冒険者編②
数日後――
学院の訓練場。
昼下がりの光が石の地面を照らしていた。
三人はいつものように訓練を終えたばかりだった。
ノエルの凍結魔法で凍りついた魔法人形。
レオナの術式が書かれた紙。
アルマの大剣の跡が刻まれた地面。
その様子を、少し離れたところで教師が見ていた。
腕を組んだまま、しばらく黙っていたが――
やがて口を開いた
「お前たち」
三人が振り向くと教師は静かに言った
「お前たちに」
少しだけ笑う
「もう教えられることは少ない」
ノエルが目をぱちぱちさせる。
アルマも少し驚いた顔になる。
教師は続けた
「これからは」
三人を見渡す
「正式にギルドに登録したらいいんじゃないか?」
その言葉は、静かで重みがあった。
ノエルは少し嬉しそうな顔をする。
アルマは大剣を肩に担ぎながら言う
「おぉ」
だが――
レオナは少し考え込むような表情をした
「……」
そして言う
「まだやりたいこととか沢山ありますが……」
魔法・術式・ニールの言葉。
まだ試したいことが山ほどある。
アルマも頷く
「剣の訓練もさ」
肩をすくめる
「1人じゃできないしなー」
教師はそれを聞いて小さく笑った
「ならば‥籍だけ置いておけ」
三人を見る
「いつでも帰ってくるといい」
ノエルが少し首を傾げる。
教師は空を見上げ言った
「故郷の他に」
ゆっくり言葉を置く
「帰る場所がある。それだけで安心できるものだ」
三人は黙っていた。
学院。
最初に来たとき。
知らない場所だった。
だが今は――
訓練場・教室・寮。
全部が少し特別な場所になっている。
アルマが笑う
「じゃあちょくちょく帰ってくるわ!」
ノエルも元気よく言う
「甘いもの食べに!」
レオナは苦笑する
「それ目的ですか」
教師も小さく笑い、そして最後に言った
「行ってこい」
短い言葉。
だがそれは――
送り出す言葉だった。
学院の中庭は朝の光が芝生を照らし、木々の葉が風に揺れていた。
三人は石のベンチに座り込んでいた。
腕を組みながら、真剣に悩んでいる。
パーティー名。
教師に言われたときは軽い話のように聞こえた。
だが――
考え始めると、意外と難しい。
アルマが腕を組んだまま言う
「どうせならさ」
少し前のめりになる
「3人の特徴が入ってるのがいいよなー」
ノエルが指を折りながら考える
「怪力」
アルマを見る
「ドワーフ」
アルマがうんうん頷きノエルは続ける
「氷」
「凍結」
自分を指差す。
そしてレオナを見る
「電気」
「紫」
「回復」
最後に三人を指差す
「アルマ」
「ノエル」
「レオナ」
そして頭を抱える
「うーん……」
レオナも少し困った顔になる
「困りましたね……」
三人は同時に唸る
「うーん……」
風が吹く。
少しの沈黙。
そのとき、アルマが突然立ち上がった
「思いついた!!」
ノエルが顔を上げる
「なになに?」
アルマが胸を張る
「ブラッディクロス!」
ノエルが瞬きをする
「血の十字架?」
首を傾げる
「なんで?」
アルマは自信満々
「かっこよくね?」
レオナが即答する
「却下です」
アルマの肩が落ちる
「うぅ……」
ノエルは笑いを堪えている
「アルマっぽすぎる」
しばらくまた沈黙。
三人は考える。
だが、なかなか出てこない。
レオナがゆっくり口を開いた
「……」
少し考えてから言う
「トリニティ」
アルマが顔を上げる
「お?」
ノエルも興味を示す
「かっこいい!」
アルマがすぐ聞く
「意味は?」
レオナは静かに説明する
「古代語で」
少しだけ微笑む
「三位一体」
三人を見る
「私たちは3人でひとつ」
その言葉が、空気の中に落ちる。
ノエルの目が輝く
「かっこいいじゃん!!賛成!」
アルマも頷く
「おぉ!」
嬉しそうに言う
「俺たちの関係にも繋がってんじゃん!」
三人でひとつ。
まさに今の三人。
