学院編㉘
小川のほとり。
イノシシ型の魔獣が地面を蹴った。
ドドドドド!!
木の根を踏み砕き、土を巻き上げながら重い体が一直線に突進してくる。
アルマは大剣を構えた。
新しく買ったばかりの刃。
両手で握る
「かかって来い!」
真正面から受けるつもりだった。
イノシシが目の前まで迫る。
アルマは剣を横に構え、衝撃を受け止める――
ドォン!!
衝撃。
アルマの体が宙を舞いそのまま草むらへ。
ゴロゴロゴロッ!
地面を転がる。
ノエルが思わず叫ぶ
「ちょっとなにやってんの!?」
アルマは草むらから顔を出した
「いててて……」
腕をさする
「止めれると思ったんだよ」
ノエルが呆れる
「真正面から受けるな!」
レオナが一歩前に出て杖を握る
「遊んでないでやりますよ!」
アルマは立ち上がる。
服についた土を払う
「仕切り直しだ!」
その間にもイノシシ型魔獣は鼻息を荒くしていた。
ブシュッ、ブシュッ
得意げな顔で小さく地面を掘る。
まるで勝ち誇っているようだった。
アルマの眉がぴくりと動く
「……」
小さく呟く
「舐めてんなあいつ」
少しイラッとした顔。
次の瞬間。
イノシシが再び地面を蹴る。
ドドドドド!!
突進。
アルマは今度は動かなかった。
イノシシが目の前まで来た瞬間――
ひらりと体を軽く回す。
舞うような動き。
イノシシの突進が空を切る。
その勢いのまま横を通り過ぎる瞬間、アルマの体が回転する。
大剣が円を描く遠心力と全体重。
ズバンッ!!
重い斬撃。
イノシシの皮が裂ける
「プギィィィィ!!」
魔獣が悲鳴を上げノエルがすぐに動く
「凍れ!」
空気が冷え氷が地面を走る。
イノシシの脚が一瞬凍りつき動きが鈍る。
レオナの手が光る。
バチィ!!
電流がイノシシを走る。
体が痺れ、動きが止まる。
アルマが踏み込む
「終わり!」
回転斬りで重い刃が振り下ろされる。
ドンッ!!
イノシシの巨体が地面に倒れ森に静けさが戻り川の水音だけが聞こえる。
アルマは大剣を肩に担いだ。
少し息を吐きて二人を見る。
にこっと笑う
「2人とも魔法の威力あがっててすごいな!」
ノエルは杖を肩に乗せる
「でしょ?」
少し得意げ。
レオナも微笑む
「ニールさんのおかげですね」
倒れたイノシシを見る
「よし初ギルド依頼、完了!王都外れの農地。
倒れたイノシシ型魔獣の巨体は、まだ地面に横たわっていた。
農夫たちが遠巻きに様子を見ている。
アルマが手を振った
「終わったぞー!」
農夫が慌てて駆け寄ってくる。
恐る恐る魔獣の体を確認する。
巨大な牙・鋭い爪。
だが、もう動かない。
農夫は大きく息を吐いた
「助かった……」
畑の方を振り返る
「最近、畑を荒らされて困ってたんだ」
ノエルが少し照れくさそうに笑う
「いえいえ」
レオナは丁寧に言う
「依頼ですから」
アルマは討伐証明用に魔獣の牙を剥ぎ取る。
白く湾曲した立派な牙。
アルマはそれを肩に担ぎ満足そうに言う。
「よし帰るか!」
――――――
王都。
再びギルドの扉を押し開ける
中は相変わらず賑やかだった。
冒険者たちの声と酒の匂い。
そして依頼書を貼る音。
三人が受付へ向かう。
レオナがカウンターに牙を置いた
「討伐証明です」
受付の女性が牙を持ち上げる。
形状を確認する。
牙の傷跡、魔獣特有の骨の質。
少し頷く
「確かに確認しました」
帳簿に書き込み袋を取り出してカウンターに置く
「こちらが報酬になります」
アルマが袋を持つと中で金貨が鳴る。
