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学院編㉚

王都の露店通り。


昼の光が石畳を照らしていた。

人の行き交う音、焼き菓子の甘い香り。

そのベンチの上だけ、どこか奇妙な空気が漂っていた。

ニールは紅茶のカップを持ったまま、ゆっくり頷く

「ふむ」


そして三人を見た

「ここで会ったのも何かの縁」


カップを軽く揺らす

「宿題をあげましょう」


ノエルが「え?」と顔を上げる。

レオナも少し姿勢を正す。

アルマは焼き菓子を食べながら見ている。

ニールはノエルを指差した

「ノエル君」


静かな声

「私は君に言いましたね」


少し思い出すように言う

「美しいと思うものを思い描いて魔法を使えと」


ノエルは頷く

「はい」


ニールは言う

「結果」


「バラが咲いた」


そしてゆっくり頷く

「ふむ」


「実に素晴らしい」


ノエルは少し照れる。

ニールは続ける

「氷属性の魔法は」


指で空中に氷の形を描く

「氷塊を作る」


「氷槍を作る」


「氷壁を作る」


そして指を止める

「だが」


少し声を低くする

「凍結は違う」


ノエルがじっと聞く。

ニールは言う

「凍結は」


ゆっくり言葉を置く

「そのものを凍らせる」


少しだけ間

「凍らせるとどうなるか」


ノエルの目を見る

「わかりますね?」


ノエルは少し考える。

ニールは続けた

「あなたは氷のバラを咲かせた」


指を丸く動かす

「その中に」


静かな声

「敵を閉じ込めることもできる」


ノエルの目が少し大きくなる。

ニールは言った

「以前お話したでしょう」


紅茶を一口飲み言う

「戦場の支配者」


ノエルの頭の中に、氷のバラが浮かぶ。

巨大な氷の花の中で敵が凍りつく。

ニールは頷いた

「そのイメージを持つといいでしょう」


ノエルは少し真剣な顔になる

「……はい」


ニールは今度はレオナを見る

「そして」


メガネを少し押し上げる

「レオナ君」


レオナが姿勢を正す。

ニールは言う

「君は制御に目が行きがちだ」


レオナは少し驚く。

ニールは続ける

「繊細な制御」


指で細い線を描く

「回復魔法」


「とても素晴らしいことです」


レオナは静かに聞いている。

だがニールは続けた

「それを」


「あえて」


少し微笑む

「過剰回復する術式を考えてみなさい」


レオナは思わず言う

「そんなことしたら」


手を軽く振る

「傷口が焼かれてしまう――」


言葉が止まり目が見開かれる。


「……」


一瞬で理解しレオナの表情が変わる。

ニールはゆっくり頷いた

「そうです」


穏やかに言う

「焼き切るのです」


空中に指で線を描く

「過剰回復」


「過剰活性」


「細胞の暴走」


「それは攻撃になる」


レオナの心臓が少し高鳴る。

ニールは紅茶を持ち上げる

「配合を変えると」


カップをくるりと回す

「味が変わる」


「香りも変わる」


「魔法と一緒です」


レオナは静かに思う

(盲点でした……)


今まで考えたこともない発想。

回復魔法を攻撃に使う。

レオナはニールを見る

(この人……)


小さく思う

(やっぱりすごい)


ニールは紅茶を飲みながら満足そうに頷いていた。

王都の露店通りから見える太陽はは少し傾き始めていた。

通りには人の流れが絶えない。

商人の声、馬車の音、焼き菓子の甘い香り。

その喧騒の中で、ニールは紅茶を飲み干すと小さく頷いた

「ふむ」


そして、ゆっくり立ち上がる。

ローブの裾が静かに揺れる。

メガネを指で整えながら言った

「やはり」


少し考えるような声

「思っていることを頭で整理するよりも」


手に持った茶葉の袋を軽く持ち上げる

「口に出した方が矛盾に気づけるものです」


ノエルとレオナは真剣に聞いている。

ニールは続けた

「困ったら」


指を軽く立てる

「口に出してみるといいでしょう」


それだけ言うと、くるりと背を向けた

「では私はこの辺で」


露店で配合した茶葉を持ったまま、通りの人混みへ静かに溶け込んでいく。

誰ともぶつからず、誰にもぶつけられず。


いつの間にか――

姿が見えなくなった。

三人はしばらく黙っていた。

アルマがぽつりと言う

「何言ってるか全然分からんかったわ」


ノエルが吹き出しレオナも少し笑うが、二人さっきの話をしっかり理解していた。

ノエルが拳を握る。

目がきらきらしている

「アルマ!」


少し身を乗り出し

「私たち」


嬉しそうに言う

「もっと強くなれる!」


アルマは少し驚く

「え?」


ノエルは興奮気味に続ける

「凍結の使い方!」


「今までと全然違うの!」


レオナも静かに頷く

「ええ」


目が少し真剣になる

「紫電の応用も……」


考えながら言う

「まだ可能性があります」


アルマは二人を見て

「へえー!いいじゃん!」


剣を背中で揺らす

「俺も負けてらんねーな!!」


三人はベンチから立ち上がる。

焼き菓子の袋を持つノエル。

地図をしまうレオナ。

新しい大剣を背負うアルマ。

学院へ向かう道はさっきより――


足取りが軽かった。

世界は広い。

強い者も、知らない魔法も、未知の敵もいる。

だがそれは怖いだけではない。

進む理由にもなる。

夕方の王都の通りを、三人は並んで歩いていった。

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