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学院編㉓

執務室の空気は、重く沈んでいた。


窓の外では夕焼けが静かに沈み、部屋の中には長い影が落ちている。

教師はしばらく三人の顔を見ていた。

アルマの額の汗、ノエルの青い顔、レオナの震えの残る手。

そして――その目。

教師はゆっくりと頷いた

「お前たちの報告が正しいことは」


低い声で言う

「その表情を見ればわかる」


嘘をつく顔ではない。

見たものを、そのまま持ち帰ってきた顔だ。

教師は机の上に置かれていたアルマの剣を持ち上げる。

折れた刃だが、よく見ると――

ただ折れたのではない。

刃の断面が粉砕されたように砕けている。

教師は眉をひそめる

「……これは」


刃先を光にかざす。

普通の衝撃ではこうはならない。

まるで内側から破裂したような痕

「折れたというより」


静かに呟く

「砕けているな」


アルマは苦い顔をする。

教師は剣を机に置きゆっくり言った

「遺構に何かがいる」


腕を組む

「そうギルドに報告しよう」


部屋にいる教師たちが頷く。

王都から半日のそれほど遠くない距離。

そんな場所に――

三人の話が本当なら、ゴーレムを粉砕する存在。

言葉を話す存在。

ソレがいる。

放置できる話ではない。

教師は窓の外を見た。

遠くに見える王都の塔。

そして低く言う

「王都からそう離れていない遺構だ」


拳を軽く握る

「そこにそれほどの存在がいるなら」


振り返る

「放っておける状態ではない」


三人を見る。

だがその目は、さっきより柔らかかった

「お前たちは」


静かに言う

「もう休め」


アルマはまだ何か言おうとする。

だが教師は首を振った

「もう一度言う」


その声ははっきりしていた

「よく無事で戻った」


言葉の重みが、部屋に落ちる。

アルマはゆっくり頷いた。

ノエルも小さく息を吐く。

レオナも深く頭を下げる。

三人は静かに部屋を出て廊下に出た瞬間、学院のいつもの音が戻る。

遠くで誰かが笑っている。

訓練の声、食堂の匂い。

だが――


三人の胸の奥には、まだあの存在の影が残っていた。

あの赤い目、あの声。


【帰れ。弱き者よ】


それは初めて感じた――

どうにもならない差だった。

~~~~~~~~~~~~

学院の寮。


窓の外には月が浮かび、静かな風が木々を揺らしていた。

だが――

アルマの眠りは静かではなかった。

布団の上で、体が何度も小さく震える。

呼吸が荒く歯を食いしばっている。


夢の中――


アルマは、あの遺構の前に立っていた。

空は赤く染まり、地面は焼け焦げている。

森は黒く枯れ、風が灰を巻き上げていた。

目の前には―巨躯。

ヤギの頭蓋のような頭。

歪んだ巨大な角、空洞の眼窩。

その奥に燃える赤い光。

鎧のように膨れ上がった筋肉、丸太のような腕。

巨大な蹄が地面を踏みしめる。


ごん。


一歩。


地面が割れる。


ごん。


また一歩。


地面が沈む。


アルマは剣を構えていた。

しかし腕が重い、体が動かない。

足が地面に縫い付けられたようだった。

巨躯がゆっくり近づく。


ただ立っているだけなのに、空気が重い。

呼吸ができない。

アルマは歯を食いしばる

(動け……)


体に命令する

(動けよ……!!)


だが――

足が動かない。

剣が重い。

巨躯が目の前に立つ。

空洞の眼窩が、アルマを見下ろす。

そしてで低い声で


「弱き者よ」


アルマは叫ぶ

「うるせぇぇぇ!!」


全力で剣を振るが刃が届く前に。


バンッ!!


剣が爆発し腕が弾けるような痛み。

体が吹き飛び地面に叩きつけられる。

アルマは血を吐く。


それでも起き上がり拳を握る

「まだだ……!」


巨躯はゆっくり手を伸ばす。

丸太のようなその巨大な手が。


アルマの体を――

掴む。

抵抗できない。

まるで子供を持ち上げるように、アルマは空中に持ち上げられる。

足が宙を蹴る

「離せ……!」


声が震える。

巨躯の赤い目が近づく。

そして静かに言う。


「弱き者よ」


その声は――

絶望そのものだった。

アルマは叫ぶ

「やめろォォォ!!」


その瞬間

「……アルマ?」


遠くから声が聞こえる

「大丈夫?」


声が近づき意識が揺れる。

アルマはばっと目を開けた

「はっ……!!」


寮の天井・月明かり、息が荒い。

体が汗でびっしょりだった。

呼吸が乱れている。

ノエルが心配そうに顔を覗き込んでいる

「アルマ?」


アルマはしばらく言葉が出なかった。

胸が大きく上下している。

心臓が激しく鳴っていた。

レオナもベッドの横に立っている。

少し静かな声で言う

「……無理もありませんね……」


アルマの額から汗が流れる。

レオナは続ける

「あれ程の存在に出くわしてしまったのですから……」


ノエルも小さく頷く。

アルマはしばらく黙っていた。

小さく呟く

「……夢でも」


まだ少し震えている

「勝てる気しねぇ……」


部屋の中は静かだった。

だが三人とも分かっていた。

あの巨躯は――

忘れられるような存在ではなかった。

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