ノエルが覗き込む
「おぉ」
少し嬉しそう。
受付の女性は続けて言った
「それと」
三人を見る
「ギルドマスターが皆さんをお待ちですので」
奥の扉を指す
「どうぞ中へ」
三人は同時に首をかしげた
「?」
アルマが言う
「俺ら?」
受付は微笑む
「はい」
ノエルとレオナも顔を見合わせる。
何か問題があったのか。
それとも――
別の用件か。
三人は奥の扉へ向かった。
木製の扉を開けと奥は静かな部屋だった。
外の喧騒とは別世界、壁には古い武器、大きな机。
その奥に――
一人の男が座っていた。
年齢は五十前後。
肩幅が広く無精髭。
鋭い目、腕には古い傷跡がいくつもある。
ただ座っているだけなのに空気が少し重い。
男は三人を見てゆっくりと腕を組む。
そして言った
「学院の三人組だな」
「お前たちが目撃したという」
腕を組む
「巨躯について聞きたい」
アルマ、ノエル、レオナは顔を見合わせる。
そして順番に話し始めた。
遺構・ゴーレム・爆発。
そして――
煙の中から現れた存在。
ヤギの頭蓋のような頭に歪んだ角。
丸太のような腕、鎧のような筋肉、巨大な蹄。
赤い光の目。
三人が話す間、ギルドマスターは一言も挟まない。
ただ静かに聞いていた。
やがて
「ふむ」
小さく頷く
「学院から聞いていたことと同じだな」
報告内容は一致している。
つまり、話の信頼性は高い。
ギルドマスターは机に指を置き軽く叩く
「ささいなことでもいい」
三人を見る
「他にないか?」
アルマは腕を組む
「うーん……」
思い出そうとする。
ノエルも首をかしげる。
レオナも考える。
だが――
なかなか出てこない。
しばらく沈黙。
そのとき。
ノエルが「あ」と声を上げた。
三人がノエルを見る。
ノエルは少し思い出すように言う
「3度目はないって言ってました」
ギルドマスターの眉が動く
「3度目?」
ノエルは頷く
「はい」
少しゆっくり思い出しながら説明する。
最初の言葉【帰れ。弱き者よ】
アルマが斬りかかると剣が爆発する。
そして。
巨躯が言った
【3度は言わん。帰れ。弱き者よ】
ノエルは言う
「確かにそう言ってました」
アルマも頷く
「あぁ間違いない」
レオナも静かに言う
「はっきり覚えています」
部屋の空気が少し重くなる。
ギルドマスターは腕を組んで顎に手を当てる。
そして低く呟く
「なるほど……」
視線がアルマへ向く
「猶予を与えたのか……?」
アルマが少し眉をひそめる。
ギルドマスターは続ける
「お前が攻撃した」
「それでも」
少し間を置く
「動かずに猶予を与えた……」
思考を整理するように机を軽く叩く。
しばらく黙りそして――
「……さっぱりわからんな」
小さく肩をすくめた。
三人は少し拍子抜けした顔になる。
ギルドマスターは続ける
「俺の方でも」
机の上の資料を叩く
「その巨躯の特徴を資料で漁ってみた」
古い魔獣図鑑、悪魔の記録、討伐報告
「だが何もわからず終いだ」
目を細める
「少なくとも俺がギルドマスターになってからは」
少し低い声
「目撃情報はない」
つまりこの王都周辺で。
あんな存在が確認された記録はない。
部屋の中が静かになる。
アルマの頭の中に、あの巨躯が浮かぶ。
赤い目、低い声、圧倒的な存在。
そして
【帰れ。弱き者よ】
ギルドマスターは最後に言った
「もしまた見かけたら」
短く言う
「絶対に戦うな」
その声には、はっきりとした重みがあった。




