学院編⑦
午後の訓練場。
アルマは、ひたすら大剣を振っていた。
振り上げて、振り下ろす。
横へ跳び、回転し、再び叩きつける。
砂が舞い、汗が飛ぶ。
「おいおい……」
剣士科の男子が笑う。
「ただ振り回してるだけじゃねーか」
「力任せだな」
確かに型がなく、教本にある構えでもない。
踏み込みも、王都式の重心移動とは違う。
アルマは聞こえていないかのように振り続ける。
右へ跳び着地と同時に回転。
遠心力を乗せ、斜めに薙ぐと砂が円を描く。
教師が腕を組んで首を傾げた。
「……何の動きだ?」
目を細める。
「踊っている?」
そのとき、通りかかった別の教師が足を止めた。
低い声で
「おぉ」
短い髭を撫でるドワーフの教師だった。
「懐かしいのぅ」
剣士科の教師が振り向く。
「知っているのか?」
「あれは……ドワーフ族の剣技ではないか?」
周囲が静まる。
アルマは知らない。
ただ身体が動いている。
跳び、回り、叩きつける。
ドワーフ教師が続ける
「王都式――騎士団の剣は、型と重心移動を重んじる」
静かに解説する。
「だがドワーフの剣は違う」
アルマが横へ跳び、地面を蹴り、回転。
「舞うのだ」
上下左右へ跳びながら、武器に遠心力を乗せる。
「一見、隙だらけに見える」
実際、今のアルマは脇も背も空いている。
「だが、巻き込まれればただでは済まん」
回転の軌道に入れば、鎧ごと持っていかれると、
剣士科の生徒たちが真顔になる。
「なのでの」
ドワーフ教師が腕を組む。
「ドワーフと剣で戦うのは愚策だ」
砂を蹴るアルマを見つめる。
「定石は槍」
距離を取り近づかせずに突く。
それが王都の戦い方。
アルマは最後に大きく回転し、剣を地面に突き立てた。
息が荒くなり汗が頬を伝う。
周囲が静まり返っているのに気づき、きょとんとする。
「……な、なんだ?」
剣士科の教師が低く言う。
「誰に習った」
アルマは首をかしげる。
「え?」
「その動きだ」
「知らねぇ。なんかこう、振りやすいように振ってただけだ」
ドワーフ教師が小さく笑う。
「血は正直じゃの」
アルマはぽかんとする。
「血?」
「ドワーフの剣は、身体で覚えるものだ」
理屈よりも、感覚。
山で岩を担ぎ、斜面を駆けてきた身体。
自然と身についた重心。
剣士科の教師が頷く。
「荒いが理にかなっている」
アルマの胸が熱くなる。
(俺の動き……間違ってなかったのか)
笑っていた生徒たちも、もう笑っていない。
アルマは大剣を担ぐ。
目が燃えている。
「もっと速くなる」
呟く。
ドワーフ教師が低く笑う。
「ならば足腰を鍛えよ。舞い続けられる体をな」
アルマは大きく頷くと大粒の汗が地面に落ちる。
王都式とは違う。
だが、それが自分の道。
三人の中で最前線に立つための――自分の剣だ。
見学者がやってきた。
魔法科と治療科の生徒たちが、柵の向こうに並んでいる。
空気が違う。炎も氷もない。
あるのは――
汗と、土煙と、怒号。
「踏み込みが浅い!」
「腰を落とせ!」
木剣がぶつかり合う音が響く。
魔法科の生徒が小声で言う。
「……雰囲気、全然違う」
治療科の生徒も頷く。
「すごい熱気ですね」
アルマは訓練場の中央に立っていた。
教師が低く言う。
「よし、アルマ」
視線が集まる。
「ショートソードに持ち替えてやってみろ」
ざわ、と空気が揺れる。
「あの大剣じゃないのか?」
「軽い武器でどうなる?」
アルマは迷いなく短剣よりやや長いショートソードを握る。
「うっす!」
軽い。
手首が自由だ。
遠くから声が飛ぶ。
「アルマー! 頑張れ!」
ノエルだ。
両手を振っている隣でレオナがにこやかに手を振る。
その姿を見た瞬間――
アルマの目が細くなる。
(見てろよ)
構えた次の瞬間、地面を蹴る。
横へ跳び。着地と同時に斬り、回転してさらに斬りつける。
動きは止まらず跳び上下左右へ舞う。
まるで重さを忘れたように遠心力を乗せる。
回転のたびに速度が増していく。
「な……」
見学席から息を呑む声。
「あいつ……剣を持つ手を切り替えてる……」
右から左へ、左から右へ。
動きの流れを止めない、止まらない。
斬撃が連続する。
型ではないが、流れがある。
ショートソードが空気を裂き、銀の軌跡を描く。
魔法人形の腕が落ち、胴が削れる。
脚に傷が刻まれ、砂が舞い上がる。
アルマの呼吸が荒くなるがそれでも回る。
跳ぶ。
斬る。
やがてーーーー
「……はぁ……!」
最後の一撃。
踏み込み、斜め上からの振り下ろし。
静寂。
息を切らして止まった頃には――
魔法人形は、原形を留めていなかった。
腕は裂け、胴は深く刻まれ、関節は粉砕されている。
一瞬の沈黙。
「……すげぇ……」
誰かが呟くとそれが波のように広がる。
「速すぎる」
「さっきの大剣より怖いぞ」
魔法科の生徒も、治療科の生徒も、目を見張っている。
ノエルが満面の笑みで叫ぶ。
「アルマ、かっこいい!」
レオナも穏やかに誇らしげに頷く。
教師が腕を組み
「力だけではないな」
低く、しかしはっきりと。
「それがお前の剣か」
アルマは肩で息をしながら笑う。
「……まだ、もっと速くなる」
汗が滴り胸が高鳴る。
最前線に立つ者として。
二人に見せる剣として。
学院の訓練場で――
アルマは確かに、一歩抜け出していた。




