学院編⑧
ざわめきがまだ残る訓練場で、教師の声が響いた。
「さぁ、見とれている暇はないぞ!」
空気が引き締まる。
「あれは小柄なドワーフだからこそなせる技だ!」
視線がアルマから他の生徒へ移る。
「お前たちは王都式で上を目指せ!」
整然とした重心移動・型・連携こそが王都の剣。
アルマの舞うような動きは、誰にでも真似できるものではない。
剣士科の生徒たちは気持ちを切り替え、再び木剣を握る。
アルマは息を整えながら、柵の方へ走った。
「おーい!」
ノエルが真っ先に駆け寄る。
「すごい! かっこよかったよ!!」
目を輝かせている。
アルマは少し照れくさそうに鼻をこする。
「だろ!?」
レオナが近づく。
青い瞳がやわらかく細められている。
「いつのまにあんな動きを覚えたんですか?」
本当に不思議そうだ。
アルマは首をかしげる。
「覚えたっていうか……」
少し考えて、笑う。
「なんか、体が勝手に動くんだよな」
レオナはくすっと笑う。
「らしいですね」
嬉しそうだった。
周囲の魔法科の生徒たちもざわざわしている。
「あんなに小さいのに剣を軽々振ってる……」
「すごい……」
アルマはぴくっと反応する。
「小さいは余計だ!」
ノエルが笑う。
「でも事実だよ?」
「うるせー!」
けれど、口元は緩んでいる。
アルマは胸を張る。
「へっへー!」
少し得意げに。
「二人の魔法訓練見てたらさ、負けられないなって思って!」
ノエルが目を丸くする。
「え、私?」
「ノエルさ、無詠唱で凍らせてただろ」
「ちょっと凍っただけだよ」
「十分すげー!」
アルマはレオナを見る。
「レオナもさ、あんな静かに傷治して」
「仕事ですから」
「いや、あれはすげーよ!」
素直な言葉にレオナは少しだけ頬を赤らめる。
「……ありがとうございます」
三人の間に、自然な笑いが広がる。
魔法と剣、派手さと静けさ。
違う場所で鍛えながら、同じ方向を向いている。
アルマは拳を握る。
「三人で、もっと上行こうな」
ノエルが力強く頷く。
「うん!」
レオナも微笑む。
「もちろんです」
訓練場の喧騒の中、三人の並びは、もう学院の中でも揺るがなかった。
~~~~~~~~~~~~~~
入学から二ヶ月が経った。
学院の空気にも慣れ、授業や訓練の流れも身体に染みついてきた頃――
掲示板に新たな通達が貼り出された。
「パーティ編成について」
中庭がざわつく。
「ついにか」
「実地訓練始まるのか?」
内容は明確だった。
冒険者として活動していくためのチームワーク訓練。
即席でもいいし、固定でもいい。
基本は3~5人で1チーム。
それ以上は高度な連携を要するため、通常の冒険者はこの人数で活動する――とある。
***
昼休み。
三人は掲示板の前に並んで立っていた。
アルマが腕を組む。
「俺はもちろん」
即答。
「ノエルとレオナ!」
迷いがない。
ノエルがにっと笑う。
「決まりね!」
周囲で「もう決めてるのかよ」と笑い声が上がる。
レオナは静かに頷く。
「やっと三人で活動ができますね」
その言葉には、ほんの少しだけ嬉しさが滲んでいた。
アルマは拳を握る。
「ついにだな!」
これまでは別々の授業、別々の評価。
これからは――
同じ依頼を受け、同じ場に立つ。
ノエルが少しだけ真面目な顔をする。
「ちゃんと連携考えないとね」
アルマが胸を叩く。
「前は俺だ!」
「知ってる」
「ノエルが後ろから撃つ!」
「撃つ」
「レオナが支える!」
「支えます」
三人で顔を見合わせる。
当たり前の並びだったが、今度は“正式な形”になる。
周囲では他の生徒たちが慌ただしく声を掛け合っている。
「前衛足りねぇ!」
「魔法科から誰か来て!」
「回復役いないと無理だろ!」
その喧騒を横目に、三人は静かだ。
迷いがない。
アルマはにやりと笑い
「俺たち、バランスいいよな」
ノエルが得意げに言う。
「火力あるし!」
レオナが冷静に補足する。
「持久戦も可能です」
アルマは空を見上げる。
(二ヶ月前は、見学だった)
今は違う。
「よし」
声が低くなる。
「最初の依頼、派手にいくぞ」
ノエルが笑う。
「まずは基礎依頼からでしょ」
レオナも頷く。
「焦らず、確実に」
アルマは肩をすくめる。
「分かってるって!」
けれど目は燃えている。
三人のパーティが、正式に動き出す。
学院編は、次の段階へ進もうとしていた。




