学院編①
王都の外壁が見えたとき、アルマはしばらく言葉を失った。
石造りの巨大な門・行き交う馬車・山の村では見たこともない人の波。
「……でっか」
それが最初の感想だった。
ノエルは目をきらきらさせている。
「すごい……! 本当にあるんだ、王都!」
レオナは周囲を静かに観察する。
人の流れ・荷物の量・身なり。
自分たちが“外”に来たのだと、はっきり実感する。
その夜。
三人は学院近くの安宿に泊まり、机の上に広げられたのは――
冒険者学院のパンフレットだった。
紙は分厚く、印刷も鮮明だ。
アルマは腕を組みながら眺める。
「色んなクラス? 科? があるけど……俺は剣士科だな!」
即答だった。
「前に立つのは俺だし!」
ノエルはページをめくる。
「私は魔法科かな! 属性別の応用授業とかあるって!」
図解を見て、わくわくしている。
レオナは静かに頷く。
「私はもちろん、治療科です」
迷いがない。
アルマはふと手を止めた。
ページの端を指でなぞる。
「……もしさ」
声が少しだけ低くなる。
「誰か一人だけ落ちたら、どうする?」
部屋の空気がわずかに変わる。
ノエルはきょとんとした。
「そしたらまた次の機会だよ」
あっさりしている。
レオナも続けて
「入学も卒業も、全員でです」
当たり前のように。
アルマは一瞬だけ視線を落とし、すぐに笑う。
「だよな!! 落ちそうなの俺だけだし!」
「自覚あるんだ」
ノエルがくすくす笑う。
「ほら、ここ見てみてよ」
指差したのは、入学制度の説明欄。
アルマが目を凝らす。
「……入学試験は毎月実施?」
「うん」
「卒業は……“冒険者として自立可能と学院が認めた日”?」
レオナが静かに読み上げる。
「つまり?」
アルマが顔を上げ、レオナが整理する。
「落ちてもまた来月。十分強くなったら即卒業できる、ということでしょうか」
ノエルが首を傾げる。
「うぇー……長く残ってる人ほど基準満たしてないってこと?」
レオナはくすっと笑った。
「ちゃんと見てください」
別の項目を指す。
「希望者は学院に籍を置いたまま研究や鍛錬に参加可能、とあります」
「え?」
「卒業基準を満たしても、さらに学べるということですね」
アルマの目が輝く。
「なるほど! 基準を満たしても満足できなかったら、まだまだ学生してていいってことか!」
「そういうことです」
ノエルがさらにページをめくる。
「あ、見て! 学生用の簡単な依頼を受けて資金調達も出来るみたい!」
「報酬の一部は学院運営費に回る、と」
レオナが冷静に付け加える。
「実地訓練も兼ねての資金稼ぎ……合理的ですね」
アルマは拳を握る。
「いいな! 強くなれて、金も稼げて、実戦も出来る!」
ノエルはベッドに転がる。
「なんか……急に現実味出てきたね」
明日が入学試験。
ここで落ちれば、来月まで待つことになる。
けれど制度を知った今、不安は少し軽い。
アルマは窓の外を見た。
王都の夜は明るく、村の星空とは違う光。
「……絶対受かる」
小さく呟く。
ノエルが寝返りを打つ。
「三人でね」
レオナは灯りを落とす。
「はい。三人で」
静かな部屋に、三つの呼吸が重なる。
山を越えてきた。
明日は、最初の関門。
けれど三人の並びは変わらない。
前に立つ者・勢いで進む者・一歩引いて支える者。
王都の夜が更けていく。




