンバランスに見えて、どこか整っている。
検査員が次の試験項目を告げる。
「次は実技です」
アルマは拳を握る。
「よし、ここからだな」
笑顔は消えていない。
けれどその目は、もう村の少女のものではなかった。
ノエルが軽く手を振る。
「私たちはあっちで実技してくるから、頑張ってね」
魔法科の会場は別棟だ。
アルマは親指を立てる。
「そっちもな!」
レオナも小さく頷き、治療科の方へ向かった。
一人になったアルマは、剣士科の実技場へ向かう。
石畳の広い訓練場、周囲には教官と受験生。
中央には硬質の訓練用人形が並んでいる。
「貸出武器を使用。好きな武器で数発攻撃。力の入れ具合、動き、鋭さを確認する」
簡潔な説明を受け、アルマは周囲を見回す。
受験生たちは次々と前に出ていく。
細身の剣。
槍。
片手剣と盾。
他の受験生たちは動きが速く踏み込みが軽い。
「ほぇ~……すげーなぁ……」
思わず声が漏れる。
山で鍛えた力とは違う“技術”がある。
アルマは武器棚の前に立つ。
剣を持ってみると、軽い。
斧を持ってみるが、しっくりこない。
「うーん……」
どれも悪くない。
けれど、何か違う。
視線の端に、ひときわ大きな影があった。
大人用の大剣。幅広で分厚い。
「……とりあえずこれでいいか」
迷いなく手を伸ばす。
持ち上げた瞬間、周囲の視線が集まる。
「次、アルマ」
呼ばれる。
アルマはずりずりと大剣を引きずりながら前へ出た。
身長よりも大きく明らかに不釣り合いだ。
「斬ればいいんだよな?」
教官が頷く。
「好きにやれ」
ヒソヒソ声が聞こえる。
「ドワーフの女の子だろ?」
「あれ振れるのか?」
アルマは構えた。
両手で持つ――かと思いきや。
「よっこいしょ!!」
片手で振りかぶった。
一瞬、空気が止まる。
身体全体を使い遠心力を乗せた。
腰を回し、地面を踏み締め――
叩きつけた。
ドォンッ!!
重い衝撃音。
訓練用人形の上半身がひしゃげ、土台がめり込む。
石畳に小さなひびが走り、土煙が舞い上がる。
「………すっげぇ」
周囲は唖然としていた。
教官の眉がわずかに上がる。
アルマは剣を肩に担ぎ、首を傾げる。
「……これでいいか?」
呼吸は乱れていないし、真っ直ぐに立っている。
軽やかではない。
速くもない。
だが、圧倒的な“重さ”があった。
教官がゆっくりと口を開く。
「……もう一撃」
アルマはにやりと笑う。
「おう!」
今度は両手で踏み込みを深くし、振り抜く。
斬るというより――
叩き潰す。
再び衝撃、今度は人形の腕が吹き飛んだ。
静まり返る訓練場。
アルマは剣を地面に立て、満足げに頷く。
「うん。悪くないな」
ヒソヒソ声は、もう聞こえない代わりに、ざわめきが広がる。
教官は腕を組み、アルマを見下ろす。
「力は申し分ない」
短い評価。
「技術は荒い。だが……伸びる」
アルマは満面の笑みを浮かべた。
「よし!」
魔力量10で悪い意味で目立った。
しかし、剣士科の実技場で確かに存在を刻んだ。
遠くの棟では、ノエルの氷が閃き、
別の会場ではレオナが静かに傷を癒している。
三人はそれぞれの場所で、第一歩を踏み出していた。