アルマは大剣を背中で揺らしながら叫ぶ
「トリニティ!」
拳を突き上げる
「始動!!」
ノエルが笑う。
レオナも小さく笑った。
――――――
その後。
三人は教師のところへ向かった。
教師は腕を組んで待っていた
「決まったか?」
アルマが胸を張る
「決まった!」
ノエルが言う
「私たちのパーティー名!」
レオナが静かに言った
「トリニティです」
教師は一瞬だけ目を細める。
そしてゆっくり頷いた
「いい名前だ」
「お前たちの象徴だな」
三人の胸に、少しだけ誇らしい感情が広がった。
その日、三人のパーティーは正式に名前を持った。
【トリニティ】
三人でひとつの――
冒険者パーティー。
~~~~~~~~~~~
王都冒険者ギルド。
重い扉が開く。
昼間のギルドは活気に満ちていた。
酒の匂い、革の匂い、金属の音。
依頼書を眺める冒険者たち。
その中に、三人は堂々と入っていく。
アルマが真っ先にカウンターへ向かった
「正式に登録しにきたぞー!」
元気な声がギルドの中に響く。
周囲の冒険者がちらりと見る。
受付の女性は慣れた様子で微笑んだ
「お名前をどうぞ」
ノエルが一歩前に出て胸を張り少し得意げに言った
「トリニティ!」
受付は帳簿に目を落とし、ペンを走らせ丁寧に言った
「アルマ様、ノエル様、レオナ様」
顔を上げる
「3名でトリニティですね」
机の引き出しから小さな箱を取り出す。
カチリと開けると中には三枚の金属プレート。
受付はそれを差し出した
「それではこちらをどうぞ」
アルマが受け取る。
冷たい金属の感触。
刻まれている文字。
【Cランク冒険者】
アルマの目が輝く
「Cランク!」
受付は微笑んだまま続ける
「トリニティは」
帳簿を閉じる
「学院の卒業生として扱うように、と連絡がきています」
三人は少し驚くと受付は穏やかに言う
「当ギルドもあなた方の強さは把握しています」
少しだけ姿勢を正して言った
「ようこそ」
軽く頭を下げる
「冒険者ギルドへ」
その言葉に、三人の胸が少し高鳴る。
ノエルがプレートを光にかざす
「うわぁ」
嬉しそうに言う
「なんかワクワクしてきた!」
レオナも自分のプレートを見て静かに微笑む
「いよいよですね」
小さく笑う。
アルマはプレートを握りしめ大きく叫ぶ
「目指せ!」
拳を突き上げる
「最強!!」
その声に、ギルドの中が少しざわついた。
冒険者たちが笑う
「若いねえ」
「元気なのはいい事だ」
「懐かしいな」
そんな声が飛ぶ。
そのとき、奥のテーブルに座っていた大柄の男が笑った。
筋肉質の腕、太い首、腕には古い傷跡。
酒のジョッキを置きながら言った
「そこの」
顎で指す
「大剣担いだ嬢ちゃん」
アルマが振り向く。
男はニヤリと笑った
「力自慢か?」
アルマの目が光る
「お?」
胸を張る
「そうだぞ!」
男は腕を机に置き肘をつき、手を差し出す
「俺と腕相撲してみないか?」
周囲の冒険者がざわっとする
「あーあ」
「やるのか」
「勝てるわけねーだろ」
男は続ける
「俺に勝ったら」
指を一本立てる
「成功報酬として金貨1枚をやろう」
そして指を下げる
「負ければ銅貨1枚だ」
アルマの顔がにやりと歪む。
一歩前に出る
「のった!!」
ギルドの空気が一気に盛り上がった
「おぉ!」
「面白い!」
「始まるぞ!」
ノエルが慌てて言う
「ちょっとアルマ!?」
レオナも少し驚いている。
だがアルマはもう椅子に座っていた。
大剣を背中から外し、横に立てかける。
腕を机に置き男の腕とぶつかる。
ゴン。
太い腕と、小さな腕。
アルマの腕の筋肉が、静かに盛り上がっていた。
男が笑う
「いい度胸だ」
周囲が輪になりギルドの冒険者たちが見守る。
誰かが言う
「よーし」
「始めろ!」
アルマの目が燃える。
新米冒険者。
だがその腕には――
ドワーフの力が宿っていた。




