学院編⑥
午後。
剣士科の教官が腕を組みながら言う
「剣士は前に立つ。だが一人で戦うわけではない」
訓練場の空気が引き締まる。
「魔法科と治療科の訓練を見学する。パーティを組むなら、後衛を知らずして前衛は務まらん」
ざわ、と生徒たちが動く。
アルマは内心わくわくしていた。
(ノエルたち見れるのか)
***
魔法科の演習場。
属性別の実習が行われている。
炎が走り、風が巻き、土が隆起する。
剣士科の男子たちから思わず声が漏れる。
「おぉ~……」
「派手だな」
「当たったら終わりじゃね?」
アルマは目を輝かせて探す。
「あ、いた!」
ノエルが前に出て両手を掲げる。
冷気が集まり――
空間が白く染まる。
魔法人形の腕が一瞬で凍りつき、ぱきんと音がして氷が厚みを増す。
「おお……」
剣士科から再びどよめき。
アルマが両手を振る。
「ノエルー! かっこいいぞー!」
周囲が一瞬静まり、ノエルがこちらを見る。
そして、少し照れながら手を振り返す。
頬がほんのり赤い。
「アルマ知り合い?」
隣の男子が肘でつつく。
「可愛い子だな」
アルマは胸を張る。
「幼なじみだ!」
誇らしげだ。
「パーティは俺が先約済みだぞ!」
周囲が笑う。
「はいはい」
「もう決めてんのかよ」
「気が早いな」
アルマは気にしない。
視線はノエルに向いたまま。
(やっぱすげぇな)
派手で、速くて、強い。
自分の背中を預けられる。
***
続いて治療科。
こちらは静かだ。
模擬負傷した人形を前に、学生が回復を施している。
レオナの番になると、目を閉じ呼吸を整える。
淡い光が掌に宿る。
紫がかった細い電流が走る。
傷口が、静かに塞がっていく。
剣士科の生徒が小声で言う。
「地味だけど……すげぇな」
「戦闘中あれできたら安心だろ」
アルマは小さく頷く。
(あいつは後ろにいる)
戦うのは自分。
だが倒れたとき、立たせるのはレオナだ。
教官が低く言う。
「前衛は派手だ。だが後衛が崩れれば終わる」
アルマの目が真剣になる。
魔法と回復。
その両方を見て、胸の奥が熱くなる。
(早く、組みてぇな)
まだ正式なパーティではないが、三人で立つ日をもう想像している。
見学が終わり、アルマは腕を組みながら呟く。
「よし」
「どうした?」
隣の男子が聞と、アルマはにやりと笑う。
「俺、もっと強くなる」
前に立つ者として。
背中を預ける者に、恥じないように。
学院生活は、確実に三人を前へ進ませていた。
~~~~~~~~~~~~~
魔法科の氷が砕け散る音。
治療科で傷が塞がる静かな光。
その両方を見たあと、アルマの胸の奥は、じりじりと熱を帯びていた。
(やっぱノエルとレオナはすげーよなぁ)
ノエルは、前よりずっと鋭くなっている。
レオナは、迷いがない。
自分だけが、その場にいないような気がした。
ならば――
アルマは拳を握りしめた。
「俺は! 強くなる!!」
剣士科の見学隊列の中で、唐突に叫ぶ。
周囲がびくっとし教師がゆっくり振り向いた。
「うむ」
低く、しかし肯定する声。
「せっかく学院に入学したのだからな。しっかり強くなれ」
その言葉は叱責ではなく期待。
アルマは一歩前に出る。
「トレーニング用の重い武器を貸してほしーです」
周囲がざわつく。
「え?」
「今より重いの?」
教師はじっとアルマを見つめる。
「今使っている大剣でも十分重いはずだ」
「足りねーです」
即答だった。
「もっと速く振れるようになりたい。もっと踏み込めるようになりたい」
言葉に迷いがない。
教師の口元がわずかに上がる。
「ほう」
「重い武器は誤魔化しが効かん。身体の軸が甘ければ自分が倒れる」
「はい!」
「振れぬ重さなら怪我をする」
「振ります!」
周囲がくすくす笑う。
だが教師は真面目だ。
「よかろう。倉庫にある“訓練用特大剣”を使え」
生徒たちがざわっとする。
「え、あれ?」
「成人でも両手必須のやつだろ」
アルマの目が輝く。
「それです!」
教師は短く告げる。
「ただし、無茶はするな」
「無茶じゃねーです」
アルマはにやりと笑う。
「成長です」
訓練場に戻り、倉庫から特大剣が運ばれてきた。
幅も厚みも、先ほどのものより一段階上。
ずしり、と重い。
周囲が見守る中、アルマは両手で握り、地面に足を沈める。
(ノエルは後ろから撃つ)
(レオナは支える)
(俺は、倒れない)
振り上げると、重い。
腕が震える。
それでも――振り下ろす。
ドンッ。
衝撃が足元から伝わる。
まだ遅い、まだ粗いがアルマの目は燃えている。
教師が低く言う。
「その意気だ」
アルマは息を荒くしながら笑った。
「……もっといける」
遠くで、ノエルとレオナがこちらを見ている。
アルマは気づいていない。
三人はそれぞれの場所で、同じ方向を向いていた。




