冒険者編①
夜の学院。
訓練場には、月の光が静かに落ちていた。
昼間の喧騒は消え、広い石の地面には三人の影だけが伸びている。
風が少し冷たい。
だが――
三人はそれぞれの場所で、黙々と動いていた。
ノエルは訓練場の中央に立ち杖を握り、目を閉じる。
ニールの言葉を思い出し深く息を吸う
(氷じゃない)
氷塊を作るのではない。
氷槍を放つのでもない。
(凍結)
そのものを凍らせるということ。
ノエルはゆっくり手を広げた。
魔力が流れ空気が冷えていく
「……」
目の前には、訓練用の魔法人形がいくつか置かれている。
今までなら――
氷塊を投げるか槍を作る。
だが今は違う。
ノエルはイメージする。
巨大な氷の花、透き通った花弁、美しい氷のバラ。
その花が――
開く
「……凍れ」
ピキ……
空気が軋み地面を冷気が走る。
魔法人形の足元から氷が広がる。
氷の花弁のように広がりながら――
人形を包み込んでいく
「……!」
ノエルの目が少し見開く。
今までとは違う。
氷を作っているのではなく、対象を凍らせている。
【凍結】
ノエルはもう一度魔力を流すと氷がさらに広がる。
まるで花が咲くように。
――――――
一方で訓練場の端でレオナは地面に座り込んでいた。
紙が何枚も広げられている。
術式図・魔力回路・細かい記号…
レオナはペンを持ったまま、難しい顔をしていた
(過剰回復……)
傷を治すということは細胞を活性化する。
それを―過剰にする。
レオナは紙に線を引く。
魔力の流れ・循環・制御
「……違う」
線を消してはまた書き出す
「ここ……?」
首を傾げる
(過剰にすると)
細胞が焼ける。
だが、それは―攻撃になる。
レオナはもう一度書く。
魔力の流れを変え制御を少し崩す
「……まだ……」
どこを変えるべきか、完全には掴めていない。
それでもペンは止まらない。
――――――
訓練場の中央でアルマは一人、剣を振っていた。
新しい大剣が月の光を受けて刃が光る
「……」
息を整え踏み込むと体が回る。
跳び、着地。
剣が弧を描く。
ドンッ!!
ドワーフ族の剣技で舞うように。
飛び回りながら遠心力を乗せる。
普通の剣士とは違う動き。
上下・左右・回転が止まらない。
アルマの頭の中には――
あの巨躯が浮かんでいた。
ヤギの頭、赤い目。
そして剣が触れる前に爆発した。
アルマは歯を食いしばる
(あのとき)
剣が砕けた。
触れることすらできなかった。
アルマは剣を振る。
もっと速く、もっと重く
(なら)
踏み込み回転し斬撃
(その爆発に)
(負けない力を……)
アルマは止まらない。
汗が飛び呼吸が荒くなる。
それでも剣は振り続ける。
夜の訓練場に――
三人の努力の音が響いていた。
氷のきしむ音、ペンの走る音、剣が空を斬る音。
訓練場には、月の光が静かに落ちていた。
~~~~~~~~~~~
翌朝、学院の石畳の通路。
朝の光が校舎の壁を照らしていた。
三人は並んで歩いている。
昨夜の訓練の疲れが少し残っているが、足取りは軽い。
そのとき――
「おい」
後ろから声がかかった。
振り向くと、教師が立っている。
腕を組み、少し面白そうな顔をしていた。
アルマが首を傾げる
「ん?」
教師は三人に歩み寄る
「昨日、ギルドから正式依頼を受けたんだって?」
ノエルが少し驚く
「え、もう学院に伝わってるの?」
教師は肩をすくめた
「ギルドと学院は繋がってる」
当然だろう、という顔
「ならば覚えやすいように」
「パーティー名を考えるといい」
アルマは一瞬ぽかんとする
「いらなくね?」
即答。
ノエルが笑い少し考える顔になる
「……」
そして静かに言った
「パーティー名があると」
少し整理しながら説明する
「覚えられやすい」
「あと」
指を軽く立てる
「呼びやすい利点があります」
教師はにやりと笑った
「その通りだ」
「依頼を出す側も覚えやすい」
「噂にもなりやすい」
ノエルが空を見上げる
「名前かぁー……どうせなら」
振り向き笑顔で
「かっこいいのがいいよね」
両手を広げる
「覚えやすくてかっこいいやつ!」
アルマの目がきらりと光る。
想像が膨らんだ
「おぉ……最強になったらさ」
少し大きな声になる
「あのパーティーの連中って感じで」
手を広げる
「名前が広がるのか!最高じゃん!!」
ノエルも笑う
「アルマそういうの好きそう」
レオナは少しだけ微笑んだ。
だが、その胸の中には少し別の感情もあった。
パーティー名。
それは――
ただの名前ではない。
三人で戦う証。
これから続く冒険の象徴。
レオナは静かに思う
(私たちの……)
三人を見る。
アルマはすでにテンションが上がっている。
ノエルは楽しそうに考えている
(名前……)
教師は腕を組んだまま言う
「まぁ」
少し笑う
「すぐ決める必要はない」
三人を見る
「だが、これから冒険者として動くなら」
「お前たちは一つのパーティーだ」
その言葉は、静かに三人の胸に落ちた。
三人の物語は――
まだ始まったばかりだった。




