学院編⑬
訓練場の端。
人だかりはまだ残っている。
その外れで、先輩の剣士は地面を見つめていた
「くそ……」
拳を握る
「なんなんだあいつ……」
あの動きを思い出す
「……あんなデタラメな動きで……」
型がないし構えも崩れている。
隙だらけに見えるのに、受けるたび腕が持っていかれた。
その時、背後から声がかかる
「お前は王都式の型の完成度が高い」
振り向くと、剣士科の教師だった。
先輩は歯を食いしばる
「だったらなんで負けた!?」
悔しさがそのまま声に出る。
教師は腕を組んだまま言う
「単純にアルマが強いからだ」
先輩は言葉を失う。
教師は続ける
「あの剣技はドワーフ族の型らしい」
ゆっくり説明する
「調べてみたが、本来は金槌やハンマーを両手に持ち」
地面に線を引くように手を動かす
「ドワーフならではの小柄な体格と筋力で、武器破壊や盾破壊を目的としているようだ」
先輩の頭に、さっきの衝撃がよみがえる
(……確かに……)
受けるたび、腕が震えた
(あれを鈍器でやられたら……)
剣がもたない。
教師が静かに言う
「王都式の型は、長い時を経て完成された一つの到達点だ」
騎士団の剣。重心移動、構え、合理性。
そして――
「アルマの型も」
教師の目が遠くを見る
「ドワーフ族が磨き上げた型の到達点の一つなのだろう」
歯を食いしばったまま、先輩は黙る。
悔しい、理屈は理解できる。
教師が歩み寄る。
ぽん、と肩に手を置く。
軽く
「世界は広いな」
先輩は目を閉じる。
訓練場の向こうでは。
アルマがノエルと笑いながら話している。
その隣に、静かに立つレオナ。
先輩はゆっくり息を吐いた。
そして――
「……まだだ」
小さく呟いた。訓練場の端。
夕方の光が砂を橙色に染めている。
先輩は腕をさすっていた。
痺れが残っている。
教師は腕を組んだまま、静かに言葉を続ける
「世界にはもしかしたら――」
少し視線を遠くへ向ける
「我々の知らない剣技や魔法があるかもしれん」
先輩は黙って聞いている。
教師は続ける
「武器を使用する魔族の伝説なんかもあるしな」
教師はゆっくり言う
「王都式はそれらに対抗するために編み出された型だ」
騎士団が何世代もかけて磨いた剣
「極めれば、剣では負けないはずだ」
先輩が顔を上げる
「……剣では?」
少し考えてから聞く
「剣以外には負けると?」
教師はあっさり頷いた
「そうだ」
先輩は少し驚くが教師は続ける
「魔法には魔法の強さがある」
「弓には弓の距離がある」
「治療には治療の価値がある」
少し間を置く
「そのために冒険者はパーティーを組み」
遠くで笑っている三人をちらりと見る
「騎士団はチームで動く」
先輩も視線を向ける。
アルマ。
ノエル。
レオナ。
三人で並んで笑っている。
先輩は小さく息を吐いた
「……なるほど……」
悔しさは消えていない。
だが、少し視界が広がった。
教師は最後に言う
「一人で勝とうとするな」
「剣士は前に立つ者だ」
そして肩を軽く叩く
「背中を預ける相手を見つけろ」
訓練場の空気は、もう昼の騒ぎとは違っていた。




