学院編⑨
掲示板の前でアルマの顔が引きつっていた。
「……薬草採集……だと?」
紙に書かれた依頼内容。
【学院指定・初級依頼】
【薬草採集(王都近郊・北林)】
【推奨パーティ人数:3~4名】
アルマは腕を組み、眉間に皺を寄せる。
「もっとこう……魔物退治とかさ!」
ノエルが苦笑する。
「……まぁ……最初だし?」
「でもよぉ」
「基礎依頼って書いてあるじゃん」
レオナは冷静に依頼書を読み直す。
「合理的です」
「どこがだよ」
「採集は周囲の警戒、役割分担、帰還判断を学ぶ基礎です」
淡々と説明する。
「それに」
レオナは少し視線を遠くへ向ける。
「封印石も探しましょう」
アルマの目がきらりと光る。
「それだ!」
勢いよく顔を上げる。
「山で見つけたあれ!」
ノエルが笑いをこらえる。
「まだ言う?」
アルマが身を乗り出し、大きな声。
「蓄光石!!」
レオナが静かに訂正する。
「ええ。蓄光石です」
ノエルがくすくす笑う。
「封印石じゃなかったね」
アルマは一瞬だけ気まずそうにし、すぐに笑う。
「でも光ってたろ!」
「あれは光を蓄えてただけです」
「でもロマンある!」
三人の間に、懐かしい空気が流れる。
山の温泉・小さな村・最初の“敵”。
あの頃はただの遊びだった。
今は違う。
「薬草採集でもいい!」
アルマが拳を握る。
「魔物出たら俺が前!」
ノエルが頷く。
「私が援護!」
レオナも静かに。
「怪我はさせません」
役割は自然に決まり、アルマは依頼書を掲げる。
「よし、初依頼だ!」
ノエルが笑う。
「派手じゃないけどね」
アルマはにやりとする。
「派手にすりゃいい!」
レオナが小さくため息をつく。
「薬草は丁寧に扱ってください」
王都北林、学院外での初活動。
薬草採集という名の、三人にとっての“最初の一歩”。
そして――
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王都北林
王都から少し歩いた先。
整備された街道を外れると、すぐに森の空気が濃くなる。
木々は高く、光はまだらに落ちる。
【とはいえ】
アルマが腕を組みながら歩く。
【山育ちのアルマたちには何も苦痛ではなかったのだった…】
わざとらしく低い声。
ノエルが吹き出す。
「そのナレーション風いる?」
レオナがくすりと笑う。
「よくある『フラグ』というやつですね」
アルマが振り向く。
「ちげーよ!」
胸を張る。
「実際、何も――」
ガサッ!
三人の足が同時に止まり、空気が変わる。
アルマは即座に剣を抜き、前に出た。
自然に構え、足が沈み、重心が落ちる。
(来るか?)
もう学院の見学ではなく、実地。
ノエルの指先に冷気が宿る。
レオナが一歩後ろへ。
音の方向を読む。
もう一度。
ガサッ!
草むらから飛び出してきたのは――
野うさぎ。
白い毛が陽に光る。
ぴょん、と跳ねて森の奥へ消えた。
アルマはゆっくりと剣を下ろし
「……まぁ、そうだよな」
少し肩の力を抜く。
「都合よく最初から事件なんて起きないかぁ」
ノエルが笑う。
「残念だったね?」
「残念じゃねー!」
レオナが周囲を確認する。
「警戒の反応は良いですね」
アルマは少し照れくさそうに鼻をこする。
「反射だ」
森の匂いと湿った土。
遠くの鳥の声。
三人は改めて歩き出す。
薬草の群生地は、北林の奥。
日当たりと湿度の条件が揃う場所に生えるらしい。
ノエルが地図を広げる。
「この辺りだよね」
レオナが地形を見渡す。
「谷になっている。湿度は足りています」
アルマが頷く。
「じゃあ俺、周囲見張る」
自然な役割分担、最初の依頼で派手さはない。
木々の影が、ゆらりと揺れた。
木漏れ日が差し込み、風が静かに葉を揺らす。
アルマは周囲を見渡しながら歩く。
「平和だなぁ」
ノエルがしゃがみ込む。
「あ、これじゃない?」
地面に群生する小さな青い葉をレオナが確認する。
「はい。依頼書にある“北林青葉草”です」
ノエルが嬉しそうに摘む。
「なんか普通だね」
アルマが笑う。
「最初の依頼なんてこんなもんかぁ」
三人は手分けして採集を始める。
アルマは周囲を見張りつつ、慣れた手つきで薬草を抜き、
ノエルは量を数えながら袋へ入れ、
レオナは傷んだ葉を選別する。
「根を切らないように」
「はいはい」
「再生に時間がかかります」
「わかってるって」
山育ちだから森の扱いには慣れているため、作業は順調だった。
アルマが空を見上げる。
「……普通過ぎる」
ノエルが笑う。
「何期待してたの?」
「ちょっとだけ魔獣とか」
「初日から魔獣とかやだよ」
レオナが穏やかに言う。
「基礎依頼は基礎を学ぶためのものです」
アルマは袋を縛る。
「まぁ、三人で外出られただけでもいいか」
それは本音だった。
薬草採集ーー地味だが、確実な一歩。
三人は予定量を回収し、森を後にする。
最初の依頼は、何事もなく――
つつがなく終わった。
そしてそれは、それで十分な成果だった。




