冒険者編③
ギルドの中央。
机を囲むようにして冒険者たちが輪になっていた。
酒を持った者、腕を組んで見守る者、興味津々で覗き込む者。
その中心で――
アルマと大男が向かい合っていた。
腕相撲の姿勢。
肘を机につけ手と手ががっちりと組まれる。
小さな手と、巨大な手。
普通なら勝負になるはずもないが――
ギルドの空気は妙に盛り上がっていた。
誰かが叫ぶ
「レディ……「ゴー!!」
ミシッ……
机が軋んだ。
アルマの腕の筋肉が盛り上がる。
顔が一瞬で真っ赤になる。
歯を食いしばる
「んぎぎぎぎぎぎ……!!」
大男もすぐに力を込める。
太い腕の筋肉が膨らむ
「ぐぬぬぬぬ……!!」
机の上で腕が震えるが――
動かない。
どちらも一歩も譲らない。
ギルドが一気に盛り上がる
「おいおい!」
「押せてねえぞ!」
「嬢ちゃんやるじゃねえか!」
ノエルが口を開けて見ている
「え……」
レオナも少し驚いていた
「互角……?」
アルマの腕が震える。
額に汗をかき歯を食いしばる
「ぐ……っ」
大男の腕も震えていた。
まだ動かない。
そのときアルマの呼吸が荒くなる。
心臓が高鳴る¥り、筋肉が悲鳴をあげる。
そして――
目が赤く光る。
アルマが叫ぶ
「んがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その瞬間。
腕に力が爆発した。
バキィッ!!
机が真っ二つに割れる。
木片が飛び散る
「マジかよ!?」
「机割れたぞ!!」
「スゲェパワーだ!!」
「何もんだこの小娘!?」
ギルドの中が騒然となる。
割れた机の上。
腕はまだ組まれている。
大男は数秒黙っていた。
そして、ふっと笑い腕を離す
「……引き分けだな」
周囲が「おぉ」とざわつく。
大男はポケットから金貨を取り出した。
指で弾きアルマに渡す
「しかし」
にやりと笑う
「大したもんだ」
「正式冒険者祝いだ」
金貨を押し付ける
「とっとけ」
アルマは一瞬ぽかんとする。
そして――
目を輝かせる。
「うおおおおお!!」
両手で金貨を握る
「ありがとう!!」
いつの間にか目は元の緑色に戻っていた。
ノエルが笑う
「やったじゃん!」
レオナも微笑む
「さすがですね」
アルマは金貨を掲げた。
初めてのギルド依頼。
そして正式冒険者になって最初の報酬。
その金貨は――
ずっしりと重かった。
トリニティの冒険は、いよいよ本格的に始まった。
冒険者たちは酒を片手に笑いながら話していた
「いやー久々に面白いもん見たわ」
「ドワーフってやっぱ力やべえな」
「机は弁償しろよ嬢ちゃん!」
そんな声が飛び交う中、アルマは照れくさそうに頭をかいた。
だがその手には、さっき貰った金貨がまだ握られている。
ノエルがくすっと笑う
「よかったね」
アルマは嬉しそうに頷いた
「うん!」
そして三人は依頼掲示板へ向かった。
壁一面に貼られた紙。
様々な依頼、魔獣討伐、護衛、素材採集、調査。
三人は並んで紙を見ていく。
アルマは腕を組みながら言う
「いっぱいあるな」
ノエルは一枚一枚読んでいる。
レオナは依頼の条件を冷静に確認していた。
そのとき、ノエルが一枚の紙を指で押さえる
「……」
少し声が小さくなる
「魔力調査……」
その言葉を聞いた瞬間。
アルマの心臓が跳ねた。
ドクン、と大きく鼓動する。
頭の中に浮かぶのは――
あの遺構。
爆発、あの巨躯。
ヤギの頭、赤い目、圧倒的な存在。
アルマは思わず呟いた
「……巨躯か……?」
胸の奥がざわつく。
恐怖と―少しの悔しさ。
あのときは何もできなかった。
レオナは依頼書を手に取り、内容を読む
「……」
静かに言う
「もし」
「もしそうだったとしたら」
声が少し低くなる
「戦闘は必ず回避」
指を軽く立てる
「即撤退」
「徹底を約束してくれるのならば」
「賛成です」
ノエルも少し考え頷いた
「……うん」
アルマを見る。
アルマは依頼書を見つめていた。
少しだけ拳を握る。
怖くないわけじゃない。
だが―逃げたままでは終われない。
アルマは顔を上げる
「よし」
依頼書を掲示板から剥がす
「これにしよう」
ノエルが少し緊張した顔で笑う。
レオナも小さく頷いた。
ギルドの喧騒の中。
三人は受付へ向かう。
【トリニティ】
正式冒険者としての――
次の依頼が、決まった。




