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学院編⑱

森の奥。


戦いの余韻だけが残っていた。

倒れた巨大な熊型の魔獣。

その周囲には、砕けた氷と散った核の破片。

さらに少し離れた場所には、倒れた狼型の魔獣が二匹。

木々は折れ、地面には深い爪痕。

まるで小さな嵐が通り過ぎたかのような光景だった。


その静寂を破るように――

枝を踏み折る音。

人影が森を抜けてくる

「無事か!?」


学院の教師たちが数人、武器を持って駆け込んできた。


だが、次の瞬間。

足が止まる。

視線の先には倒れた魔獣、砕けた核、荒れ果てた森。

教師の一人が、ぽつりと呟く

「……これは……」


さらに数歩近づくと、狼型の魔獣が確認できた。

二匹、確実に倒れている。

そして――熊型の巨体。


教師の目が大きく開かれる

「……これを……」


ゆっくり三人を見る。


アルマは剣を地面に突き立て、肩で息をしている。

服は破れ、腕や肩には無数の傷。

血もにじんでいる。


しかし立っている。

致命傷はない。

その少し後でノエルが地面に座り込んでいる。

顔は青いし呼吸も浅いが意識はある。

レオナがその肩を支えている。


三人とも、生きている。

教師が信じられないという顔で言う

「……お前たちがやったのか?」


ゆっくりと言葉を選ぶように

「……三人で……?」


アルマが苦笑する

「まぁ……」


頭をかく

「なんとか……」


周囲を見れば、なぎ倒された木。

抉られた地面、深く刻まれた爪痕。

どれも戦闘の激しさを物語っている。

教師はしばらく何も言えなかった。


ただ、三人を見る。

まだ学生どころか、学院に入って間もない。

それなのに――この戦場を作った。

教師はゆっくり近づき、アルマの肩に手を置いた。


力強く言う

「お前たち……」


少し声が震える

「本当によくやったな……!」


その言葉を聞いた瞬間、アルマの体からふっと力が抜けた。

剣を地面に突き刺したまま笑う。

ノエルも小さく笑い、レオナはほっと息をつく。


三人の初めての討伐任務は、こうして終わった。

倒れた魔獣の前で、教師は腕を組んで周囲を見回していた。


教師は深く息を吐く

「この規模だと……」


ゆっくり首を振る

「学生クラスでは手に負えん」


周囲の教師たちも頷いている。

本来なら、これは冒険者ギルドが受け持つ案件だ。


教師は苦笑する

「ギルドに報告するとともに、少し文句を言ってくる」


アルマが肩をすくめる

「頼む」


教師は三人を見る。

その目は厳しいが、どこか誇らしげでもあった

「お前たちは」


少し声を緩める

「しっかり休め」


そう言って背中を向けると

「後処理はこっちでやる」


三人は静かに頷いた。


―――――


夜・学院の寮。


部屋の中には、まだ戦いの余韻が残っているようだった。

窓の外は暗く、虫の声だけが聞こえる。

アルマはベッドに大の字で寝転がっていた。

包帯が腕や肩に巻かれている。

天井を見つめたまま呟く

「ちょっとさ……」


少し間

「死ぬかと思ったわ……」


声はいつもの調子だが、どこか力が抜けている。

ノエルが椅子に座りながら笑う

「ちょっとじゃないでしょ」


まだ顔色は少し青い。

魔力枯渇の疲労が残っている

「私、最後の魔法撃つとき手震えてたもん」


レオナが温かいお茶を差し出す

「無理もありません」


静かな声

「想定より遥かに強い魔獣でした」


アルマが起き上がりお茶を受け取り、一口飲む

「熊のやつさ」


巨大な爪、唸り声

「最初見たとき、これ無理じゃね?って思った」


ノエルも頷く

「思った」


レオナは小さく微笑む

「ですが」


二人を見る

「勝てました」


その言葉に、少しだけ静寂が生まれる。

アルマが頭をかく

「ノエルの氷が効いたのがでかかったな」


ノエルは肩をすくめる

「アルマが割ってくれたからだよ」


レオナが続ける

「二人の連携がなければ、核は破壊できませんでした」


アルマはしばらく黙る。

そして、ぽつりと笑う

「やっぱさ、三人だとなんとかなるな」


ノエルも笑う

「うん」


レオナも静かに頷く

「はい」


窓の外で夜の風が静かに吹いている。

三人の胸にはまだ戦いの興奮が残っていた。

だが同時に――

今日初めて、本当の命のやり取りをしたという実感も残っていた。

~~~~~~~~~~~~~~

数日後・学院の研究室。

机の上には、砕けた魔獣の核の破片が並べられていた。

赤黒い結晶。

光を失っているが、まだわずかに魔力の残滓を感じる。

教師と、学院の研究員が静かに話していた

「解析の結果だが――」


研究員が書類をめくる

「この核には、人為的な加工の痕跡がある」


教師の眉がわずかに動く

「人の手が?」


「断定はできないが、自然発生の魔獣核とは構造が違う」


細い魔力の流路・不自然な増幅痕。


研究員が言う

「誰かが強化した可能性がある」


教師は腕を組み窓の外を見る

「……目的はわからんがな」


低く呟く。

だが、今はそれよりも先にやるべきことがある。


―――――


その日の午後・学院の小さな会議室。

アルマ、ノエル、レオナの三人が呼ばれていた。

教師が椅子に腰掛けている。

机の上には、今回の任務の報告書。

教師は三人を順に見た

「お前たちは」


ゆっくり言う

「アレを討伐し、無事に帰ってきた」


あの巨大な熊型魔獣。

本来なら学生が相手にする規模ではない

「それだけで」


教師は続けて

「卒業するに相応しい腕になる」


静かな言葉。

学院では――

冒険者としてやっていけると認められた時点で卒業できる。

それが規則だ。

教師が聞く

「どうする?」


アルマが目を丸くする

「まじで!?」


椅子から少し身を乗り出す

「もう卒業できんの!?」


教師は肩をすくめる

「制度上はな」


部屋の中に少し沈黙が流れる。

ノエルがゆっくり口を開く

「私は……もっと魔法の勉強したいな」


視線を落とし

「まだ知らないこといっぱいあるし」


レオナも頷く

「そうですね」


静かな声

「独学では、まだまだ無理です」


電気魔法・治療魔法。

どちらも精密な制御が必要な分野。

学院で学べることは多い。

教師は三人を見る。

そして小さく笑った

「そうか。お前たちは、まだ自分がそのレベルになっていないと判断するのだな」


アルマが腕を組み少し考える。

「俺もさ」


頭をかく

「もっと強くなりたい」


熊型魔獣、巨大な爪…

一歩間違えば死んでいた

「今回、ちょっとギリギリだったし」


ノエルが笑う

「ちょっとどころじゃないでしょ」


レオナも静かに言う

「余裕はありませんでした」


教師は椅子に背を預け、ゆっくり頷いた

「よし」


机を軽く叩く

「ならば、まだ学院にいろ」


窓から差し込む午後の光。

三人の影が床に伸びる。

教師は穏やかに言う

「今の実力でも、外では通用する。だが、ここでもっと伸びる」

三人は顔を見合わせ同時に頷いた。


彼らの学院生活は、まだ終わらない。

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